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勇者の決意 完

拙い文章ですがよろしくお願いします

 レミアが大切そうに抱えていた風呂敷の中身は俺へのプレゼントの剣だった。

 ミルレットが以前くれた黒炎剣はその名の通り、先から先まで真っ黒の剣だったのに対し、レミアがくれた剣はレミアの髪のように真っ白な剣だった。

 暗い闇で一際、存在感を放っているアレからなづけられた


 『月光剣《ムーンライトソード》』


 月光剣を手に取る。

 握った瞬間自分の魔力が爆発的に増大するのが分かった。

 それと共に、レミアの優しさや穏やかさ、俺を大切に思ってくれている、ということが伝わってきた。


 ん?


 俺は風呂敷と剣の間に紙が挟まっているのに気づく。手に取って見るとそれはレミアからの手紙だった。

 丁寧でしっかりした字体で綴られていた手紙を俺は食い入るように読む。


 『カイトへ


 レミアです。実はこうして手紙を誰かに書くのは苦手です。王女失格だね。


 私はカイトに謝らなければいけないことがあります。それはカイトを今この時も悩ませているということです。きっと優しいカイトだから私にあの時何も言えなかったって責めていると思います』


 やめろ。俺は……俺は優しくなんかない。自分を守るためにお前を捨てた最悪の男だ。自分が一番可愛い偽善者だ。


 『でもそんなに自分を責めないでください。だって私はカイトに感謝しているのですから。こうして燻っていた私を旅に連れてきてくれたのですから。それで十分です。いえ十分すぎます』


 何を言ってるんだ。俺は今、お前に旅を諦めさせようとしたんだぞ?感謝されるべきじゃない。憎まれ、疎まれ、忌み嫌われるべきなんだ。お前はお人好しすぎなんだ。

 

 『それでも正義感の強いカイトは納得してくれないでしょう。だけどそれなら私も随分見縊られたもんです。自分の悩みくらい自分で解決できます。それすらカイトが解決できてしまうならきっとカイトは神になれるでしょう』


 これはただの慰めだ。レミアは再び、戦場に戻ってきて戦うことへの恐怖が蘇った。

 そして溜まりに溜まってレミアは耐えられず俺に打ち明けたのだ。もし、自分で解決できるなら俺に相談などしないだろう。


 『だから私は大丈夫です。これは私からの感謝の気持ちです。受け取ってください。べ、別に深い意味がある訳じゃないからね』


 そこで文章は終わっていた。

 最後の部分だけ妙に字が乱れていたのは気のせいだろうか……

 やはりレミアは気づいていたんだ。俺の異変に。

だから聞いたんだ。


「あなた、カイトだよね?」


 と。

 

 ありがたい。嬉しいすぎて舞い上がりそうだ。今すぐにレミアに感謝の気持ちを言いたい。


 

 だが……


 やはりレミアは連れていけない。闇を抱えたレミアが悪いんじゃない。そんなレミアを守る自信が無い半端者の俺が悪いんだ。レミアもそんな俺に守られたくないだろう。


 俺はあとは魔物に任せ、レミアが気づく前に出発した。魔物にはレミアを殺すなと言ってある。きっとここを通った人に助けてもらえる。レミアの安全は心配ないだろう。


 じゃあな、レミア

 俺、きっとレミアのこと……………………


 いや、この想いを口にすれば、きっと俺はお前を助けたくなる。無責任な俺は、きっとレミアをまた傷つけちまう。


 「本当にごめんな」


 それだけ言い残し、俺はレミアから逃げるように足を進めた。剣は風呂敷に包んで置いてきた。あれを持てばまたミルレットの時のようにレミアのことを思い出して辛くなる。

 レミアの場合ミルレットの時と違い、自己保身の俺から逃げた。

 きっとその後悔はミルレットの時よりも想像を絶するものだろう。置いてきて正解だと思う。


 「これで良かったのか……」


 俺はまだ日差しの強い太陽が燦々と輝いた空を見上げる。

 そして自分を正当化、未練たらたらの自分を無理矢理納得させようとした。


 あぁ正解だ。これが正しい選択だ。これが俺本来の姿だ。

 一人で旅をする。いいじゃないか。気楽で。自分のペースでのんびり行けて。

 殺しを止める優しい王女もいなければ、夜眠れない怖がりで迷惑な王女もいない。

 裸の中、とか言って羞恥も感じず風呂に入ってくる天然な王女もいなく、かといって胸を触ればアッパーをカマしてくる暴力的な王女もいない。

 我儘を言う自分勝手な王女もいないし、俺に色々な感情を思い出させる王女もいない。

 あぁ気楽でいいじゃないか。最高じゃないか。


 喜びも、楽しみも、興奮も、感動も、驚きも、悲しみも、苦しみも、怒りも、何も感じずに淡々と生きていけばいいじゃないか。

 冷めきった心、それが俺。

 今までもそうだったし、これからもそう生きていくつもりだったはずだ。

 誰とも関わらず、一人で、孤独で生きていく。

 ただ、前に戻るだけだ。何もおかしなことはないはず…………


 なのに!!!!


