21話:タピオカ再チャレンジ(with全裸おっぱい姉ちゃん)
「うーん……メッシュくんと子供を五十人作るの~……ああマートちゃん違うの意地悪しないでマートくんに戻って……うぅうぅ……うえーん」
ある日の夕刻。
ホテルの部屋に帰ると、ベッドで全裸のネア姉上が眠っていた。
どうしてここで寝ているのか。どうして服を着ていないのか。どうして毛布を使わず、裸の体を晒しているのか。
些細な疑問は尽きないが、
「よし。今日のオヤツはこの冷凍タピオカミルクティーだ」
我は姉上を放置することにして、オヤツの準備に取り掛かった。
今日も行商人から地球産の菓子を買った。
ただしいつものような駄菓子ではなく、冷凍保存が必要な特殊品。
冷凍タピオカミルクティー、四食入り。ギョウムヨウスーパーなるマーケットで仕入れたらしい。
輸送途中で溶けないよう低温魔法でコーティングしてある。
行商人が取り扱っているのを見て、我は購入を即決した。
何故ならば──
「これで我の悔いも無くなるだろう。あの日、タピオカを完食してしまった『後悔』を……」
──そう。我が魔王をクビになってしまったきっかけ。重大なマナー違反が、ずっと心に引っかかっていたためだ。
タピオカミルクティーの飲食マナー。それは『カップにタピオカを残したまま、路上にポイ捨てする』こと。
だが我はあの日、全てのタピオカを平らげてしまった。
今更マナーを守っても過去の罪は消えないが、せめて一度きちんと『マナーを守って味わう』経験をしておきたかった。
よって、購入。
行商人は、冷凍タピオカミルクティーを約350円──魔界の通貨でいうと350マカィで仕入れたらしい。
そこへ輸送費、人件費でプラス6万。低温魔法コーティング代でプラス30万。
切り上げて、37万マカィで我は買った。
「毎度ォ旦那。良いカモ……いえ、また良い品物を仕入れてきやす。御贔屓に。へへへ」
と行商人は言っていた。
次も楽しみにしておこう。
「さて。まずは解呪だな」
我は冷凍タピオカミルクティーの袋を指先で軽く叩いた。小さな破裂音と共に、低温魔法コーティングが破壊される。
まだ凍ったままではあるが、冷凍状態が永続的に続くことは無くなった。このまま放置しておけば、いずれ室温と同じになるだろう。
ただし我は放置などせず、すぐに全部食べるつもりだ。
「次は……沸騰した湯に、凍ったままの内袋を入れ四分……か」
我は、行商人がくれた調理方法メモを読む。
このメモは商品の外装袋に書いてある地球語を、行商人が翻訳してくれたものだ。翻訳料として10万マカィ払った。
「沸騰した湯か。我は魔法で水を出せるが、熱湯を出す方法は知らぬ……代わりにマグマでも出してみよう」
マグマを作りだし、ボール状にし宙に浮かせた。
タピオカミルクティーの外袋から一食分の内袋を取り出し、マグマに入れた。溶けてなくなった。
「……うむ。袋の耐久性を見誤ったな。残り三食分になってしまった」
我は魔法で横着しようとした事を反省。
ホテルマンを呼び出し、湯沸かし器と小さな鍋を用意させる。
そしてついに我は、普通に湯煎することに成功したのである。
「四分経った。さて湯煎が終わったら……内袋の中身をコップへ入れ、次に氷を入れ……」
魔法で氷の塊を出す。
我は『小さな氷塊』を作り出すコントロールがあまり得意ではない。
このホテルを潰すくらいの巨大な氷塊なら簡単に出せるが、ドリンク用のサイズは難しい。
出来るだけ小さな氷を作る……と頑張ってみたが、我の身長と同サイズの氷塊が出来上がってしまった。
仕方ないので、それを指で割って小さくした。
以前魔王城で飲んだ時の記憶を辿り、だいたい適量の氷をコップへ入れる。
「そして最後に牛乳を混ぜる……か」
牛乳を……牛乳?
「…………買ってない」
というか、牛乳は基本的に魔界には売っていない。
行商人から輸入品を買うしかないのだが……彼は我との商取引を終えた後、すぐにまた仕入れの旅へ出てしまっている。
「…………」
我はしょんぼりした。
どうする。
水で薄めて飲んでみるか? いやそれは最後の手段にしておきたい。
牛乳の代わりになる何か……何かを探すんだ。
「牛乳。牛の乳……乳か……別の動物の乳を探そうにも、魔界には哺乳類の家畜がいない……乳……」
「ま~っ……お姉ちゃんお肉食べたいの~……メッシュくん肝臓ちょうだ~い……」
「……」
姉上が全裸で寝言を呟いている。
我はその様子を見て、ふと考えた。
「……悪魔の乳。いや……」
我は考える。眉間にしわを寄せ、真剣に考える。
悪魔の母乳は旨いのか? 血肉のように不味いのではないか?
