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26話:子供にはそういうアレな時期もある

「えーとぉ。メッシュお兄様……う、うふふ。えっと、そうだ! お兄様。ヒップホップのお姿、お似合いですの♡」


 フォルは我の格好を褒め、無理矢理話題を逸らそうとした。

 が、当然ながら無駄だ。


『フォル! ふぁおおおおる! あなた、こんな所で何をしているのですか!?』


 サディートが半狂乱になっている。

 声しか聞こえぬが、きっと眼鏡を光らせる余裕も無いであろうな。


「ああ、この声はもしかして……お父様も見てますの?」

『その通りです!』

「ああぁ~ぁ……」


 フォルは顔面に大量の汗を流し、目が泳いでいる。


 しかし我も意味が分からない。

 こんな異界の地で、フォルは何をしているんだ?

 フォルは王族の娘。言ってみれば姫。どうして魔界の姫が異界で勇者を?

 ご丁寧に勇者っぽい服と鎧まで身に着けている。剣は持っていないが。


 フォルは養子であり、実は勇者の系譜であった……などという展開はあり得ない。

 母親の腹が膨らんでいる時から知っている。フォルは確実に悪魔の娘だ。


 よし。本人に聞いてみよう。


「何故フォルが勇者をしているのだ?」

「そ、それは……あの……趣味ですの」

「そうなのか、悪魔にしては変わった趣味だな。それと先程名乗った『フォルテ・フェニックス・ケルケイオン』とは何だ? お前の名前はフォルティッシロイオンであろう?」

「そ、それは……あの……この世界でのわたくしの名前ですの」

「この世界での? 他所に行ったからと言って、名前が変わる訳ではあるまい。あと『聖紋章』とは何だ?」

「そ、それは……うぅぅ……」


『陛下ー。公開処刑はーほどほどにー』


 鑑定係が諫めるように言った。

 別に処刑などしていないが……


「……メッシュお兄様。いぢわるですの……!」


 フォルは顔を真っ赤にし、涙目で膨れっ面になっている。

 そして鼻息荒く憤っていたサディートは、我とフォルの会話を聞き少々落ち着いたようだ。


『趣味。仮名。なるほど、勇者ごっこをしていたという訳ですか。フォル』

「ご、ごっこじゃありませんの! わたくし、ここでは真の勇者ですことよ! 皆から崇められてますの! ご馳走とか貰ってますの! 口には合いませんけど」

『知らない人から食べ物を貰うのはやめなさい。晩ご飯が食べられなくなるでしょう』

「食べられますの! わたくし、ご飯をいーっぱい食べられますの!」


 サディートと入れ替わりに次はフォルが憤った。

 地団駄を踏み、床板が割れる。


『そもそもその世界は、魔界との通行ゲートが正式開通していないはず。抜け道(・・・)の召喚獣でもないのに、そこにいるという事は……フォル。あなた、密入国していますね?』

「うぅ、それはその……」

『とにかくママゴト遊びはやめて、今すぐ帰ってきなさい』


 フォルは「ママゴトじゃありませんの……」と、ますます膨れっ面になる。

 しかし親子喧嘩もそろそろ終わりにして欲しい所だ。


「そういう訳だフォル。我は仕事なので送ってやれないが、一人で帰れるか?」


 我は努めて優しく言った。

 しかしフォルは、


「……帰りませんの。帰りませんの帰りませんの帰りませんの!」


 意固地になっている。

 実に子供らしい。


「ぜーったい帰りませんの! キライキライキライ! お父様もお兄様も、大っ嫌いですのー!」

『ききききききき嫌いだとおおおお!? あぅっ』


 ばたん、と倒れる音がした。


『サディートロイオン閣下! お気を確かに!』

『あーあ。倒れて泡吹いてるー』


 所長の慌てる声と、鑑定係のどこか楽しそうな声がする。

 どうやらサディートは、娘に嫌われたショックで気絶してしまったらしい。


「わたくし、ここでは勇者ですの! 伝説の勇者ですの! カッコいいんですの! 連れ返したければ、お力づくでどうぞ!」


 フォルはそう言って、両腕を一振りした。

 魔力の衝撃波が我に向かって飛ぶ。床板を剥がしながら迫ってくる。

 我は難なく避けたが、衝撃波は背後の壁へ激突。館が半壊した。


「うおっ、何!? あー邪神さん! 何やってるんスか。っていうか僕の耳! 僕の耳戻してオナシャス! って、その女! 勇者じゃないスか! 戦ってくれてるんスね! がんばれー! 負けないでー!」


