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13話:神様、もう少しだけ頭つかって

 謎の真っ白空間に放り出され、孤独になってしまった我。

 放り出されたのではなく『我以外の世界がどこかへ行った』と言う方が正確かな。


 どこまでも続く、果て無き白さ。

 床も天井も無い亜空間に我はふわふわと浮かんでいる。ちょっと楽しいとも言える。

 といつまでも遊んでいる訳にもいかない。

 我は体を捻り回転し、背後を見た。


「おい出てこい」


 この空間転移を引き起こした()に向かって言う。

 しかし反応は無い。無視されている。我は繊細ゆえ無視が嫌いだ。


「出てこないのなら、この白き空間を破壊する。次元が繋がっているであろうイーキリの世界ごと木っ端みじんになってしまうが、既に『武術大会に出場する』という願いは叶えてあるので問題ない。優勝出来なかったのは多少モヤモヤが残るが、チョコレートでも食べれば忘れられるだろう」

「ちょちょちょちょっと待ちなさいよ! ああもう。分かったわよ出るわよバーカ! バーカバーカ!」

「馬鹿ではない」


 空間にヒビが入り弾け、穴が開いた。穴の先には一人の女。見た目は若い。

 黒く長い髪。ほとんど裸の体にひらひらした白い布を巻いている。重力の無いこの空間では、髪も布もふわふわと浮いてたゆたっている。

 一見してただの露出狂な痴女だが、この服装は――


「アタシはこの”世界”を”管理”する偉い”女神”様。”麗しの天女”ことレイスよ」


 そう、神々の服装だ。あやつらは露出やセクハラ行為が好きなのだ。

 あとイーキリの世界で必殺技に『”』を付ける文化が根付いていたのは、多分こいつの影響だな。


「レイスか。聞いたことの無い神だな」

「おだまり! 誰が”マイナー”ですって!? まだ”新人”なだけよ!」

「いやマイナーとは言っていないが……あと『”』がうざったい」

「前任者の”神”からこの世界の”管理”を引き継いで、まだたった百年目の”大型ルーキー”なのよ!」

「結構経っているではないか」


 まあ他の神々に比べれば、百年そこらではまだまだ新人の域なのかもしれないな。


「貴様がこの世界の神だと言うことは分かった。だがどうして我の邪魔をする?」

「うっさいうっさいうっさい! だいたい、なーんでアンタがこの”世界”にいるのよ!? アンタ、”魔界”の”魔王”メシュトロイオンでしょ」

「うむ。今は魔王を解雇され、ただの召喚獣だがな」

「なんで”召喚獣”なんてやってんのよ。”天界”でも”魔界”でも下っ端の仕事でしょ?」

「それは我も分からない。現魔王の命令だ」


 やはりこのレイスなる神は、我の名を知っていたようだ。

 知っていて邪魔をするということは……非常に億劫だが、祖父と因縁のある古き神々の差し金だろうか。


「でもアンタが来ちゃったのは逆に”ラッキー”よね。だってアンタを殺せば、ジジイババアたちから”ご褒美”を貰えるもの。しかもこの世界はアタシの”ホーム”。楽々”ぶっ殺して”あげるわよ~おーっほっほっほ! って思って私の”女神パワー”を与えた神官を差し向けたのにいいいいい! あっさり倒しちゃってええええ! ムカつくムカつく”ムカつく”! 死んじゃえバーカ!」

