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※この話は『花十篇 カーネーション』の続篇です。
前作のネタバレが多分に含まれますので、先にそちらを御一読頂けると助かります。
また、『前十篇』シリーズはオムニバス形式の作品です。
読む目安は、赤→灰→緑・蒼・白・黄→金→イレイザー・ケース→虹・黒となります。
可能であればその順番でお読み下さい。
「腹を一突き、か。こいつは酷えな……」
“緑の星”の極一般的な街、フソル。殺人現場はその郊外、暖房が切れて久しい植物園の温室だった。
老朽化とまでは言えないが古びた施設を見回し、刑事達は再度温室の中央に目をやった。
「にしてもえらくメルヘンな現場ですね。不謹慎ですけど」
「全くだな」
第一発見者の園芸業者からの通報を受け、やってきた刑事達が不思議がるのも無理は無い。推定四十代後半の被害者の遺体は、展示品から伸びる枝葉に因って四方八方からすっぽり包み込まれている。まるで童話内の、王子のキスを待つ眠り姫のように。
「だが鑑識に調べさせた電気や水道メーターの記録だと、死後三ヶ月は経過している筈だ。なのに―――」
咲き誇る花々に囲まれ、瞼を閉ざじ微笑む故人を見やる。
「―――何故、今さっき死んだばかりのように綺麗なんだ、彼女は……?」