 壊れた壁の向こうには魔王ヨッピーがいた。

 まあヨッピーはもう少し勝手に騒がせておこう。問題はフォルだ。


「メッシュお兄様……いいえ、魔王メシュトロイオン様!」

()魔王だ」

「お兄様は魔王、わたくしは勇者。つまり敵ですの。わたくしたち仇敵同士ですことよ! 聖紋章の勇者フォルテ・フェニックス・ケルケイオンが成敗して差し上げますの。お覚悟なさってくださいまし! ジャスティース・リターンズぅ!」


 フォルは戦う気満々のようだ。

 しかし弱った。まさか従兄弟の娘を殴る訳にはいかぬ。

 悪魔は冷酷非道を美徳とするが、身内には甘いのだ。


 怪我をさせないよう捕まえる事が出来れば良いのだが……

 しかしフォルは子供とは言え魔界の王族。初代『宇宙最強の魔王』の直系のひ孫だ。

 生半可な気持ちでは戦えぬ。


「とおっ、ですの」


 フォルが掛け声を放つと、次の瞬間、我の目の前に迫っていた。

 魔界の王族の中でも最上位級の身のこなし。この我でさえも、本気を出さねば目で追えぬ。

 幼い少女なのに末恐ろしい。


 フォルは右手の爪を鋭く伸ばし、我の目を突こうとしている。躊躇無き目潰しだ。

 しかし我は、あえて眼球で受けた。


「きゃあっ! 痛ぁい!」


 痛がっているのは目を攻撃された我ではなく、攻撃したフォルの方だ。

 我の眼球は固いのだ。逆にフォルが突き指し、爪が剥がれた。

 いかんな、さっそく怪我させてしまった。後でサディートに怒られるかもしれない。


「うぅぅ~……痛いですの。酷いですわ」

「もう諦めて帰るのだフォルよ。確かにお前はその幼さで、既に魔界でも指折りの実力者であろう。だが如何せん子供。非力さはどうにもならぬ」

「こ、こ、子供じゃありませんの! お兄様のいぢわる! もお、後悔しても遅くってよ」


 フォルは身に纏っている鎧の裏に手を突っ込み、なにやら丸い道具を取り出した。

 木製の円盤が二つ重なり、紐で繋げてある。片方の円盤は赤。片方は青。

 あれは子供用のカスタネットだ。


「そんな玩具で何をする気だ?」

「オモチャじゃなくてれっきとした楽器ですの。わたくしピアノも得意ですけど、他の楽器もとーっても得意ですのよ」


 フォルはカスタネットの紐を中指に通し、


「ジャスティス・カラドボルグ! ですの!」


 手の平を前にした状態で突く──つまり、カスタネットで殴ってきた。

 楽器なのに、普通に物理的な武器として使うのか。


 雷のように素早い突きだ。

 ただし我は、今回もきちんと避ける。


 空振りしたフォルは、


「あら? あらら? あーれー」


 と、よろけた。

 転びそうになったので前転を……というか子供らしく、でんくり返りするフォル。

 前転中にカスタネットが地面に衝突し、カチリと音が鳴った……



 突如、館が全壊。

 地面に巨大なクレーターが発生し、地平の彼方まで続く地割れが起きた。



「ほう、カスタネットの音──いや衝撃(・・)に魔力を込めたのか。考えたな」


 聞くと溶けて死ぬピアノ。

 ピアノの音とは、つまり振動。

 振動と魔力を同期させ、増幅。そうして強化した魔力を、敵の聴覚を媒体にして送り込む技だ。


 一方フォルのカスタネットを用いた技も、振動で魔力を強化する過程は一緒。

 それを聴覚ではなく、カスタネットがぶつかった『衝撃』を媒体として直に送り込み、一気に破壊する技なのであろう。

 聴覚を媒体としないため、耳が無いただの物質にも有効である。


 そしてこれなら、フォルの腕力の無さをカバー出来る。


「さすがお兄様、その通りですの。ピアノとは違って、溶けて死ぬなーんて優しい殺し方ではなくってよ? うふふ……お兄様、ご自分の手をご確認なさったら?」

「手?」


 そこで我は気付いた。

 どうやら先ほどのフォルの一撃、完全には避けきれていなかったらしい。

 かすってしまったか。


 我の手首から先が綺麗に無くなっている。

 おびただしい量の血が流れ、足元に血溜まりが出来ていた。


 我に傷をつけるとは、予想以上の威力だ。

 ネア姉上の顎の力並だぞ。


「まあすぐ治るけどな」


 もう治った。手首から先が生えてきた。


「あら? あらら? ず、ずるいですわよお兄様!」

「ずるくない」


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