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序章

いつもと変わらず仕事始めに一言、無事故・無違反・時間厳守。今日も1日私の目に映る人だけでも幸せであるように。

すがるように、いつもの儀式を船に乗り込む際に行う。


私をどうか繋ぎ止めて―この平穏な世界に、…どうか。


■簡単な仕事


その日はひどく眠い朝だった。原因はわかってる。―こいつのいびき。

「何回言えばわかる?寝るときは隣の部屋で寝なさい。」足元のフリッパニは、しっぽをパタパタさせている。

自分専用の毛布をわざわざくわえて昨夜私の部屋に潜り込んだようだ。

モップみたいな毛を床につけ愛玩動物よろしく額を足に擦り付けてくる。

「またやってるんですか、朝から」

「こいつのせいで眠れなかったんだ。」

隣の部屋からエドが入ってきた。

「何回言っても無駄ですよ、最近ドアの解錠を覚えちゃったんですから。」

あくびをしながらエドがフリッパニを抱き上げる。

「おはよう、フリッパニ。ダメだよ、セツコさんは低血圧なんだから。いつの間に部屋から出ていったの?」

横目で少年とアニマル型位置情報感知思考システム―通称:ペットナビを観察する。

エドは第9銀河においては珍しいハーフである。

この宇宙域は人種間がはっきり区別されてそれぞれのコロニーを形成する。

2年前ある理由から、私が営む配送屋の手伝いをさせている。

私はこの子の両親の知り合いだ。


彼の母は美しく、典型的な第9銀河の特徴をもったひとだった。父親は何度か一緒に仕事をしたことがあるが、真面目で従順な性格をした黄金色の瞳が印象的な男だが、ある事故で亡くなっている。

それ以来エドは私の下で生活を送っている。

まもなく15歳を迎えるが、母親に似たのか中性的な印象が強い。

白銀のさらさらした髪は肩口で切りそろえてあり、背は160cmに届かないくらいで、白い肌は宇宙空間では焼けることなくむしろ青白い。瞳の色は琥珀色で、丸ぶち眼鏡をかけている。

性格は偏屈。物静かで何を考えているかわからない。たまにグサッとすることを言う。最近はペットナビのフリッパニに、位置情報の解析速度向上と人間社会の理と歴史を教え込むことが日課のようだ。

たまに私の仕事も手伝ってもらう。

依頼主からの積み荷をどのように運ぶか、配送船の手配、売上管理と提携業者の選定を任せている。

この時代。成人を迎えれば、いずれの銀河世界も、おおよその青少年達は宇宙空間へ独りで出ることが出来る。


人間が宇宙空間で生活をするようになり200年が経つ。

いろいろなことがあり、今は私が住んでいる宇宙域―第8銀河を含む―オデッセイは、人間生息可能な宇宙空間最大勢力の宇宙政府「ユニオン」が統治している。

ユニオン政府は、5年に一度統治機関「評議会」を開くため、その半年前から各宇宙域代表を招集し始める。

評議会が開かれるのはオデッセイの中心コロニー、「C5」。

C5より最も遠方にあたる域内からは、最新鋭の宇宙船を駆使しても3~6カ月かかる。到着時期に差があるのは、宇宙空間の状況や運転技術が影響してくる。

宇宙空間に生きる人間にとって、宇宙を翔ることは生き延びる為に不可欠なことになっている。初めて宇宙空間で生きることを選んだ先祖達は、より多くの生存機会を得るため、永遠な暗黒を広げる世界へ散り散りに旅立った。

多大な犠牲と過ちが、0.01%に満たない成功を導きだした結果が今の世界である。


オデッセイにおける居住資格は二つ。

一つは、敵対勢力と関わりがないこと。もう一つは、居住義務として納税すること。

第8銀河にコロニーは二つ。惑星はいくつかあるがほとんどに人間は住んでいない。コロニーとは平たく言えば、宇宙空間に浮かぶ人工的な居住施設だ。人が住むスペースの他、例えば食糧生産の為に所謂畑や池、牧場なんかがあるところもある。

