31話:呼び出しマンに呼び出される
「どうせ職場体験するなら、うーんと格好良く大活躍できるトコが良いですの」
「えーとー。今はー、B級の案件くらいしか無いけどー」
「それじゃダメですのー! Sが良いですのー!」
というフォルのわがままで、召喚先が中々決まらない。
気に入る召喚先が現れるまで暇になったので、先ほどの『休日の過ごし方』の話題で雑談していたという訳だ。
そして昼前になり、ようやく……
「あー。新しい召喚魔方陣きましたー。召喚術師の強さ、だいたい888兆ー。超特(SS)級でーす」
「えすえす。ですの!?」
鑑定係は召喚術師の戦闘力を計測し、ランク付けをおこなっている。
数多の異界に存在する住民の平均戦闘力を1とし、召喚術師の戦闘力が1兆から1000兆の間だと『超特(SS)ランク』の案件となる。
「格好良いですのエスエス。エスでも凄そうなのに、二つ重なってなんか強そうですのー! お兄様。わたくし、この召喚陣でよろしくってよ」
本当はエスが三つ重なったSSS級が、もう一つ上にあるのだが……フォルがそれを知れば下手すると何週間も待っていそうなので、我も鑑定係も黙っていた。
ちなみに原則として、召喚獣は召喚術師よりも強くなければならない。
そしてフォルの戦闘力は、
「……あー。フォルちゃんも『計測不能』ー。7777兆超えですねー。王族ってのはどいつもこいつもー」
◇
そうして我とフォルが召喚された世界。
召喚術師はSS級。全異世界平均の888兆倍強い男であるが、相当切羽詰まっていた。
「禁じられた邪悪黒界の呼び出し術……まさか、こんなものに頼るとは……」
と、召喚された途端に「不本意なんだけどな~」と言いたげなセリフを投げつけられてしまったのだ。
「いや……ごめんなさい失言です。せっかく来てくれたのに」
召喚術師はそう言って頭を下げた。
見た目は我ら悪魔族に似ている。ただし額に目がある、三つ目の若い男だ。
「あら? あらら? 邪悪黒界って魔界のことですの? なんだか格好良い名前ですの」
フォルは召喚術師が呟いた単語に、過剰反応している。
「今日から魔界を邪悪黒界に改名致しましょう、お兄様!」
「長くて言いづらいし、改名の要望は我でなくマートに言え。それに邪悪黒界という名は、魔界の十万歳を越えた爺さん婆さんどもが今でもたまに使っている名称だ」
「あら? 現役のお名前でしたのね。知りませんでしたのー」
「ふむ……だが、この世界で聞くとは……」
我は三つ目の召喚術師を見た。
彼は緊張した面持ちで大汗を流している。額の目に汗が入りそうで、見ている方も何だかハラハラする。
邪悪黒界という古き名を使っている。つまりこの世界には、かなりの大昔から魔界との繋がりがあった……のかもしれぬ。
それに『呼び出し術』。
呼び出し術とは、やはり大昔に使われていた言葉だ。祖母殿から聞いたことがある。
レンタル召喚術ではない。
真の『召喚術』を指す。
とは言え、真の召喚術とはとっくに失われた商売。
あくまでも普通のレンタル召喚を、昔ながらの呼び出し術と呼んでいるのであろう。
だが邪悪黒界にしろ呼び出し術にしろ、古風であまり使わぬ言葉だ。
我ながら珍しい心持であるが、少しばかりこの世界に興味が湧いてきた。
「召喚術師よ。貴様の望みはなんだ?」
「僕の望みは……世界を救う事です」
召喚術師が、ゆっくりとした口調で言い放った。
世界を救うとは、また大層な願いであるな。
「世界を救うんですの!? 伝説の勇者なんですの!?」
「勇者……かもしれないですね。僕は……この世界の『ヒーロー』の一員……」
「ひーろー!? 凄いですの!」
フォルがまたもや過剰反応している。
しかしヒーローとは、悪魔とは相性が悪そうな召喚術師だな。
魔界の召喚術を『禁じられた術』と呼んでいたが、ヒーローならばそれもやむを得ないか。
そしてヒーローは己の胸に手を当て、名をなのった。
「僕の名は……『呼び出しマン』」
………………
「……格好悪いですの」
「我もそう思う」
フォルのテンションが下がった。
我も少しだけ、この世界への興味が薄くなった。
「その名の通り、呼び出し術を得意とするヒーローです……邪悪黒界の呼び出しは初めてだけど……」
台詞から察するに、普段は『魔界のレンタル召喚』以外のレンタル召喚をおこなっているらしい。
レンタル召喚とは魔界の専売特許ではない。
別の世界でも似たような商売をやっているのだ。
「ここにはいないけど、仲間である『殴る蹴るマン』と『木刀で殺すマン』……三人で、宇宙最強のヒーローチームを組んでいました……自分で言うのもなんだけど、本当にこの宇宙で最強のチームです」
「そうか。この宇宙最強なのか」
奇遇にも、魔界の魔王の称号と同じだな。
「宇宙ヒーロー連盟からも最強認定されて、名実ともに最強チームです……いえ、最強チームでした……あいつらが現れ、宇宙を支配すると言い始めるまでは……」
ああ、だいたい分かった。もういい。
一々ゆったりした口調で、一言一言が長いし。
「その『あいつら』とやらに負けて、殴る蹴る木刀マンの二人が殺されたのか? だから召喚術で我を呼び出し、『あいつら』と戦わせたいという訳か?」
我が問うと、呼び出しマンは、
「…………………………はい……」
と、たっぷり間を使って肯定した。