「馬鹿ではない」


 今の会話で大体理解した。


 偶然召喚獣として来てしまった我を、武術大会中に殺そうとしたが失敗。

 慌てて『世界ごと退避』し我をこの世界から追い出そうとした……と言ったところだろうか。

 そういえば受付係のおじさんが突然態度をひるがえして我の参加を認めたが、あれはおそらくこのレイスが精神操作なりをやったのだろう。


 どうやら古き神々は直接関わっていないようで、少しだけ安心した。


「しかし我を殺したいのなら武術大会で正々堂々と戦うのではなく、不意打ちで奇襲すれば良かったでは無いか」

「はぁ!? ……ええ? ……なにが……えっと…… ”!?” ……べ、別に今気付いた訳じゃ無いんだからね!」


 今気付いたのだな。


「違うって言ってんでしょ! あえてよ! わざとよ! でももうこうなったら、”アタシ自身”がアンタを”殺す”しかないみたいね」

「ほう。どうやら穏便には帰れぬようだな」


 我はレイスと向き合い、精神を集中した。


 新人だろうが、久々の”神との戦い”。気は抜けぬ。

 しまった。つられて『”』を使ってしまった。


「へえ。アンタもやる気”満々”みたいね」


 レイスは右腕を上げ、すぐさま袈裟懸けに勢いよく振り下ろした。

 すると何も無い空間に大地が出現。真っ白な大地。これまたどこまでも続いている。

 戦うための足場を作ったのか。

 おそらくこの女は、ふわふわ漂う空間での戦いには慣れておらぬのだな。


 まあ我は地面があろうが無かろうがどちらでも良い。


「ところで戦う前にさ……その、ほら! アンタ、もっと私に”聞く”ことあるでしょ?」

「何をだ?」


 すぐさま戦いを始めるかと思いきや、レイスはまだ話を続けたいようだ。

 しかし我にはもう聞くことなど無い。


「それはアンタ、その……どうしてこの”世界”では”召喚獣”が召喚された途端に死ぬの? とか、どうして”転生者”がたくさんいるの? とか。聞きたいでしょ?」

「別に」

「おーっほっほっほ! アンタも知りたいようね……? この”世界”の麗しき”カラクリ”を」

「別に」

「うぅっ……」


 レイスはガックリとうなだれた。かと思えばすぐに顔を上げ、我に勢いよく近づいた。

 しまった攻撃か? とも思ったが、本当にただ近づいただけだった。

 我より30センチは低い身長であるため、背伸びをしながら顔を顔に近づける。


「バカなのアンタ!? こういうのは”普通”知りたがるものでしょ! 良いから聞きなさいよ!」

「そういうものなのか。すまなかった。では教えてくれ」

「良いわよ教えてあげるわよ!」


 どうやら教えたがっていたようだ。お喋りが好きな女なのだな。

 レイスは我に顔を接近させたまま説明を始める。


「この世界にはね、”天界の召喚術”が存在しないの。昔はあったけど、アタシが管理女神に就任したら全部排除したわ。過去の記録も全てね」


 天界の召喚術とは、そのまんま『天界の召喚獣を呼ぶ術』のことであろう。

 魔界の召喚術と比べ、唱える呪文や魔方陣が異なっている。


「つまり民たちが”召喚”できるのは、アンタら”魔界”の”召喚獣”だけってコト」

「我らの独占状態になっているという訳か」


 中々おいしい話では無いか。


「貴様、良い神だったのか?」

「良くないわよ! いや善良な”女神”だけど、別にアンタのためにやったんじゃ無いんだからね! そうじゃなくて、やってきた召喚獣をアタシの”自動(オート)落雷”で殺すからよ。あんたんトコの産業を潰してやるためにね!」


 そうか。だからこの世界では、召喚された途端に雷が落ちてくるのか。


「でもアタシは慈悲深い”女神”様。可愛い住民たちに”魔界”の”召喚術”なんて汚れる真似はさせられない……だから”ジーニアス”なアタシは考えたの。”別世界”から人間を引っ張ってきて、”召喚術師”にしちゃえば良いのよ、ってね」

「それがイーキリたちか?」


 引っ張ってくる、とは魂を呼び寄せ転生させるという意味であろうな。


「ええそうよ。まずは色んな世界に出張して、この”世界”をモデルにしたゲームを”召喚術師”が最強って設定で作らせたの。”濁り湯クエスト”とか、”デビル狩りんたー”とか、”石鹸個包装内職伝”とか」

「ブレイブ・グランディアとか、おっぱいファンタジーとかか」


 ブレイブ・グランディア以外は変な名前のゲームばかりだな。


「ええ。そのゲームにハマった人間が死んだら、”魂”がこの”世界”に引き寄せられ――”転生者”の一丁上がりってワケよ。”転生”直前にサービスで”職業選択”もさせてあげちゃう。なんやかんや理由付けて”召喚術師”しか選ばせないけどね。ドヤッ。どうかしらアタシの”才能”溢れる計画!」


 転生者があちこちにいたのは、そういう理由か。

 そんな凝った根回しをしてまで、魔界の召喚獣事業を潰したいという志だろうが……だが、


「しかしこのD級世界でちまちまと召喚獣を殺されても、召喚獣産業が潰れるほどの影響は無いぞ。そもそもこの世界にいる召喚術師の数は少ないらしいではないか」

「うっさいバーカ! とりあえずアンタんトコに”嫌がらせ”出来れば”天界”のジジイババアは喜ぶのよ。ボーナス貰えるのよ」


 それはなんとも、


「セコいな」

「セコくないわよ! バーカ! バーカ!」

「馬鹿ではない」


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