赤ん坊の頃は飲んでいたはずなので、そう不味くはないのかもしれぬが……牛乳の代わりになるものだろうか?
そもそも姉上は、母乳を出せるのか?
悪魔の女は子を孕まずとも母乳が出る……ケースもある……とマートが言っていたが。半笑いだったのでただの冗談かもしれない。
「ふむ」
我はベッドへ近づき、全裸のネア姉上を眺めた。
腕をばんざいした態勢で寝ており、色々と丸出しである。
姉上は我の三分の二程度の小さな体躯。しかし胸だけはアンバランスに大きい。母乳が出そうな気がする。
「だがやはり悪魔の体液であるため不味いと思う。水の方がマシやもしれぬな。水にしておこう」
「……えっ!? あれ? あ~メッシュくん。おはよ~。なんでこんなトコにいるの~? 何がマズイの~?」
我の言葉で、かどうかは分からぬが、姉上が起きてしまった。
「おはよう姉上。我がここにいるのは、ここは我の部屋だからだ。そして不味いのは悪魔の母乳だ」
「まっ。母乳って……」
姉上は「やだぁメッシュくんったら~!」と言って、今更ながら毛布で体を覆い隠した。
「お姉ちゃんにえっちなことして赤ちゃん作って、母乳を飲む気かしら~?」
「違うな」
「冷静に心底から『違うな』って顔で『違うな』って言われると、お姉ちゃんショックを受けちゃうわ~。もっと『ばっ、ちっげーよ! 誤解だよ誤解!』って腰を引かせながら慌てて言って欲しいの~」
「そうか。次に覚えていたらそうしよう」
こんな状況はもう無いであろうがな。
「ところ姉上は何故ここで寝ている」
「えっとね~。眠くなったから、メッシュくんのベッドで寝ようと思って来たの~」
我の眷属──魔界の王族は、年に三時間程度の睡眠を必要とする。
姉上は丁度その時期に差し掛かっていたという訳だな。
「どうしてわざわざ我のベッドに?」
「だって~。メッシュ君がお城にいた頃は、いつもメッシュくんのお布団でメッシュくんの匂いに包まれながら寝てたんだもの~。でもこのお布団からは全然メッシュくんの匂いがしないの~!」
我がこのホテルを仮宿と定めてから、いまだ一度も睡眠は取っていない。
ベッドはただの椅子替わり。
そもそも毎日シーツは別のものに交換されているし、匂いは付かぬだろう。
「これじゃあお姉ちゃん寝不足になっちゃう~!」
「熟睡していたではないか」
「えいっ。メッシュくん分をお姉ちゃんにちょうだ~い!」
姉上は全裸のまま、我に抱き着いてきた。
そして当然のように、
「痛いぞ」
我の頸動脈を噛みちぎり、血肉を食った。
「ごめんね~、寝起きでお腹空いちゃってたの~。美味しいよぉ美味しいよぉ。メッシュくん美味しいよ~」
シーツに鮮血が飛ぶ。毎日交換されるのが幸いだな。
「ところでメッシュくん、聞いたわよ~。神にケンカを売っちゃったんだって~?」
姉上は我の首から口を離し、尋ねた。
口から垂れた血が裸体を濡らしている。
神へケンカを売った、か。
最近神と関わった件と言えば、二つある。
まずは『”』を多用する新人女神レイス。だがあれは、むしろケンカを売られたパターンだ。
それよりも超無敵ロボの世界を管理していた、マジメガミデスなる謎の古代神についてだろうな。
「あれは我がケンカを売ったのではない。マートが『神の玩具を壊す』という嫌がらせをしただけだ」
「え~?」
姉上は首を小さく傾げた。血の雫が一滴床に落ちる。
「でも神のオモチャを『直接壊した』のはメッシュくんだって聞いたわよ~? だから神が嫌がらせ返しをするなら、魔王であるマートくんじゃなくてメッシュくんをターゲットにするだろう~。って、マートくんが親戚や大臣に説明してたわよ~」
………………なんだと?
「……確かに。マートを守るためであったが、ロボを破壊する起因となった反射魔法を唱えたのは我であった……いや、しかし……?」
「まっ! なんだか良く分からないけど、マートくんちゃんにハメられちゃったみたいね~」
「うーむ……」
その後、結局タピオカミルクティーは水で薄めて飲んだ。
これはこれで甘くて旨かった……のだが……
色々とありすぎたせいで、
「……そういえば、タピオカを残してポイ捨てするのを忘れていた。また全部食ってしまったではないか」
と、翌日の朝頃に気付いた。




