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敵の出現

拙い文章ですがよろしくお願いします

 「こんな所にいたんだな」


 やっと追いつくとレミアは赤い果実が実った木を背もたれに座りながら啜り泣いていた。


 「カイト……」


 すっかり赤くなった目で見上げたレミアはすぐにまた顔を埋める。


 「行くぞ。少しでも早く用を済ませて帰ろう。

そうすれば皆喜んでくれるさ」


 レミアと目線を合わせるために屈み、レミアのサラサラの白髪を撫でる。猫の毛みたいで少し気持ちが良かった。

 

 「うん……でもいざってなると不安になっちゃって」


 普段の明るく活発なレミアでは想像もつかないほど弱気になっていて、レミアはただの少女なんだと気付かされた。

 今までの俺ならここで冷たく突き放し1人で足早に旅を進めるだろう。だがこの世界では、レミアという感謝すべき他人だけは、俺が魔王を倒した瞬間また違う世界に飛ばされるとしても、最後まで面倒を見ると決めたのだ。


 「俺が守るさ」


 「えっ?」


 レミアはまた充血した目で俺を見つめる。


 「何があっても守るって言ったんだよ! だからお前はいつもの馬鹿みたいに前しか見てないレミアのままでいてくれ」


 レミアは一瞬呆気に取られた表情をしたが、すぐに口に手を当てて上品に微笑む。


 「馬鹿みたいには余計よ」


 「ふっもう大丈夫みたいだな」


 良かった。ウジウジされたままじゃ旅が進まないからな。


 「えぇ……どっかの馬鹿みたいに私の胸が好きな勇者様のお陰でね」


 「おい! 馬鹿みたいには余計だろ」


 まあ馬鹿みたいに好きだけどさ、胸は。

 ただ一度揉んだ身として言わせてもらうがレミアの胸は無に等しい。服越しにも膨らみがないことは分かっていたが実際触ってみると予想以上で愕然とした。まぁそんな事言ったらまた強烈なアッパーが来るから言えないんだけどね。


 「あら? お互い様じゃない?」


 レミアはしてやったりと、誇らしげな笑みを見せる。


 「違いないな」


 「でしょ?」


 俺はよっこらしょと、立ち上がりレミアに手を差し伸べる。


 「ほら行くぞ」


 レミアはその力を少し加えただけで折れてしまいそうな華奢な腕を伸ばし俺の手をギュッと握る。レミアの熱が、緊張が、高ぶりが伝わってくる。


 「えぇ……ここからは突っ走るわよ」


 「それでこそレミアだ」

 

 やはりレミアは後ろを振り返らず前だけを走る姿が魅力的だ。

 こうして俺とレミアは魔王討伐の旅に出かけた。


 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 1時間ほど歩いただろうか、人で賑わう市場のようなところに出てきた。

 ブルーゲン家の城は魔物の被害が少ないように丘の上に建てられていて、ここまで来るのに一苦労だった。というのも俺は2人分の食料が入った荷物を背負っているのだ。か弱い少女にこんな荷物を持たせるわけには行かないだろ! ……というのは嘘で。レミアに半強制的に持たされたのだが。


 俺は凛とした表情で横を歩くレミアを一瞥する。流石俺に付いてくると言っただけの体力と根性はあるようだ。もし、しんどいだの、疲れただの、と騒がれたらきっとレミアは俺の横を今歩いてはいないだろう。


 少し市場を歩いていると、人混みの中だというのに王女のオーラは格別だったらしくレミアの元には沢山の人々が集ってきた。当然俺は牛のような集団に押されて人混みから飛ばされてしまった。これからこの世界を守る勇者だと言うのに俺、惨めすぎ。


 一方人混みを作った張本人は嫌な顔を一切せずに一人ひとりに丁寧に対応していた。その表情は俺には見せたことのない、人の上に立つ王女としての表情だった。


 「レミア様! これからどちらに?」


 誰かがそう問う。


 「これから魔王を倒しに行くのです。 これで皆様に平和を齎すことをお約束します。なんて言ったって私には心強い味方、勇者カイト様がいらっしゃるのです! ……ってあれ? カイト? どこ?」


