29話:休日ラブコメっぽい話
フォルは母親に腕と耳を掴まれ、魔王城へ帰っていった。
二十日間ずっと気絶していたサディートも復活。帰宅途中に「娘が迷惑をかけたお詫びです」と、チョコボールを箱買いしてくれた。
二十日断食で腹が減っていた我は、一気に貪り食った。
かくして従兄弟とその娘の騒動は治まった。
天界との報復バランスも適度な形に落ち着き、元の鞘へ。
我も日常に戻る。
翌日、いつも通りの出勤。
二十日間も一つの世界に召喚されっぱなしだったので、新たな世界へ行くのは少々楽しみでもある。
召喚斡旋所へ行き、今日こそは元気な笑顔で「皆さんこんにちは。今日も一日ご安全に!」と愛想を振りまこうと意気込んでいると、
「あー。おはようございます陛下ー。今日明日はー、お休みでーす」
休みだった。
斡旋所入り口にて、銀髪ゴシックドレス姿の鑑定係が『設備点検のため臨時休業』と書いた紙をテープで固定していた。
その文を読んだ召喚獣たちは、すぐに回れ右して帰っていく。
「点検か……何の設備が壊れたのだ?」
「何も壊れてませーん。ただ私がー、二十日も連勤しちゃったんでー『振替休日取らないと労基に怒られるから休め』なんて言われちゃってー。たぶん陛下もー、休んどかないと怒られちゃいますよー?」
「そういう訳か。うむ、休みは大切だ。それに怒られるのは嫌だ」
鑑定係の業務は、『召喚術師の強さを数値化する』という特殊な能力が必要。今のところ替えがいない。
彼女不在では、召喚案件のランク選別が出来ず仕事にならぬ。
よって、彼女が休暇を取ると必然的にレンタル召喚業務全体がストップするのだ。事務仕事がある斡旋所職員はともかく、召喚獣は完全に全員共連れで休みとなる。
「でも正直に『私が休みだからー、みんなも休みでーす』って言ったらヒンシュクかうしー。だから設備点検って建前にしてまーす」
なるほど。そういうものかもしれないな。
と納得していると、鑑定係が、
「あ、それと私んちって斡旋所の中にあるからー、『出社してんじゃん』ってツッコミは無しでお願いしまーす」
などと言いつつ我に近づき、何故かテープを我の服に張り付け「ふふふー」と笑った。
「しかし休みか……急に暇になったな」
「私もー。休みになってー暇なんですよー」
「そうか」
「暇なんですよねー」
「そうか」
「暇でーす」
鑑定係は、じっと我の目を見つめてきた。
……………………
「なんだ、今の間は?」
「……あのー陛下ー。暇な二人が揃ったんだからー、『一緒にどっか遊び行こーぜ』とか言ってくれないとー。困るんですけどー」
再度テープを我に張り付けながら、鑑定係が諫めるように言った。
一体どうして何について困るのかは分からなかったが……しかし、困るらしい。
「それはすまなかった。では『一緒にどっか遊び行こーぜ』と言えば良いのか?」
「はーい。陛下が誘ってくれるんならー、陛下の奢りで遊びに行きまーす」
「うむ……うん? いや、今のは貴様の言葉を真似ただけで」
と我が言っても、もう遅かった。
鑑定係は地面まで垂れている長い銀髪を魔法で一気に編み纏め、外出しても問題なさそうな髪形へと変貌。
完全に遊びの準備万端だ。
しかも我の奢りらしい。
「どこに行きますー? 陛下の好きなトコに連れてってくださいねー。あーでも、人混みキツいトコはダメでーす。ふふふー」
◇
我と鑑定係はとりあえず斡旋所を離れ、魔界の大通りへと出た。
「だが遊びに行くと言っても、我は庶民の遊びを知らぬ」
「そうなんですかー。えらーい王族サマですもんねー」
鑑定係は何かトゲのある言い方をし、笑いながら我の顔を見た。
彼女は我より背が低いため、下から覗き込むような体勢になっている。
「陛下は普段の休日ー、何やってるんですかー? あ、別に陛下のこと知りたいって訳じゃないですけどー。他に話題も無いので聞いてあげまーす」
と、悪戯っぽい表情で尋ねてきた。
休日か。そうだな……
「ホテルでオヤツを食べている」
「へー。そう言えば陛下はー、まだ住むトコ決まってないから、ずっとホテル暮らしでしたねー。でー、オヤツ食べる他にはー?」
他に……食べる以外に、何かやっていたかな……?
