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勇者の葛藤

拙い文章ですがよろしくお願いします

 レミアに励ましの言葉をかけられなかった情けない俺は考え事に耽っていたらその夜なかなか寝付くことが出来なかった。気づけばレミアは横で安心したような表情でスースーと寝息を立てて赤ん坊のように眠っていた。


 俺は彼女になんと言えば良かったのだろう


 そればかりが頭を駆け巡り、頭の中をコースに見立てたスポーツカーのように走り回る。


 朝になった。雲一つない青い空に照りつける太陽。気候的にはまさに最高の朝なのだが、俺の気持ち的には最悪の朝だった。

 

 「カイトおはよう! 昨日は話聞いてくれてありがとうね」


 やめてくれ、そんな無垢な笑顔で俺を見るな。俺はお前に一切何もしていない。感謝を述べられる義理はないんだ。


 それからはいつあのことを切り出すのかをずっと考え兼ねていた。

 一番いい時期に、一番いい切り出し方で、一番納得するやり方で、一番傷つけずレミアにそれを伝えたい。


 だが…………もしそれが叶わないなら…………

 例えどれだけレミアを傷つけても。

 例え俺をどれだけの悪役に回しても。

 俺はレミアに旅は諦めてもらい、帰ってもらう。

 俺には、彼女の闇を抱えてあげる自信がない。

 その方法は最も下衆だが、合理的な方法。


 それは


 ───レミアに自身の無力さを教えることだ。


 だけどそれは出来るだけ最終手段にしたい。


 それから何度かレミアに話を切り出そうとしたのだが、レミアは俺の深刻な表情から何かを察して意図的に話を逸らしてくる。

 頼む、レミア。俺にこの手だけは使わせないでくれ。お前をこれ以上傷つけたくない。


 これで最後だ。もしこれでレミアが聞く耳を持ってくれなければ…………俺は悪になる。


 「レミア……あのさ」


 お願いだ。レミア。話を聞いてくれ。


 「あっ……ちょっとカイト、ここで待ってて」


 願いは届かず、レミアは俺にそう言い残して何処かへ行ってしまった。どうやら市場の方に戻ったようだ。

 


 ………………仕方あるまい。




 俺は最終手段に入った。制限時間はどこかに消えたレミアが戻ってくるまでだ。

 初めに、俺はある場所へ向かう。

 そこは傍から見れば何にもない場所だ。だがそこにはあるものが埋まっているのだ(・・・・・・・・)


 俺が今からしようとしていることをさせないために殺し、埋めた魔物を俺はそのために掘り起こす。


 もう分かっただろう。魔物のゾンビ化だ。

 こいつらにレミアを襲わせ、レミアに自分の無力さを教える。

 

 俺は土を掘り起こし、異臭を放った魔物たちを俯瞰する。


 「『死者蘇生』」


 100もの魔物たちがゾンビ化していく。その次々と生き返る姿はかなり惨たらしく残酷な光景だった。

 だが俺は無心だ。何も感じない。いや感じようとしていない。

 今、感情を取り戻せばきっと俺はここで止めてしまう。それほど俺の中でレミアの存在は大きいものになっていた。でも、そんなレミアだからもうこんな情けない姿を見て欲しくない。


 ゾンビ化した魔物は、蘇生主の魔力に応じて強さが決定する。そして俺の魔力はほぼ無限のようなものだ。今一度殺された怒りを凄まじい殺気で表現しながら蠢いているこいつらが弱いということはありえない。


 「おい、雑魚ども。聞け」


 主の命令は絶対だ。俺とこいつらの間には絶対的な主従関係が出来ている。

 ゾンビ化した魔物は途轍もなく深い穴からとんでもない身体能力で地上に復帰し、俺に忠誠心を見せる。


 「これから帰ってくるだろうレミアに攻撃しろ。

 いいか、殺すなよ? もし殺すような真似をしたら分かっているだろうな?」


 この時の俺は知らなかった。この俺の愚かな行動を凄く悔いることになるとは。


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■


 レミアは何やら風呂敷のようなものに包まれた長細いものを抱えて戻ってきた。

 俺に向かって走る表情はとても嬉しそうで遠くから見てもウキウキしているのが分かった。きっと何か良いことがあったのだろう。


 これが最後の会話だ。少しだけ、あと少しだけレミアと話がしたい。


 「どこいってたんだよ」


 平常心を装う。実際はレミアへの罪悪感で心が抉り取られそうだ。


 「カイト? ………………あなたカイトだよね?」


 「何言ってんだよ。当たり前だろ?」


 「そう、よね……そうだよね! ごめん、私どうかしてた」


 何故、レミアがそんなことを聞いたかは分からない。でもそう聞かれた時、レミアに心の中を覗き見されたような感覚を覚えた。


 「で、どこに行ってたんだ?」

 