大きな都市がまるごと宇宙空間に浮かんだようなものだ。

時に人々はコロニーではなく関係宇宙域内で停泊中のマザーシップで日常生活を送る。

マザーシップは、その関係するコロニーを守護する戦艦だったりする。

いざというとき、乗組員は敵と戦う。

よってマザーシップ―第8銀河においては「ミカエル」―には、宇宙政府関係者と域内施政を司る者とその家族が住んでいることが多い。

第8銀河にはミカエルがあり、その他に何基かマザーシップが存在する。ちなみに宇宙政府の大型マザーシップ「ラファエル」は、常にC5と行動を共にする。

通常コロニーは動力のすべてを施設の維持に費やし、定められた宇宙域から移動するという思考を持たない。

仮にコロニーが存在する宇宙空間で甚大な被害が予想される場合、

そのコロニーは捨て、人間はマザーシップで既存する他のコロニーを目指すか、はたまた新しい宇宙域の安定の後、コロニーを再構築するとオデッセイでは決められている。

宇宙域は、ただの宇宙空間においては影響が強すぎる重力と時間軸のゆがみをろ過し、人間の生息に適した環境に転換を図った範囲をいう。

コロニーは三層の防御壁より成り立っている。

外層は人の目に見えない透明の粒子がコロニー全体を覆い、宇宙光の調節を行う。内層から伸びた薄い半透明な糸状の膜は、外層とぶつかると七色の光を放ち始める。多くの膜が縒りあいながら集まり、コロニー全体を覆うと、宇宙空間から見えるコロニーは激しい色彩を持った輝きを見せる。半透明な糸状の膜を通し、コロニーから放出されたエネルギーはやがて宇宙光と合成することにより透明粒子、通称クラウドベールへと変換され宇宙光の調節を、と循環するコロニーのシステムはこの200年保たれた摂理となっている。

また、内層より生物の生息エリアを別つ部分を内壁と呼び、内壁の外部より人工的に生産されている糸状の粘膜を<サラ>と呼び、これらが縒りあいコロニー維持に不可欠な内層を形成することとなっている。

サラの構造は非常に繊細であり、生成方法は厳重な情報統制が行われ、ある一部分の支配階級のみが知ると言われている。

ユニオン統治下のコロニーのほぼ全てにおいて、サラの構造やその運営はたったひとつの感知思考システムの管制下に現在はある。

世界最強最高の至高の感知思考システム―ホヤ―は、ユニオン政府C5の中枢にあると言われている。


「手紙が届いてます、セツコさん。…たぶん仕事の依頼でしょうか?」

エドから受け取りそれを起動する。

手紙は、クリスタルのような輝きを持った、直径5㎝程度の非感触型の球体だった。特に宛名もない、けれど私の元に届くということは…

私への依頼、私を知る筋によるヤバい系のつながり。

ほわっと球体が溶けて、音声が始まる。

いつもの毎日が、始まる。

「エド、まず朝ごはんにしよう。」


人間が200年という時間をかけ、編み出した宇宙域安定方式―コロニー定住化計画―は今のところ、宇宙に散らばる三億を超える人間を支えている。

しかし必ず歪みは生じてしまう。人種間、貧富の差は宇宙でも人間の醜い部分を生み出し、そして共存を難しくさせている。


「その駄犬に最新の宇宙域座標値を読ませておけ、」

「宇宙船の手配は?」

エドと共にあの音声を聞いた。それが失敗だった。

「今はまだ大丈夫。まずは指定の場所に移動しよう。」

「えーと、第5銀河系の惑星が待ち合わせ場所なので、セツコさんは寝台と特急、どっちがいいですか?」

「寝台、シャワー付き」

「…わかりました、手配します」

青白い球体が溶け消えた空間に、わずかな花の香りを見つけて…

先程聞いた手紙を思い出して手が止まる。




「わたしの名前はジェーン・サハディーン。お願いしたい仕事があります。第5銀河系スヘェリン駅の地下58階、4―144ブラックキャットというお店で詳しくお伝えしたいと思います。5日後にお会いできることを楽しみにしています。」

これが始まり。

そして今の私の日常。




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