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28話:お尻

 長きに及ぶ我とフォルとの戦い。

 というか一方的にフォルが攻撃し、我が避けるだけの攻防。


 二十日目にして、飲まず食わずで流石に足がふらついてきたフォルを、やっとどうにかようやく捕まえることが出来た。

 魔法で生み出した頑強なロープで、フォルの手足を捕縛する。


「うあうあーん。お兄様、お離しになってー」

「もう離さぬ。我はお前の母親から、『フォルが悪戯をした時は容赦なく仕置きしてくれ』と頼まれたことがある。サディートも承知済みだ」


 ちなみにそのサディートは、娘に嫌われたショックで二十日間寝込んでいる。

 時々目が覚めては、


「嫌な夢を見ました……私が娘に嫌われるという、あり得ないドリームを……」

「あー、それ現実ですよー。ほら異界で今、先王陛下と娘さんが戦ってまーす」

「…………(気絶)」


 というのを繰り返している。

 毎日サディートの奥方が斡旋所へやって来て、着替えを差し入れているらしい。


 だがそんなサディートの夢うつつな日々も、これで終わりとなるだろう。

 さっさとフォルに仕置きし、魔界へ強制帰還させねばな。


「どうしてですの? どうして、わたくしがお仕置きされないといけませんの? 密入国したからですの?」

「いいや違う。子供が密入国しても大した問題にはならぬ」

「この世界のモンスターさんや犯罪者の人間さんを、たーくさん殺したからですの?」

「違う。それもどうでもいい。というか気付いていないようだが、人間どころか神まで殺しているぞお前」

「お兄様が目付き悪くて、人相悪くて、顔が怖いって事実を指摘したからですの?」

「……違う。そもそも事実ではない。怖くない」


 我は少しだけフォルの縄をきつくした。「あうぅん!」と幼い叫び声が上がる。

 別に大人げない理由で縛り上げたのではないぞ。思っていたよりも、まだ元気が残っているようだったからだ。


「お前の咎められるべき悪戯は二つだ。まず一つ目は悪魔のくせに『光の者』である勇者を自称し、実際に勇者としての行動を取ったこと……そして二つ目は──こちらの方が重大な理由であるが──我の仕事の邪魔をしたことだ」

「そっ……そ、そんな……一つ目はともかく、二つ目は単なるお兄様の個人的な理由でなくって?」

「そうだ。密入国の件や、二十日間も帰っていない件については、城に戻ったあと両親とゆっくり話し合うのだな」


 我がそう言うと、フォルを涙目で頬を膨らませた。


「さて……仕置き方法は、お前の母親に習うとしよう」

「ええ!? ヤダヤダヤダですの! きゃあっ! やめてくださいましー!」


 我は左腕で、暴れるフォルの腹を抱え上げた。

 フォルのパンツを脱がし、小さな臀部を露わにする。


「お兄様ったらえっちぃですの!」

「えっちではない」


 そして我は右手でフォルの尻を叩いた。


「うぁ、痛いですのー! お兄様、もう許して……ああんっ!」


 これは俗に言う、お尻ぺんぺんと言うやつだ。


「やっ、やめ……あぅん……もうお嫁さんになれませんの……きゃあん!」

「お前の尻より、仕置きをする我の心の方が痛いのだぞ……などと言いながら尻を叩け、とお前の母親に言われている」

「許してですのー! やぁんっ」


 そうして三十発の尻打ちを実施した。

 仕置きが終わる頃には、フォルは呼吸を荒げ汗まみれになり、ぐったりと脱力していた。


「うぅぅ……お兄様、いぢわるですの……」




 ◇




「マジサンキューっス邪神さん。神を殺して、勇者を異界に引き取ってくれて! これでこの世界は僕のものっスね!」


 魔王ヨッピーはそう言って、我の両手を握った。

 こやつは二十日間、ずっと我とフォルの応援をしていた。ジュースやポップコーンを片手に。

 我は飲まず食わずで戦っていたのに……文句がある訳ではないが、心にモヤモヤが残るぞ。


「メッシュお兄様、離してくださいましぃ……」


 背中越しにフォルが囁いた。

 我は今、手足を縛りあげたフォルを背負っているのだ。


「いやー、勇者とはいえ少女のお尻を暴行して無理矢理従わせた時は、マジヤベーって思いましたスけど」

「誤解が生じそうな言い方はやめろ」

「でもその邪悪な魂を僕も見習って、これからはこの世界を闇に染めていくっスよ!」


 この全体的に軽そうな思考をしているヨッピーが、果たしてどれだけ世界を闇に染められるか分からぬが、


「まあ頑張れ。この神亡き後の世界を最低最悪の国にしてみせろ。期待しているぞ」

「ご期待アリャーっス!」


 いまいち不安だが、今後のこの世界の支配方法などは、我が口を挟むようなものではない。

 我は『神と勇者を倒す』というヨッピーの願いを叶え、レンタル召喚獣としての役割を全て果たしたのだ。これ以上関わるのは得策ではない。

 まあ勇者は倒したというか、持って帰るのだが。


「ただ一つだけ忠告するならば……神は死んだが、おそらく後任の新しい神が天界より派遣されてくるであろう。だからあまり安心は出来ないぞヨッピー」

「えええ!? マジスか……へこむ」

「しかし神のお役所対応はいちいち時間がかかる。数十年……運が良ければ数百年は神不在となるであろうから、その間にしっかりと足場を固めておくことだな」

「マジスか! いや百年って、めっちゃ適当っスね神!」


 我もそう思う。

 寿命が長い分、感覚がズレているのだろう。

 神となって百年目の女神が未だにルーキー扱いだったり、とにかく気が長い。


「と、話はこれくらいにして、我はそろそろ帰るとしよう」

「うス……寂しくなるスね。脳みそ将軍と筋肉大臣には宜しく伝えとくっス!」

「うむ。将軍と大臣には一度会ったきりで、二十日も経ってしまったので顔も覚えていないが……一応頼む」


 我は地面に帰還用の魔方陣を発現させた。

 早く帰るとするか。先ほどからフォルが、最後の抵抗とばかりに我の耳を噛んでくる。噛みちぎる程の力はないが、ヨダレまみれになる。


「お兄ひゃまー! こんにゃことれは、こにょ勇者フォルテ・フェニックス・ケルケイオンは挫けまひぇんころよー! ジャスティス・リベンジー! でひゅの!」

「お前も懲りぬ子だな。耳を舐めながら喋るな」

「子供ひゃありゅまへんのー!」


 騒ぐフォルを背負ったまま、我は魔方陣の中央へ立った。


「邪神さん! 縁があったらまた会えるっスよね!」


 陽気に手を振る魔王ヨッピーを見ながら、我は魔界へと帰還した。



 ──『神の支配』から『魔族の支配』へと時代が移った、この世界。


 今後一体、どのような未来が待っているのか。

 とりあえず我が予想できることは、ヒップホップダンサー風のファッション流行はあまり長く続かないであろう……という事だけだ。動きにくいから。


中二病……イトコの娘のフォル編、おしまいとなります。

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