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苦悩の2人

拙い文章ですがよろしくお願いします

 俺は魔法で身体強化を施し、大ジャンプを繰り広げ相棒黒炎剣ブラックフレイムソードで最後の魔物を上から真っ二つにぶった切る。


 ギャァァァアアアアアア


 耳を塞ぎたくなるような悲鳴をあげながら、どす黒い体をした全身毛だらけの魔物はバタりと倒れる。


 「これで全部か……」

 

 市場を抜け森に出ると急に50体近くの魔物が襲ってきたのだ。

 ほっと一息しながら血振るいをする。その拍子にドロドロの青緑色の血が地面に飛び散り、べチャリと生々しい音がする。


 そしてギラギラと殺気めいた黒炎剣を薄暗くなった空に掲げ、マジマジと惚れたように見る。夕焼けに照らされた黒炎剣は芸術品だった。


 ちなみにこれはミルレットからの贈り物だ。この剣を握るだけで、彼女が横にいるかのような気持ちになれて心が落ち着くのだ。……俺は本当に思い出すといったらミルレットの事ばかりだな。もう本当に忘れないとな。辛くて虚しくなるだけだ。


 剣に見蕩れていたら、横からただならぬ気配がした。ちらりと見ると、その犯人はジト目で俺を見たレミアだった。頭から湯気が上がっているのか、顎あたりに微かに熱を感じる。頬が火照っているのはレミアも好戦してくれた証拠である。


 戦闘中、横目でレミアを見た限りはなかなかの実力者だった。その証拠に一人で戦うよりかなりやりやすかった。さっき戦ったガルフよりは遥かに強いのは間違いないだろう。だが、それならどうしてレミアは格下のガルフを恐れていたのだろう。

 ちなみにレミアは魔法だけで戦うタイプらしく剣などの武具は一切使用しなかった。

 剣や槍の方が近接攻撃は強いのだが、女性それも少女の場合は重い武器を持つよりは自分の体から生じる魔法の方が幾分都合がいいだろう。

 


 「その剣もどうせミルレットさんからのプレゼントとか何でしょ」


 レミアはジト目のままそう聞いてくる。その口調は少し刺々しく不満そうだった。


 「そうだが。悪いか?」


 「別に! …………私も剣プレゼントしようかな」


 ボソボソと言うので後半が聞き取れなかった。


 「ん? なんだって?」


 「カイトは変態って言ったのよ! 今日はここで休みましょ。疲れたわ」


 レミアは頬をピンクに染める。口調が聞き取れないほど早口になっていて何かを誤魔化しているようだった。が、ここはそっとしておく方が得策だろう。またアッパーでも食らったら嫌だしな。


 そうしてレミアの言う通り、俺達は魔物をゾンビにならないように焼いて地に埋めたあと、そこで休むことにした。


 魔物避けに火を起こして2人で火を囲むようにして座る。ちなみに地べたに座ってもいいのだが


 「こんな固いところじゃお尻が痛いわ」


 というお嬢様育ちの我が儘を聞かされ、俺は土魔法で簡易な椅子を作った。


 「凄ぉい、こんなことも魔法で出来るのね」


 レミアは子供のように目を光らせて俺が椅子を作る工程を真剣に見ていた。ここまで素直に褒められると少し照れくさい。


 そして俺達は持ってきた食料で腹を膨らませた。決して美味しいとは言えないが、腹を満たすというだけなら十分だろう。レミアがまたなにか文句を言うと思ったが、流石にわきまえているのか文句一つ言わず黙々と食べていて少しばかり感心した。


 飯も終わり明日の朝も早いから早速眠ることにした。木と木の間に大きめのハンモックを吊るす。


 「ほらレミアはここで寝ろ。俺はあそこの太い枝の上で寝る」


 そう言ってレミアのハンモックからは少し離れた枝を刺す。

 

 「えっ……ほらこの木で寝たらいいじゃない」


 レミアは自分のハンモックにかなり近い木を指さす。


 「駄目だ、これは細すぎる。寝てる間に折れたらどうするんだ」


 「ぅぅう……あ! それならこれは?」


 レミアはあたりをキョロキョロしながらまた自分のハンモックに近い木を指さす。


 「見ろ、虫が湧いてるだろ。気持ち悪くて寝れるか」


 ウネウネと虫が蠢いている木で寝ろ、と命令するお嬢様。なかなかのSっぷりだ。


 「もぉぉ……それなら……その」


 赤くなった顔を隠すように俯きながらモジモジするレミア。


 「私とおんなじ……ハンモックで寝る?」


 上目遣いで見つめるレミア。正直に言おう。めちゃくちゃ可愛かった。思わず「喜んで」と言ってしまいそうになるド変態カイトくんを鎮める。


 「それはダメだろ。ほら俺たち一応男女なんだし」


 「男とか女以前に、私達は旅仲間よ」


 必死に説得しようとするレミア。こいつもしかして……


 「いや完全に逆だろ! 旅仲間以前に男とか女が重要だろ」


 「でも、1度は裸で語り合った仲じゃない」


 人差し指を立てて無理やり笑顔を作るレミアの目線はキョロキョロしていて完全に挙動不審だった。よくもそんな恥ずかしいことを堂々と言えたもんだ。


 「それとこれとは別の話だ……なぁもしかしてレミア、お前怖いのか?」


 「こ、こ、こ、こ、怖くなんてないわよ!

ば、ば、馬鹿じゃないの! ただカイトが怖がってると思ったからわざわざ遠回しに助けてあげようと思ったのよ!

