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 翌々日、深夜。私は初めてバスに乗らず、徒歩で約束の地を踏んだ。

 出立時、まだ掃除の途中だった正面玄関。蔦達は言い付け通り、無害な地中へと進路を変えていた。お陰で掃除の甲斐もあり、すっかり綺麗になっている。一人でよくここまで頑張った物だ。

 しかしドアに下がる「閉園中」のプレートは、昨日の雨に打たれたのだろう。黒く濡れ、所々腐食が始まっていた。恐らく私が出て行った朝のまま、ずっと放置されているのだ。


 キィ、矢張り施錠されていない。待ち構えているのだ、この奥で。


 冷え切ったロビーを通り抜けかけ、ふと足を止めた。踵を返し、チケットの自動販売機前へ。

 プラグに積もった埃を吹き飛ばし、コンセントへ挿入。投入口へ値段ピッタリの硬貨を入れ、「大人一人」のボタンを押した。吐き出された紙片はインクが残り少ないのか、日付の部分が半ば掠れている。鼻を近付けると古い紙の香りがした。

「七十七人目……ね。こんな時にラッキーナンバーが出ても困るわ」

 溜息を吐き、チケットを握り締めたまま順路を進む。軽く触れただけで、温室へと続くドアはあっさり開いた。深呼吸した後、テラスに佇む人影へ声を張り上げた。


「久し振りの見学者ですよ!チケットもこの通り」ピラッ。「夜分遅く申し訳無いですが、案内お願い出来ますよね―――東雲園長?」「ああ、勿論さ」


 最後に会った時より幾分やつれた杏小母さんは、恭しく一礼。そうしてから広げた右腕で順路を示した。

「さあどうぞ、可愛らしいお客様。暗いので足元には充分お気を付け下さい」

「ええ」

 初めて聞く彼女の案内は、言葉こそ少ないながら要点は外さず、非常に分かり易かった。もっと積極的に行っていれば、確実にファンの見学客が付いた程には。

「それにしても、わざわざ買ったのか?」チケットを指差し、「暢気な暗殺者だ」

「馬鹿正直さは、私の数少ない取り柄ですから」

「そうか。だがよくショートしなかったな。ああ、そうそう。電気と言えば、こっちに植わっているエンジェルランプは―――」

 ああ……私、何故ここへ来てしまったのだろう。最初に終わらせれば後が楽だなんて、思い上がりもいい所だわ。




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