 なんでこんなにモヤモヤするんだ?

 なんでこんなにイライラするんだ?

 なんでこんなにムカムカするんだ?

 なんで後ろを振り返りたくなるんだ?

 なんでこんなにレミアの顔を思い出すんだ?

 



 なんでこんなに…………涙が止まらないんだ?


 「クソぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 俺は狂ったように、行く手を塞ぐ魔物を殺しまくった。どれだけ時間が経っているかも分からないが剣を振るい、魔法を放ち、魔物を殺し続けた。イライラをモヤモヤをすべて魔物にぶつけた。

 顔に返り血を浴びても気にならなかった。むしろ殺戮が唯一夢中になり、無心になれた。


 感情が湧き出る隙も与えず、俺は暴れ続けた。

 感情が消えていく……この感覚だ。これが俺の本来の姿だ。


 ふと、動きすぎた拍子に手紙がポケットから落ちた。どうやら無意識にポケットにしまい込んでしまったようだ。


 ん?これは?


 さっきは気付かなかったのだが、レミアの手紙には裏に続きが小さく書かれてあったのだ。


 それを目に通す。


 気づけば夢中で走っていた。

 掻き立てられる思い、感情に任せて走り続けた。

 会いたい。ごめん、を、ありがとう、を言いたい。

 もう彼女はいないかもしれない。怪我をして諦めてしまったかもしれない。


 でも少しの可能性にかけて。俺は会いに行く。いや、彼女なら必ずいるはずだ。自分の過去と真摯に向かい合う彼女は誰かとは違い、逃げ出すはずが無い。


 手紙の裏にはこう書かれてあった。





 『優しいカイトが少しエッチなカイトが何でも一人で抱えちゃうカイトが好き。だから私信じてる。カイトが守ってくれるって。だから怖くない』


 間違っていた。

 レミアはずっと信じてくれていた。俺が守るって。

 どんな過去があっても受け入れてくれるって確信していた。


 それなのに俺は守りきれないと逃げた。彼女もきっとこんな奴に守れたくないと思い、去った。


 でも違う。


 レミアは、俺だから守って欲しいんだ。勇者だからだとか、強いだからとかではなくて。


 俺がいるから、レミアは後ろを振り向かず前だけを見れた。

 背中は俺が守ってくれる、と信じていたから。


 俺がいるから、レミアは過去と向かい合うことが出来た。

 俺のことが好きだから。


 好き。


 久々に聞いた感情だった。だが、俺にとって最も忘れてしまった感情の一つかもしれない。勿論、ミルレットの事があったからだ。


 レミアが俺を好き。


 ドクンドクンドクン


 胸の高鳴りが聞こえる。

 この久々な感覚が懐かしくて、愛おしい。


 心に任せて、素直になれば良かったんだ。

 モヤモヤ、イライラ、ムカムカしていたのは、レミアのことを思い出し涙が止まらなかったのは




 俺がレミアを好きだからだ。


 こんな簡単なことに俺はここまで時間がかかった。

 恋はしない。そう決めたはずなのに。

 きっと、出会ったその日から好きになっていたと思う。俺の話を聞いて号泣したあの時から。でも動き出そうとしている心には過去、という鎖が縛り付けていた。

 それを解いてくれたのは、誰でもない、レミアだ。


 そうだ。

 俺はレミアが好きなんだ。

 それだけで十分だった。


 俺はもう、レミアを離さない。


 「レミアァァァァァァァァアアア」


 無性に叫びたくなった。 

 だから返事など期待していなかった。


 「カイト…………」


 えっ……


 そこにはレミアがいた。

 怒りと、悲しみと、喜び、驚きが表情から読み取れた。


 「全部一人で倒したよ。私はもう逃げない。大好きなあなたがいるから。

 ……私を旅に連れていってくれますか?」


  気づけば俺はレミアを抱きしめていた。


 「レミア、好きだ。どうしようもないほど好きだ。俺がレミアを守る。どんな辛い過去があろうと俺が守る。いや守りたいんだ」


 既に、俺の心からイライラ、モヤモヤ、などは消え去っていた。

 ただ一心。レミアが好きで、守りたい。


 それだけで十分だったのだ。

 これからはレミアと2人で旅をする。どんな困難が待ち受けているかも分からないが、俺たちなら大丈夫だろう。どん底から這い上がった2人なら。


 俺は黒と白の剣を使い、旅をする。大好きなレミアとともに。


 いつか別れが来るかもしれない。でもそのときまで俺はずっとレミアといたい

作者の事情でここで完結とさせていただきます。

あらすじとは異なりますが、主人公が前に動き出したということで締めくくりたいと思います。

勝手なことして申し訳ありません。

もし、また書けるようならば続編を書きたいと思います

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