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片隅の天使  作者: mizuho
第一章
15/38

準備

 その日の夜遅くに、シイナは王都から帰ってきた。


 部屋に入ると、律儀にリビングのテーブルの上にシイナの分の夕飯が置いてある。

 深く息をついて、ソファに深くもたれ掛かると、眼鏡を外して目頭を押さえた。


 カチャリとドアが開く音がして振り返ると、ミクラスが自室から顔を覗かせた。


「お帰りなさい。遅かったですね」


 ミクラスは静かに部屋から出ると、テーブルの上の皿を手に取り、キッチンへ移動した。


「温め直すので少し待ってください」

「悪いな」

「さっきまで起きて待っていたんですけどね、リゼ」


 そうか、とシイナは短く答えた。


「だいぶ疲れてますね、大丈夫ですか?」


 温め直した野菜スープをシイナの目の前に置き、ミクラスもシイナの前に腰掛けた。

 黄金色のスープがきらきらと光る。立ち上る湯気越しに、少し心配そうにこちらを見るミクラスが見えた。

 一口啜ると、よく染み出た野菜の旨味が、疲れた身体に染みわたった。


「うまい」

「それはどうも。リゼも手伝ってくれたんですよ」

「――そうか」


 こちらはこちらで進展があったようだと、スープを啜りながらシイナは思った。


「ミクラス」

「はい」


 シイナは王都から持ち帰った荷物の中から、布に包まれた何かをミクラスに差し出した。

 それを受け取り、布をめくったミクラスが露骨にいやな顔をする。

 想像通りの反応。


「……これよりも体術の方が得意なんですよね、僕。

 もうこれを手にすることはないと思ってたんだけどなぁ」


「接近戦だけとは限らないんだ、持っておけ」


 布の中身は自動拳銃だった。

 

「もっとも、お前は軍を離れた身だ。無理に俺に付き合わなくてもいいんだが」


 シイナの言葉に、ミクラスは子供のように口を尖らせた。


「ここまでついてきた、腹心の部下を舐めないでくださいよ」


 銃の状態を確認しながら、ミクラスは言った。


「あなた以外の人の元で動く気はありませんよ、僕は」


 外していた眼鏡を掛け直すと、シイナは目を細めた。


「難儀な性格だな」

「どうとでも」


 堂々と言い放つ様子を見て、シイナは軽く笑った。


「それで、キナ様はなんて? こんな物を渡すくらいだから、近々動きがあるんですよね」

「ああ、あまり時間をかけては手遅れになる」


 シイナはキナから聞いた話をかいつまんで説明する。


「奴ら旧王国派なんですね……。どうりでやり方が汚いと思った。ほんとしつこいな」


 シイナの話を聞き、ミクラスは顔をしかめた。


 研究施設の事務員として潜入中のシェリアが、内部の見取り図とスケジュールを入手する為に動いている。

 旧王国派のメンバーと思われる人物の動きを確認後、同日時に研究施設と製薬会社本社、そしてメンバーの自宅を王国軍が押さえる、という流れだ。


「アスティ達はきっと、施設内でも限られた研究員しか入れない特別棟にいる。俺達は真っ直ぐにそこを目指す」


 シイナは荷物の中から自分の分の銃も取り出すと、慣れた手つきで分解し始めた。

 その手元を見ながら、ミクラスはぼんやりと考え事をしていた。

 部品の整備をしながら、シイナはちらりとミクラスを見た。


「……心配か?」


 シイナは何がとも、誰がとも言わなかったが、ミクラスには確実にそれがシェリアの事を指していると分かった。

 そしてそれは図星でもある。

 ミクラスは大きく息を吐き、背もたれにだらしなくもたれ掛かった。


「それはまあ、シェリアは幼なじみですから心配くらいします」

「別に俺はシェリアが、とは言ってないが」


「……シイナさんのそういうところ嫌いです」


「別に構わない」


 カチャリと部品をはめ込んで、シイナは涼しい顔で言った。


「……そういうところも嫌いです」


 そうか、と言ってシイナは鼻で笑った。なぜか楽しそうだった。

 不機嫌そうな顔をしたミクラスが見守る中、淡々とシイナは銃の整備を続けた。

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