それをあたかも私が怖がってるみたいな言い方をして(以下省略)」


 「そうか……レミアは優しいな」


 このまま黙っていたから永遠に愚痴を聞かされそうなので無罪の俺は無罪だけど男らしく本当に無罪だけど一歩引く。大事なことだから3回言った。


 「なら一緒に寝るってことね」


 レミアはさっきとは打って変わって安心したような表情をする。レミアさん、分かりやすすぎですね。

 フフフ……だけどレミアさん、デレのないツンは悲劇を招くことを学んだ方が良いですよ。


 「いや、大丈夫だ。さっきまでは怖かったんだけど何故かもう怖くないんだ。暗くて静かな闇の中、もしかしたらなにか出るかもしれないけど、俺はもう大丈夫だからレミアは俺のことなんて心配せず安心して寝てくれ。おやすみ!」


 俺はレミアに背を向けて、太い枝に向かって歩いていった。

 きっと今レミアはどうすれば良いか分からず立ち尽くして、また恐怖でガタガタ震えているだろう。


 バサバサバサバサ

 ギャァアギャァアギャァア


 木に止まっていた鳥のような魔物が突然不気味な声を上げながら飛び去った。


 「きゃぁぁぁあああああああ」


 「ヨイショっ……ってわぁぁあああ」


 木に登ろうとした瞬間、いきなり怖がり屋さんに後ろから抱きつかれて頭から地面に落ちる。


 「いててて、なんだよレミア」


 暗くてあまり表情が見えないが羞恥で顔が真っ赤になっている事だけは分かった。


 「…………よ」


 「えっ?なんだって?」


 きっと耳元で言われても聞こえないだろう声量でレミアは何かを言うが、聞こえるわけがない。俺はそんなに地獄耳じゃない。


 「だから一緒に寝てよ。……怖いから」


 風が微かに吹いて炎が揺れ、レミアの顔が照らされる。

 よほど怖かったのか涙目になって、顔はやはり真っ赤になっていた。


 「ふっ……仕方ないな」


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■


 そうして俺とレミアは同じハンモックで寝ることになったのだが、少しでも近づくと


 「あっち行って! 私のこと襲う気でしょ!」


 と罵倒を浴びせてきて、少しでも離れると


 「もっと寄りなさいよ! ……怖いから」


 と弱音を吐いてきて、正直お手上げだった。俺は此れっ切りレミアと一緒に寝ないと心の中で静かに決意した。


 魔物や虫の鳴き声がする度に体を大きくビクリとさせる超ビビリのレミアは結局、俺の腕に蛇のように巻き付いて眠りについた。なんだか自分の子供と寝ているような気がして眠るレミアの姿が微笑ましかった。


 レミアが眠りについたのを確認して俺は目を閉じる。

 そしてもう少しで眠りにつきそうになった瞬間、事は起きた。

 

 「きゃぁぁああああああああ」

 

 悪魔を見たかのような悲鳴。

 俺が飛び起きるとレミアは既に俺の腕ではなく、俺の体に縋り付いていた。また茶化しを入れようかと思ったが思いとどまる。それはレミアが尋常ではないほど震えていることに気づいたからだ。


 「うぐっぅぅうぐっぅうぐっ」


 啜り泣く声。


 「大丈夫だ。俺はここにいる」


 俺は少しでも落ち着かせようとレミアの髪を撫でる。そうしていると少しずつレミアは泣き止み落ち着いてきた。


 そしてまた静寂に包まれたと思うと、


 「カイト……すこし話していい?」


 と、レミアが普段では考えられないほどか弱い声でそう言う。

 

 「ん?」


 「私ね、兄を見捨てた後からこういう風に悪夢を見るの。

 夢では兄が私に言うの。「お前のせいで俺はこんな目に遭っている」って。それで私はいっつも魘されていた。

 それにね私、戦うことが怖くなっちゃったの。皆に期待され、兄に頼られ、私は自分の力を信じていた。でも、いざ魔王の前に立つと足が全く動かなかったの。仲間が殺られるのをただただ見ていた。情けない話でしょ。それ以来、私は戦うことが怖くなっちゃった」


 だから、レミアはガルフを前にして怯えたのだ。魔物に恐怖しなかったのは実力の差が歴然だったからだ。

 この先、相手が強くなるにつれてレミアの心は徐々に恐怖で耐えられなくかもしれない。

 レミアは、俺の横にいるただの少女はこんなに大きな苦難を抱えていたのか。いつもの純粋な笑顔の裏にはそんな深くて暗い闇があったのかよ。そんな悩みを抱えながらもレミアはみんなを笑顔にさせ、兄を、人間族を助けようとしていたのかよ。

 俺1人助けてもらいながら、レミアのことは何一つ見てあげられなかった……今度はおれが助ける番なのに、俺はなんて言ってあげたらいいか全く分からなかった。


 「そうか」


 俺が言えたのはそのたった3文字だった。


 阿呆だ。下衆だ。薄情だ。最低だ。最悪だ。惨めだ。愚かだ。卑劣だ。

 自分だけ救ってもらいながら、俺は彼女を闇から救ってあげられなかった。


 これが俺だ。

 これが人との関わりを拒絶した愚者の末路だ。

 世界を何十と救っていても、本当に救いたい少女の心を癒すことすら出来なかった。

 何が勇者だ。何が世界を救うだ。そんなこと豪語する権利、俺には微塵もない。


 威勢よく、守ると言った過去の自分を呪い殺したくなる。

 もう俺には自信が無い。レミアを最後まで守りきるという自信が。


 やっぱりレミアには帰ってもらうべきだ。孤独な俺には荷が重すぎた。

 俺には1人が相応しいんだ。


 レミア、ごめん。俺は君を守れなかった。


 


 

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