 「内緒! 」


 レミアは貰ってきたのか、買ってきたのか分からない風呂敷に包まれたものを大事そうに抱えていた。

 

 「ねぇ…………カイト」


 出発の準備をしながらレミアは緊張した面持ちをする。


 「気にしなくていいんだよ?」


 レミアが一体何のことを言っているのかさっぱりだった。レミアのぎこちない笑みはどこか寂しそうだった。もしや……いや、レミアが気付くはずがない。

 俺は結局、何も返す言葉が見つからなかった。


 「出発しようか……」


 レミアはとぼとぼ落ち込んだような足取りで俺の前を歩く。


 ここから俺は悪魔だ。もう人間ではない。人間であるはずがない。だって俺は人間を、それも俺にとって大きな存在を傷つけることになるから。

 すまないな、レミア。せっかく人間にしてくれたのに。俺はやはり人間ではなかったようだ。だって俺は大切なことを色々教えてくれたお前。俺の勝手な我儘で傷つけようとしているのだから。


 (いけ……お前ら)


 俺は心に語りかける魔法『念話』を使い、魔物たちに命令する。

 その瞬間、気配を隠していた魔物たちが一斉にレミアを襲う。

 気配を感じとったレミアは後ろを振り返る。


 「えっ、どうして……」


 驚いた表情をしながらレミアは魔法を駆使し、次々と魔物たちを仕留めていく。やはり強い。

 だが、徐々にレミアの体力は削られているだろう。


 「はぁはぁ……」


 かなり体力の限界のようだ。呼吸をする度に肩が上下に激しく動いている。

 もうレミアは疑問を抱いているだろう。なぜ俺を襲わないのか、と。そして俺が裏切り者だと気付くだろう。それでいい。それで俺に失望し、自分の無力さを感じ、旅を諦めてくれたらいい。


 「ガァァァアアア」


 狼のような魔物が鋭い爪を立てて、レミアを後ろから襲う。

 レミアは反応に遅れ、振り返りざまにレミアは魔物の攻撃を食らう。服が破れ、側腹部から少量の血が流れる。痛みで顔を歪めるレミアを見て、心が潰れそうになる。助けたくなる気持ちを必死に抑える。


 「くっ……」


 怯んだ隙を魔物たちは見逃さない。

 10体ほどの魔物が一気にレミアを襲う。これで終わりか……


 「『覇砲』」


 レミアの覇気が強力な波動となり、魔物たちを一気に吹き飛ばす。何故だ。何故そこまで戦う。もう諦めてもいいだろ。辛さから解放されるんだぞ?


 「私はもう逃げないと決めたの!!!!!!」


 そのレミアの魂の篭った叫びは誰に向けてのものかは分からない。もしかしたら自分に言い聞かせたものなのかもしれない。だが、その叫びは剣となり俺の心を突き刺す。

 レミアを助けたい、そんな気持ちに駆られて自然と足が進む。

 待て。本当にいいのか?ここで助けるというのは、レミアの深すぎる闇を抱えてないといけないんだぞ?俺にそんな役が務まるのか?レミアを守る自信はあるのか?


 …………ないな。俺は結局、孤独なんだ。


 俺は一気に冷静になる。いや、冷静になったと無理矢理言い聞かせていた。

 そんな事に目も暮れず、魔物たちの攻撃は止まらない。痛みに耐えながら次々と襲ってくる魔物を捌くのはかなり辛いだろう。

 その姿を見ていられず、顔を逸らし目を瞑る。


 「カイト……」

 

 レミアに不意に俺の名前を呼ばれ、俺は目を開け顔を上げる。

 驚く。

 俺を疑っても可笑しくない状況で、俺を見るレミアの目はただただ俺への信頼の気持ちしかなかった。

 どうしてだ。どっからどう見ても俺が主犯だと分かるだろ。

 

 ────俺がレミアを守る


 不意に自分の言った言葉が脳裏に蘇る。

 レミアはそれを健気に信じているっていうのか?そんな馬鹿がいるか?俺とお前はまだ出会って、2,3日の関係だぞ?


 俺がそんなことを考えている内も、魔物は攻撃の手を緩めない。

 レミアは苦しいはずなのに、いつ倒れてもおかしくないほど出血しているはずなのに、諦めず向かってくる敵を倒す。


 「うわっ」


 ある魔物の攻撃で、レミアが背中に巻き付けていた風呂敷が弾かれ、俺の足元に飛んでくる。


 そういえば、中身はなんなんだ?


 俺は丁寧に包まれた風呂敷を解く。


 これって…………


 気づけば涙が止まらなかった。止めようとしても滝のように涙が零れる。今までの自分の非道を一気に悔いた。


 『私も剣をプレゼントしようかな……』


 レミアはあの時、そう言ったんだ。


 そう、風呂敷の中は剣だった。


 


 

 

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