「……うむ。他には特に何もやっていない」
「へー。ずっとお菓子食べてるんですかー。糖尿まっしぐらだー」
「野菜も食べているぞ」
「なら安心ですねー。ふふふー」
鑑定係は笑うたび、何故か我の腕を叩いてくる。
「王族の人も俗っぽい休日過ごしてるんですねー。魔王様やってた頃はー、休みに何やってたんですー?」
「魔王の頃か……」
我は己の過去を思い返してみた。
魔王の頃は、確か……
「そもそも休みなど無かった。まああえて言うなら、たまに魔界名物ヘルみかん温室栽培の査察業務があったが、それがちょっとした息抜き代わりだった」
みかんも貰えたしな。
「えー。ブラックにも程がありますねー。休み無しなんだー。」
「仕事と仕事の間にちょっとした休憩ならあったぞ。そういう時は姉上やフォルがやって来て、遊べとせがまれた」
「お姉さんって、あのおっぱい大きな人ですねー。そしてフォルっていうとー、外務大臣の娘さんかー」
思えばフォルは昔から『魔王VS勇者ごっこ』をやりたがっていたな。フォルが勇者役で。
とは言え、遊びだろうが勇者のフリをするのは倫理的に宜しくないため、我はずっと断り続けていた。しかし結局フォルは隠れて異界で勇者ごっこをやっていたのだから、子供は難しいものだ。
「でも陛下、子供と遊ぶんだー。いがーい。どんな遊びしてたんですー?」
「遊ぶというか、買い物に連れて行ったくらいだな。異界の商品を扱っている、馴染みの行商人がいる。そこへ行けば珍しい菓子や書籍や玩具を買える」
魔王時代だけでなく、今もその行商人の元へ通っている。
地球産の菓子は、そこでしか手に入らぬのだ。
「へー。王族もショッピングするんだー。それじゃあー」
隣を歩いていた鑑定係が、急に我の前へ出て立ち止まった。ゴシックドレスがひらひらとなびく。
「私も同じようにー、そこに連れてってくださーい。だめー?」
そう言って小首を傾げる。
別に断る理由もない我は、
「良いだろう」
と承諾した。
そしてフォルを連れて行った時と同じように、はぐれないよう鑑定係と手を繋ぐ。
「うあ……!?」
突然、鑑定係が目を大きく見開いた。
見る見るうちに、顔が真っ赤に染まっていく。
「どうした?」
「……べ、別にー……あのー陛下ー。家族でもない女の子の手を握るのはー、セクハラですよー。弁護士呼んでくださーい」
「何! セクハラだったのか!」
ついフォルを相手にする時と同じように手を繋いでしまったが、それは間違いであったか。
しまった。コンプライアンス違反で問題になると、「王族なのに何をやっているのですか(眼鏡チャキッ)」とサディートあたりに怒られてしまう。
「それは済まなかったな。訴訟はやめてくれ」
「えー。どうしよっかなー。ふふー」
我はすぐさま手を離した。
すると鑑定係は「あっ……」と言葉をこぼす。
「……別にー、離さなくても良いんですけどー……」
小さい声で何かを呟いた。
しかしコンプライアンスのことを考えていた我は、つい聞き逃してしまった。
「何か言ったか?」
「何も言ってませーん。死んでくださーい」




