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 深夜のかくれんぼの結果は、私達の粘り勝ち。無線連絡を受け、刑務官達が一斉に構えていた銃器を下ろす。

「通風孔から入って来たらしいぜ、さっきの獣。所長が落ちていた毛を発見したそうだ」

「前に副所長の猫ちゃんが迷い込んだ所か?いい加減塞げよ、あそこ」

「犬のお巡りさんじゃないんだぞ、俺等は」

 ぶーぶー。文句を垂れる部下二人に、退屈せずに済んだだろ?リーダーはにべもなく告げる。

「実質の島流しとは言え、大体この刑務所は弛み切ってる。この程度のトラブルは寧ろ良いカンフル剤さ」

「出た、エリートの余裕ー」

「良いよなー、後半年で出て行ける奴は」

「はっはっは」

 大変ね、公務員も。でも彼等の雰囲気はあくまでアットホームのそれだし、立地以外はそう悪い職場とも思えないわ。

「ところで班長、奴に襲われたバントレーはどうなったんすか?」

 !!?私が殺しに来た元副隊長を、この子が先に……!!

「ああ。寝首を掻かれて多少出血はしたが、命に別状は無いらしい」

 その発言に、恐る恐る珍獣の前脚を観察する。果たして撃たれていない方の脚、その爪にこびり付く赤黒い物を発見した。

「ケッ、そいつは残念だな。あいつと、ついでにお友達の三人がくたばりゃ、ここも大分静かになったのによ」

「こら、声が大きいぞ!」

 今の発言で確信が行った。矢張りあの名簿は正真正銘本物だ。でも、

「やれやれ。いい所だったのによ、UNO。コーヒー淹れて仕切り直そうぜ」

「賛成ー」

「じゃ俺、部屋から麦チョコ取ってくるわ」

「おっ、気が利くねえ」

 何故危険を冒してまで、この子は奴を殺そうとしたの? 

(いえ。今はそんな事に疑問を覚えている場合じゃないわ)

 一応厳戒態勢こそ解かれたが、まだ付近には常より厚い警備が敷かれている筈。奴等に発見されないよう、帰りは充分気を付けないと。

 しかも今夜の騒ぎの影響で、この平和ボケした刑務所も当分は警戒態勢が続くだろう。それこそ、現在の私では太刀打ち出来ない位の。折角貰った電子鍵が使えなくなる恐れもあるが、ここは一旦後回しにするしかなかった。また例の処置室へ放り込まれるのだけは御免だ。

 今出来るのは名簿の他のターゲット達を殺して回り、再挑戦までに十二分に経験を積む事。だがその前に、


「ごめんなさい、痛いでしょう?今手当てするわ。弾が体内に残っていないといいけれど……」「にゃー」


 持参のペンライトを頼りに銃創の具合を確かめる。幸い、弾は前脚を貫通していた。良かった。摘出出来そうな道具など、ソーイングセットの鋏位しか持ち合わせていなかった所だ。

 早速未だ出血の続く傷口へ、手製の薬草軟膏を擦り込むように塗り付ける。そうしてから木綿のハンカチを広げ、患部を縛って保護した。

「―――さあ、出来たわ。お家に帰っても、傷が塞がるまではなるべく安静にしていてね」

「にゃあ❤」

 我慢の御褒美に頭を撫でると、獣は甘えた様子で身体を擦り寄らせてきた。毛並みがふかふかしてて温かい。そう思った次の瞬間、ぐー……、そのしなやかな豹の胴から聞き覚えのある音。

「ふふ、お腹が空いたのね」

 ポシェットのチャックを開き、非常食のカロリーメイト(プレーン)を取り出す。そして封を開け、物は試しと黒い鼻先へ差し出してみると、

「にゃー❤」

「まあ。あなた、これが好きなの?」

 こちらが砕くまでもなく、彼は鋭い牙でガリガリ、むしゃむしゃ。上目遣いで催促してきたので、素直に残りの二本も与える。

「みゃぁみゃあ❤」カリカリカリカリ。

「ふふ。まぁ任務は失敗だけど、あなたみたいな可愛い子に会えただけでも収穫かしら?」

 脚の上から下りるよう頼み、幹に手を突きながらその場で立ち上がる。

「さて。今日の所はやれる事も無いし、私は帰るわね。あなたも当分は大人しく休むのよ、不思議な狐さん」

 珍獣に手を振り別れを告げた私は、植物達の導きのままに山道を戻り始めた。覚悟を決めなければ―――心の中でひたすらにそう呟きながら。




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