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 自分でもイライラする位警戒しつつ、最初の通路を右へ。が、その先にも警邏はいなかった。

(これ、ひょっとして罠……?幾ら何でも無用心過ぎるわ。それとも脱獄対策は完璧だから、侵入した所で無駄って事?)

 だとしたら大した自信だ。このビギナー暗殺者にも分けて欲しい位、


 ビィーーーッ、ビィーーーッ!!「きゃっ!!?」


 突如けたたましいアラームが鳴り響き、一斉に照明が点灯。侵入がバレた?見逃しただけで、実は裏口に防犯カメラやセンサーが仕掛けられていたとか……と、とにかく拙いわ!一旦外へ出なきゃ!!

 急いで回れ右をし、脱兎の如く来た通路を引き返す。そして光の届かぬ安全地帯へ、正確には先程潜んでいた草叢へ身を投じた。バクバク鳴る心臓を右手で押さえ付け、取り敢えず中腰で様子を見る。

(あ、しまった!裏口開けっ放しだわ!!)

 一応皮手袋を嵌め、指紋対策はしているが―――!?来た!!


 バタバタバタッ!!「いたぞ!」「こっちだ、応援頼む!!」


 俄かに周囲が騒がしくなった。かと思うと、何の前触れも無く二発の銃声が鳴り響く。鼓膜が震えた数秒後、半開きの裏口から何かが勢い良く飛び出して来た。

(え?何、あれ??)

 思わず我が目を疑う程、警邏達が追う侵入者は珍妙そのものだった。

 体長は一メートル弱、と言った所か。首から上は狐そっくりだが、伸びた胴体は豹と瓜二つ。しかも銃撃を受け血を滴らせた前脚、その肉球からは十センチ近い爪が伸び、尻尾の先端は宛ら蠍のような太い金属光沢の針状だ。しかも、

「うにぃ……」

 鳴き声は猫。可愛い。

「こっちよ、狐さん!」

 “蒼”不所持の私の一か八かの呼び掛けに、耳が良いのか珍獣は即座に気付いた。ガサゴソガサゴソ。傷を負った片脚を引き摺りながら、草叢を掻き分け私の傍へ。

「外へ逃げたぞ!ライトを持って来い!!何としても捕まえるんだ!!」

「お願い、皆。奴等の目を誤魔化して」

 頼んだ次の瞬間ひっそりと、だが素早く植物達が伸び、一人と一匹を覆い隠す緑の壁と化す。ただでさえ暗い上、こちらは森の中。カモフラージュは完璧だ。

「くそっ、何て逃げ足の早い獣だ!」

「あの野郎、一体何処から入り込んだんだ!?」

 狙撃ライフルを振り回しつつ、尚も周囲を警戒する刑務官達。苛立つその様子を葉同士の隙間から確認した私は、労わるように重傷者の首筋を撫でた。

「にゃぁ」

「大丈夫よ。ここなら見つからないわ」

 初対面にも関わらず、珍獣は早くも私に懐いたようだ。膝の上に乗り、甘えた風にゴロゴロ咽喉を鳴らす。

 外に出て来た警邏は全員で三名。懐中電灯片手に探索しつつ、時折銃口で茂みをガサゴソ。用心して奥まった所に隠れているものの、正直気が気ではない。

(落ち着くのよ、私。万が一見つかっても、ここなら“ディライト・ビリジアン”で攻撃し放題。仮令新手が来ても、この子と麓まで下りる時間位は充分稼げるわ)

 そう心の中で言い聞かせつつ、己の不運を呪う。初仕事から不測のトラブルなんて、ツイてないわ。




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