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99話:愚民導ク聖紋章ノ響~勇者悪魔少女はでんでん太鼓でアイドルになれるのか~

 わたくし達は、出会ったばかりの殿方二人組へついて行くことにしましたの。


『自分よりも弱そうな知らないおじさんに誘われたら、積極的について行って、利用して命やお金を奪いましょう』


 という悪魔の子供道徳に従った形ですわね。わたくしもう大人のレディですけれど、見た目だけは子供と言えなくもありませんし。


 ちなみに大破した黒塗りの車は放置。

 元々あの車はギャンブルのカタにブン取りなされた借り物だったらしく、後の始末は本来の持ち主に任せるらしいですわ


「まあわたくしには関係ないから、お車なんてどうでもよろしいのですけれど」

「……お嬢さんが壊したクセに……あ、いいや何でもありやせん。へへへ」



 そんなこんなで、道中ドラッグストアでお菓子を購入した後、ボロボロのアパートにやって参りましたの。

 このアパートの一室に男二人で暮らしているらしいですわ。なんだか不潔ですの。臭いですの。


 さて、買ったお菓子をさっそく頂きますわ。


「るまんどー……んー……?」

「あら。ルマンドって、このような味でしたっけ? なんだか甘さ控えめですわね。ばりばりもぐもぐ」


 わたくしはメッシュお兄様みたいに、毎日のように地球産のお菓子を頂いている訳ではございませんので、ハッキリとは申せないのですけれど。なんだか以前頂いた時と味が違うような気がいたしますの。

 コアラのマーチも、うまい棒シュガーラスク味も、CCレモンも。

 魔界でメッシュお兄様のご相伴にあずかった時と比べ、なんだかあっさりしすぎですの。甘くありませんの。


「ごちそぉさま、です。きゃふ」

「あらアルノちゃん様。もうお腹いっぱいですの?」

「んーん……でも、なんだか……ちがうもん……」

「やっぱり、アルノちゃん様もそうお思いですの?」


 本場の味ってものは、こんなものですの?

 魔界への輸出品は味を変えているのでしょうか。でも包装されたパッケージごと輸入しているのですし、あまり考えられないですわね。

 包装袋にも『ルメンド』『ゴリラのマッチョ』『うまし棒ジャガーマスク味』『CGだもん』と、地球の文字で書かれていますわね。読めませんけど。

 でも魔界で見た時も、確かこんな感じの文字だったと思いますの。


 もしや最近になって地球では『甘さ控えめブーム』でも起っちゃいましたのでしょうか。

 もしそうだとしたら、とんでもないクソブームですの。

 いっそ地球の皆様全員糖尿になれ! ですの!


 約束のケーキ十個も後で用意させるつもりですけれど、この分では期待できないかもしれませんわね。


「ところでですねぇお嬢さんがた、お菓子の代わりにお礼をくれたりなんかしちゃったり、頼めちゃったりなんか出来ちゃったりしやせんかね……? へへへへ」

「このマッズイお菓子へのお礼を、わたくしにしろとおっしゃっているんですの? それはまた随分と傲慢なお考えですこと! 恥をお知りなさい!」


 と、わたくしが優しく丁寧にお断りを入れると、殿方お二人は引きつった笑顔になられましたの。


「ぐっ……クソガキ……!」

「あら。何かおっしゃいましたかしら?」

「い、いいえ、何も言ってません」

「耐えろ。耐えろ。相手は宇宙人だぞ」


 わなわなと震えておられますわね。

 ちょーっと正論をぶつけたくらいで、怒っちゃいましたの?

 地球のお方は堪え性というものがありませんことね。


「そ、そんなこと言わずに……えっと、あの、ほら、実は俺達ってアイドルのスカウトなんですよね(嘘)」

「あら。アイドルですの?」

「あいどりんぐ……ぶーぶーの……?」

「車のアイドリングじゃなくて人間のアイドルですよ! アイドル(本当は見世物芸人だけど)。お二人なら絶対有名なアイドルになれますよ(嘘だけどなバーカクソガキ)!」

「ふーん、ですの」


 アイドルとはまた唐突なお話ですわね。

 確かにわたくし程の美貌があれば、明日にでも地球で一番のアイドルになれますの。

 光と闇の狭間で微睡(まどろ)む愚昧なる民衆を導く、暗黒の芸者(GEISHA)アイドルわたくし………………うーん。


 なんだかしっくりこないですの。


「やっぱり丁重にお断りですの。わたくしほど高貴なる者が、このような田舎世界で有名になったところで何の嬉しさも感じませんことよ? 元々わたくし故郷では『音響の魔導姫アコースティック・プリンセス』として超有名人ですもの。わたくしのピアノコンサートには、いつも自他国の貴族たちが一千万人以上も集まるんですのよ!」

