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25話:ジャスティス・フォーエバー

 我とヨッピーは魔王城の外へ出た。


 なんとも明るい世界だ。大きな太陽が世界を照らしている。

 ヨッピー魔王城は断崖絶壁に建っているが、おどろおどろしい空気はあまり漂っていない。深い山と谷のせいで、むしろ神秘的にも見える。


 そんな見晴らしの良い風景を眺めながら、我とヨッピーは空を飛び、勇者の元へと向かっている。


「勇者はどこで生まれてどこから来たのか……全てが謎に包まれているんスよ」

「では親や家族を人質に出来ぬということか」

「まあそっスね……いやあ。最初にそんな考えが浮かぶなんて、さすが邪神さん!」


 ヨッピーは我を両手で指差し、「憧れるっス~」と言った。

 こやつ、どんどん馴れ馴れしくなるな。


「僕も勇者と直接会ったことはないんスけど、部下の報告によると……勇者は大体いつも今くらいの時間に現れて、口笛を吹きながら魔物たちを惨殺してるっス。超迷惑なサイコ野郎でへこむっスよ。そして三時間くらい暴れたり、人々から崇められたりした後、『晩ご飯の時間だから帰る』なんて言って姿を消すらしいス」

「ずいぶんと家庭的な理由で帰るのだな」


 そう我が呟くと、魔界から監視しているサディートが、


『家族との時間は何よりも大切なのです。私も不本意ながらよく残業をしていますが……その勇者を見習い、毎日定時に帰りたいものですね』


 と感慨深く呟いた。おそらくは眼鏡をクイッと上げているだろう。

 鑑定係の『じゃあ私もー、毎日定時に帰っていいですかー?』と便乗する声も聞こえる。


 そんなこんなでしばらく飛んでいると、地上に小さな村が見えてきた。


「たぶん今日は、あの村に勇者が現れるはずっス。四天王の脳みそ将軍が、今までの勇者の行動経路から割り出したんスけど……」


 村へと通じる街道には、オークっぽい魔物やゴブリンっぽい魔物やタコっぽい魔物の死骸が散乱している。


「あれは勇者にやられたのだろうか?」

「そうみたいっスね。つまりあの村に勇者はいるみたいス。ビンゴ!」


 脳みそ将軍の予想は大正解だった。さすが四天王の知力担当だな。


「勇者は今頃村人たちにチヤホヤされて、ご馳走とか食べてるスよ」

「何! この後に晩ご飯もあるのにか!」


 欲張りな勇者だ。

 ともかく我とヨッピーも村へ侵入し、勇者を暗殺しようという運びになった。


 侵入の際は、村人たちから怪しまれないようにする必要がある。

 余計なトラブルに巻き込まれると、勇者が晩ご飯を食べるため何処かへ帰ってしまうのだ。

 帰る時間にならなくとも、いきなり『魔王がやってきた』と分かると逃げ出してしまうかもしれない。


 幸いにもこの世界の人間は(ついでにヨッピーも)、我ら魔界の悪魔族に容姿が似ている。服装さえ気を付ければ何とかなるだろう。


 我はヨッピーが用意した服に着替えた。この世界の標準的な服装らしい。

 裾が余りまくっているダボダボの大きな白いTシャツ。その上からダボダボのフード付きパーカー。下はダボダボの大きなパンツ。大きなスニーカー。頭には大きな帽子。


『なんかー、昔の地球のヒップホップダンサーみたいですねー』


 魔界で監視している鑑定係がポツリと言った。


 コテコテな魔王マント衣装に身を包んでいたヨッピーも、我と一緒にヒップホップな服装へ着替えている。

 よく考えるとどっちの衣装も古いな。まあそれはどうでも良い。

 準備は整った。

 さっそく村へ入ると……本当にヒップホップみたいな格好の村人ばかりだった。


「なるほど。確かに流行っている服装のようだな」

「そうなんスよ。これで僕らもバレない……」




「きゃー! 魔王よ! 魔王ヨッピーよー!」

「本当だ、魔王ヨッピーだ! 隣の目付き悪いのも魔物か!?」

「この村に来るとは……あああ、逃げろー!」




 即、村人にバレた。


「……バレているではないか」

「なんでなんスかねえ。僕、すぐバレちゃうんスよ」

「原因は、あの大量の張り紙ではないか?」


 村中を見回すと、壁という壁にお尋ね者のポスターだらけ。

