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翌日、深夜十一時。私は差出人X氏の指示通り“衛星三番”、山岳地帯奥の特殊医療刑務所の裏側に潜んでいた。
(一応それっぽい準備で来てはみたけれど、こんな感じで大丈夫かしら……?)
闇に紛れ易いようにと、纏うのは全身黒のボディスーツだ。腰には折り畳みナイフと応急処置用の薬草を始め、必要最小限の荷物入りのポシェットを装着。防御面に不安は残るが、仮令防弾チョッキを着た所で頭を撃たれれば終わりだ。ならば軽量化に努め、異能に因る奇襲に特化した方が私らしい。
「ごめんなさい。少しだけ力を貸して」
手近に生息する蔓達に頼み、数本抜き取って胸元へ忍ばせる。今夜のターゲットは四人。素人なりに頑張ってはみるが、到底ナイフ一本では処理し切れない数だ。彼等の力を最大限借りたとしても、リベンジマッチを余儀無くされる公算は非常に大きい。
どうやらこの刑務所は名称通り、治療がメインの施設らしい。林の中に聳える灰色の長方体には有刺鉄線の塀も、監視塔から降り注ぐサーチライトも見当たらない。警備員の巡回もおざなりで、ひよっこの私ですら易々と抜けられた程だ。
(もしかして、このザル警備も考慮の上で鍵を同封したのかしら?だとしたら重ね重ね凄い事だわ)
消灯過みの刑務所内は静まり返り、耳を澄ますものの無音だ。だが、施設内には恐らく夜勤の刑務官いる筈。名簿にはターゲット達の独房番号も記載されていたが、さて。構造が不明な建物内で、どうやって辿り着いたものか……。
(いいえ、ここで悩んでいても仕方ないわ。取り敢えず今夜は、この電子鍵が本物かどうかさえ確認出来ればいいのだから)
仮にこの見るからに頑丈そうな裏口が開けば、名簿自体にもかなりの信憑性が出てくる……約一名を除いては、だが。
再度人目が無いのを確認し、茂みから抜け出してドアの前へ。ポシェットから鍵を取り出し、ノブの下の鍵穴へと挿入する。
ガチャッ、キィ……。「嘘、開いたわ……」
頭がギリギリ入れられる位扉を開き、中を覗き込む。こちら側はどうも緊急避難用通路らしい。非常灯に照らされた廊下は幸運にも無人。取り敢えず第一関門は突破のようだ。
「お、お邪魔します……」
馬鹿丁寧に挨拶し、恐る恐る刑罰の地へと足を踏み入れた。




