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17話:超無敵ヴィクトリー

「女神マジメガミデス様の天啓じゃああ! マジメガミデス様ばんざーい!」


 召喚先の世界へ我とマートが到着するやいなや、召喚術師の爺さんが上記の意味不明な言葉を叫んだ。

 爺さんの周りは大勢の老若男女が集まっており、彼らも「マジメガミデス様ばんざーい!」と叫んでいる。


「マジ女神です……とは何だマート」

「さあ。でもそんな名前ってことは、マジで女神なんだろうね。ふふっ」


 首をかしげる我と、面白そうに微笑むマート。


 辺りを見回すと一面畑ばかり。ところどころに土壁の家屋が立っている。

 ここはおそらく農村だろうか。

 裕福な村ではなさそうだな。人々は皆一様に泥だらけのボロ服を纏っており、痩せこけている。


 村人たちはしつこく十回ほど「ばんざーい」と繰り返していたが、それが終わると、召喚術師の爺さんがようやく我らに話しかけてきた。


「ダメ元で太古の魔術を唱えたら、まさか本当に天使様に来ていただけるとは……あなた方は、女神マジメガミデス様の使途でございましょう?」

「天使だと?」


 天使と聞き、先日戦った一万匹の虫天使(低コスト)を思い出す。

 あれと一緒にされるのは甚だ心外である。


 ともかくこの世界は、女神マジメガミデスとやらに管理されているらしいな。

 男神か女神かはともかく、ここをベテランの神が治めていることは事前に分かっていた。

 神でも新人だったレイスの世界とは違い、この世界には『神の空気』が充満している。それも召喚魔方陣の向こう側からでもハッキリと分かる程に。


「うん、そうだよ。僕たちは女神様の使途。君たちを助けに来たんだ」


 マートは堂々と嘘をついた。

 そして我にだけ聞こえる小声で、


「兄上、ここは適当に話を合わせておこう。このお爺ちゃんたちは神の信者みたいだから、僕らが悪魔だってバレると余計なトラブルになっちゃうよ」


 と語る。

 我も別に「天使じゃない! 間違えるな!」などと訂正させるつもりは無い。ここはマートの提案通りにしておこう。


「おおお、やはりそうでしたか! ありがとうございます天使様」

「礼は良い。それより早く願いを言え」


 我が急かすと、爺さんと他の村人たちの顔色がみるみる青くなった。

 よほどの困り事があるらしい。


「願いをお頼みさせて頂く前に……わしらが困っている問題について、順を追ってお話しいたしましょう」

「ほう。それは分かりやすくて助かる」

「事の始まりは、三年ほどの昔……」


 爺さんは空を見上げ、目を細めて語り始めた


「この村に住んでいた男の話にございます。このみすぼらしい村には勿体ない、それはそれは美しい好青年でございました。まるでその男の周りだけ、いつも満開の花が咲いているような。美女をも凌ぐ美男子だったのです。性格も明るく、優しく、皆の人気者でございました」


 爺さんの説明の途中、すすり泣きを始める村人も現れた。

 先を察するに、その人気者の美男子とやらが何かしらの事件に巻き込まれ、どこぞへ去ったか死んだかしたのであろうか。


「しかしある時その美男子が……隣村の男に惚れてしまいました」


 うむ?

 急に思っていたのとは違うベクトルの展開になったぞ。


「ホモだったのか?」

「いいえ、実はその男は女だったのでございます。美女をも凌ぐどころか美女だったのでございます。わしらも後に知ったのですが、両親が夢で『娘を男として育てよ』と女神マジメガミデス様の啓示を受けていたらしく……家族以外には秘密で、男として育てられていたのです」

「へえ。それはなんとも気まぐれな神様らしい話だね」


 マートはクスクスと笑っている。


 夢のお告げとやらが本当に女神の啓示だったのか、ただの夢だったかは分からない。

 しかし神々はたまに、特に意味もなくそのような啓示を行うらしい。ただの暇つぶしで。

 その美男子(美女)は、気の毒な被害者だったのかもしれないな。


「彼……いや彼女が恋をした時、既に両親は病で亡くなっていたのですが……それでも信心深い彼女は女神様の言いつけを守り、自分が本当は女であることを誰にも打ち明けませんでした。必死に自分の心を押し潰し、男として振る舞い続けたのです」


 村長は目を細く開き、空の彼方を眺めた。

 いつの間にか周りの村人たちも、一緒に空を見上げている。


「……しかし一度恋を知ってしまった彼女は、内心どうしても女としての自覚を捨てることが出来なかったのでございます。周囲からは男として扱われながらも心の中は女。男としても女としても生きられない。男でもない。女でもない。そんな存在になってしまった者が、どうなってしまうのか……天使様はご存じでしょうか?」

「知らん。どうなるのだ?」


 突然質問を振られ、我は聞き返すことしか出来なかった。

 爺さんは深く息を吸いながら、空を指差す。

 そこで我は気付いた。

 先程から爺さんや村人は空を見上げていたが、それは昔語りに浸るためではなく、本当に『空にある何か』を眺めていたらしい。


 我とマートも顔を上げ、爺さんの指の先を見た。


「男でもない。女でもない。つまり……」


 遠くの空に、巨大な鉄の塊が浮いている。

 ただの鉄ではなく、手、足、銅、顔がある。

 人型の鉄。


 というかあれは……



「男でも女でもない存在。つまり……超無敵ロボ・ダイオード(ヴィクトリー)になるのです」




『ヴィクトリイイイイイイィィィイイ!』




 鉄の塊が手足を動かし叫んだ。

 ガキーン! と効果音が鳴る。


 なるほど。


「ロボになるのか」

「ロボに……なるのかなあ?」


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