 描かれているのは当然、魔王ヨッピー。


「マジかあ。今日初めて気付いたスよ。へこむ」

「ふむ。次からはサングラスでも掛けておくことだな」


 しかし見つかったのならば仕方がない。強行突破で勇者を殺そう。

 急がねばならぬ。村人を締め上げて勇者の居所を吐かせるか。


「そこのオジサン」


 我は逃げ惑う村人の中から適当に一人のオジサンを選び、魔法で金縛りにした。


「う、うあ……あああ……動かない……こ、殺さないで……」

「おいオジサン。勇者は今どこにいる?」

「勇者……様? え、ええと今は村長の館でご馳走を……すぐそこの家です」


 上半身だけ金縛りを解くと、オジサンは本当に『すぐそこ』にある大きな家を指差した。

 こんなに近くにいるのならば、騒ぎを聞きつけ「魔王め倒してやる!」と現れても良いはず。それが無いという事は、もしや既に逃げてしまったか?

 もしくは隠れて震えているか。


「とりあえず村長の館に押し入るか」

「そっスね。勇者め倒してやる!」


 そして我らは館へ入る。

 大きめの木扉を開けると、玄関ホールには誰もいない。やはり逃げてしまったか……



 ……いや、奥の部屋から物音が聴こえる。足音から察するに、一人だけ残っているようだ。


 蓋のようなものを開く音。次に椅子を引く音。次に椅子へ座る音。

 そして、


「楽器の音? がするスね……あれ。なんだか体中が痛い……」

「外の騒ぎは聞こえていただろうに、戦いも逃げ出しもせずに演奏をするとは。よく分からない行動だが、肝は据わっているようだ。やはり勇者なのか? それにこの音はピアノ──」

『メッシュ。それは魔界ピアノと同じ原理の技ですよ』


 サディートに指摘され、我もはたと気付いた。

 急いでヨッピーの横っ面を叩く。


「ぐえっ。な、何するんスか!?」

「貴様の耳へ直接魔力を打ち込んだ」

「えっ何!? 聞こえないっス!」


 魔法でヨッピーの耳を塞いだのだ。

 理由は単純。このピアノ音を聞き続けると、ヨッピーは溶けて死ぬからである。


 昨日の発表会でサディートの娘フォルや、その他貴族の子息子女たちが弾いていたものと同じ。聞くと溶けて死ぬピアノ演奏だ。

 まさか、こんな異界でこの技と出会うとはな。


 この演奏技術は別に魔界貴族だけの専売特許ではない。異界に使用者がいても不思議ではないが……


「邪神さん! 僕の耳! 耳どうなったんスか!?」


 と騒いでいるヨッピーを一旦放置し、我はピアノ部屋の扉を開けた。

 遮断するものが無くなり、ピアノの音が大きくなる。


 勇者と思わしき者が座って演奏している。

 が、グランドピアノの屋根が邪魔で、部屋入り口からは顔が見えない。意外と背は小さいようだ。

 我が部屋へ一歩踏み入れると、勇者は演奏をピタリとやめた。


「凄いですの」


 勇者が言葉を発した。


「わたくしのピアノを聞いて、苦しみもしないだなんて。村のお外にいた雑魚モンスターさんたちは、口笛を聞いただけで五秒で絶命なさったのに。溶けるより前に死んじゃう弱虫さんばかりでしたのに」


 …………我の気のせいかもしれないが、聞き覚えのある声だ。


「うふふ。よく参りましたわね魔王さん! この勇者フォルテ・フェニックス・ケルケイオンが、引導を渡してあげますわよ! お覚悟なさいませ! とおー! ジャスティス・フォーエバーですの!」


 勇者フォル……ええと……フォル(・・・)がジャンプしピアノを飛び越え、父親譲りの茶色い髪をふわりとなびかせ、我の前に降り立った。


「いざ、わたくしに宿る聖紋章が……あら?」

「……何をしている。フォル」

「メッシュお兄様!? あら? あらら? ど、どうしてここにお兄様がおられるのかしらぁ?」



 魔物を狩っているという異界の勇者は、思いっきり我の親戚──従兄弟サディートの娘、フォルであった。

 そして、



『フォぉぉぉルぅぅぅううううううううううう!?』



 サディートの珍しく狼狽する叫びが、我の頭中に響いた。


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