「きゃふ……フォルちゃん、すごい……!」

「そうですの。わたくし凄いんですの。おーっほっほっほ、ですの!」


 まあ『音響の魔導姫アコースティック・プリンセス』という異名は今考えたのですけれど。

 あと一千万人はちょっと言い過ぎましたわね。貴族そんなにいませんし。多くて五十人くらいでしょうか。

 でも実際にわたくしは魔界の姫でもありますし、超超ちょーウルトラスーパーミラクル有名人であるのは疑いようがありませんことよ。


「ピアノコンサート? 楽器を演奏するんですかお嬢さんは」

「お嬢さんじゃなくて音響の魔導姫アコースティック・プリンセス! ですの!」

「す、すみません。音響の魔導姫アコースティック・プリンセス様は楽器を演奏できるんですね。特技があるのはますます見世物に……じゃなかったアイドルに都合良い。断るなんてイケズを言う前に、一回だけ試しに弾いて──」


 と言って、殿方お二人はキョロキョロと部屋を見回し始めましたの。

 でもこのボロボロで狭い男所帯の部屋には、グランドピアノは当然としてピアニカさえもありませんわ。

 そもそも地球の方々は三本指だから、この世界のピアノや笛は見た目や使い方が違うかもしれませんわね。


「楽器は……オモチャのでんでん太鼓しかねえ!」

「逆になんで、でんでん太鼓はあるんだっけ……」


 そう言って、殿方の内お一人が部屋の隅にあるでんでん太鼓を拾い上げられましたの。

 でんでん太鼓っていうのは持ち手棒がある小さな両面太鼓で、先端に玉を結んである紐が二本付いてて、回転させることで玉が太鼓を叩き「とんとんとん」と音を鳴らす楽器ですのよ。


「あら。わたくし、でんでん太鼓でも優雅華麗に演奏できますことよ? だってわたくし天才魔界音楽勇者姫ジーニアス・ミュージシャンですもの」


 そう言ってわたくし、殿方からでんでん太鼓を受け取りましたわ。


「じゃあ試しに演奏してくれます?」

「いいですわよ。うふふ。冥途のお土産ですわ」

「メイド……?」


 わたくしの演奏を聞くと、人間さんは溶けて死んでしまうんですの。

 だけど別に殺してしまっても良いですわね。お菓子もあんまり美味しくなかったですし、ケーキも欲しくなくなったし、もう用は無いですもの。

 アルノちゃん様に影響が出ない程度に、『魔界演奏』の出力を調整いたしまして……と……


「さあ、わたくしのとーっても秀麗な演奏をお聞き遊ばせ」

「わー……ぱちぱち……」


 そしてわたくしは、でんでん太鼓を振ろうとして──



「やめな、さ、い。やれやれ……」



 殿方に太鼓を掴まれ、演奏をストップいたしましたの。


「あら。『やれ』と言ったり『やめろ』と言ったり『やれやれ』と言ったり、どっちですの? わたくし曖昧な態度は好きではありませんの。ぶっ飛ばしますことよ?」

「え!? いや違っ、俺の手と口が勝手に……」


 殿方はきょとんとした顔で言い訳なさりましたが、急にトロンと眠そうな目になって、


「…………アク、マ。アクマ。悪魔。マ界の悪魔。どうし、どう、どうして。どうしてこここんな、ところに?」


 などと、ぶつぶつ喋り始めましたの。様子がおかしいですわね。

 もう一人の殿方は慌てた様子で、


「おおい、こんな時にまた麻薬(ヤク)か!? お前、最近は金が無いからやってねえって言ってたじゃ…………あ、ああああアクマ。悪魔。悪魔。魔界の悪魔。どうして私の()球に悪魔が?」


 同じように、虚ろな目で変な呟きをなさるようになっちゃいましたの。

 そしてお二人とも急にバタンとお倒れになって、ぐうぐう寝ちゃわれました。


「えー、なんだか気色悪いですの」

「きもーい……きゃふふ」

「ですわよね。殺しちゃってもよろしいかしら?」


 と、わたくし達が穏便に事の成り行きを見守っていますと……突然、ボロアパートの部屋内が眩しい光に包まれましたの。

 嫌な光ですわ。肌がピリピリと痛みますの。


 すると、光の中から声が聞こえてきましたわ。



『やれやれ。せっかくエリート神である私が、地球を真似て豊かな世界を作ったと言うのに……どこから嗅ぎつけたのか、悪魔が二匹も紛れ込むとはね』



「変な声が聞こえましたの」

「きもーい……きゃふふふ」

「ですわよね! 神経質でネッチョリしてる殿方の声って感じで、とーっても気持ち悪い声ですの。うふふふふ。きっとお顔も不自由な殿方ですことよ。おーっほっほっほっほ、ですの!」


『だまらっしゃい悪魔の子供たち!』


 光がますます強くなりましたの。

 そして──



「”真祖・降臨”……! やれやれ。この()球の神である私が、異物である悪魔を排除いたしましょう……!」



 変なおじさんが現れましたの。「やれやれ」を多用しすぎで若干鬱陶しいですわね。


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