表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
片隅の天使  作者: mizuho
第一章
1/38

プロローグ

 天使とは、宗教の聖典や伝承に登場し、神の使いとして描かれる存在であり、実在はしない。

 いや、実在するのかもしれないが、大抵の人間は架空の存在として認識しているはずだ。


 けれど、世界の片隅で、時たま流れる噂がある。


 天使が現れた、と。


 しかしその存在が公になる事はなく、多くの人々にとっては、やはり架空の存在なのだ。


 天使などいない。


 そう、天使などではない。


 長い歴史の中で時たま噂になる彼らはただの人間なのだから。




 いまにも崩れそうな、ボロボロの家屋が建ち並ぶ一画。

 スラム街と呼ばれるその場所で、少女は物陰に身を隠し、息を潜める。

 ほんの数時間前まで一緒にいたあの子が、黒い影に担がれ音もなく運ばれていく。

 あの子の意識はなく、だらりとぶら下がった腕が、脱力しきった様子で揺れているのだけが、やけにはっきりと見えた。


 少女は見た。

 あの子の背後から近づいた黒い影が、何かを顔に押し当てて、あの子の意識を奪ったところを。

 黒く、汚く、不快なモノが視界を遮る。

 これほどの色を視るのは、少女にとって初めてだった。


 怖い。

 けれど、助けなくては、と。


 あの子はまだここへ来たばかり。

 すべてをなくして、ここへ来たばかり。


 物陰から出ようとする少女の肩を、きつく掴んで引き留める手があった。

 少女とよく似た顔の少年が、唇を噛み締め静かに首をふる。


 掴まれた肩に込められた力の強さに、少年の想いを感じ取り、少女は空を仰ぐ。

 崩れそうなレンガの隙間から、いまにも降って落ちてきそうなほどの星、星、星。


 少女はこの夜の色が好きだった。

 いつ、どんな時も、どれほどの絶望を抱えていても、包み隠してくれるような、深い夜の色が。

 深ければ深いほど、星は輝くものだから。


「ここはもう危ない。遠くへ行こう。もっと遠くへ」


 少年が言った。

 少女がゆっくりとうなずく。


 どこでもいいのだ。


 この夜空の下ならば、どこへ行っても生きていける。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