 はーい。僕はここデース。


 レミアからは見えるはずのないところで、俺は胡座をかきながら手を挙げる。


 「カイトぉ カイトったら……出てこないと食料は私が全部頂くわよ」


 それはなんとしても避けたい。腹が減っては戦はできぬ、まさにその通りで空腹のまま、戦場に出ることは自殺行為だ。

 まぁどんな相手だろうが空腹のまま戦っても圧勝できるほどの強さはあるのだが、精神面的にね。


 「ここだよ」


 俺は仕方なく人混みをかき分けながらレミアの前に姿を現す。

 するとさっきまで俺のことを眼中にもなかった人々の視線を一気に浴びる。こんなに熱い視線を多くの人から送られたのは久々だ。


 「ほらカイト、なんか言いなさいよ」


 レミアに肘で脇腹をつつかれる。真面目にしないと食事抜きになりそうなので、面倒だがせっかくだから勇者らしい、男子なら1度は憧れる演説をしてみようと思う。


 「あー ……俺が来たからにはこの世界はもうすでに平和になったと言っても過言でない。必ずや魔物は殲滅され安心できる生活が取り戻されるだろう……俺を信じて皆は待っていてくれたまえ」


 俺はいかにも勇者らしい演説を終え、右手拳を空に掲げる。

 

 大歓声。


 老若男女、全ての人の希望に溢れる声援が聞こえる。

 応援が力になる、という嘘のような状況を俺は体感したかもしれない。

 こういうのもなかなか悪くない。


 横を見るとレミアも満足そうに微笑んでいた。良かった。飯抜きは免れたようだ。


 「安心できる生活ねぇ」


 心を抉るような邪悪な声が聞こえ、人々はその声に怯えたように一瞬で黙り込み、その声主のために逃げるように道を開ける。


 コツコツという足音とともに声主は姿を現した。黒いローブを羽織った、紫のロング毛をした厳つい顔の男が悍ましい殺気を放ちながら俺とレミアの前にやって来る。


 顔には大きな切り傷があり、今までに過酷な出来事があったことを悟らせる。


 「ガルフ……」


 レミアがばつが悪そうな表情をする。ガルフと呼ばれた男は怯えるレミアをチラリと見た後、俺の方を向いてお辞儀をしながら自己紹介を始めた。


 「俺の名前はガルフ=ハザスク

 ハザスク家代表であり、反魔物撲滅派のリーダーだ」


 「反魔物撲滅派だと?」


 訝しい表情をしながら俺はガルフを睨む。普通の人なら怯む程度の殺気を放つが物怖じせずガルフは続ける。放つ殺気といい、レミアの怯え方といい、かなりのやり手かもしれない……。


 「反魔物撲滅派とは、その言葉通り魔物討伐に反対し、魔物と友好関係を結ぶべきと考えている団体のことだ」


 「なぜだ? なぜ人間に災厄を齎す魔物側に就く?」


 「別に魔物を擁護している訳ではない。ただ魔物及び魔王を倒すことを反対、いや無駄だと思っている」

 

 ガルフは反論を言わせぬ強い口調で断言する。

 

 「無駄だと?」


 「無駄というより不可能という方が正しいか。

魔物や魔王は人間を遥かに上回る力を持っている。そんな奴らを刺激するよりは友好関係を結ぶべきだと考えている」


 「だが友好関係を結べず、実際は魔物に被害を受けている。だから多くは討伐すべきと考えているんだろ?」


 「魔物だってハイハイとすぐに頷く訳がなかろう。ある程度暴れてさせておけばいつかは大人しくなってくれる、その程度の考えだ」


 ガルフは俺を馬鹿にするように嘲笑する。

 つまりそれまでの過程は、被害は、失われた命は仕方が無いということだ。


 「そんないつになるか分からない、不確実な考えが通ると思ってるのか? そんな愚かで低俗な考えでどれだけ多くの被害を受けると思ってるんだ」


 「魔物を倒そうとする方がよっぽど愚昧で阿呆だと思うが?」


 「どうしてそこまで……」


 そこで俺の言葉を遮ったのはレミアだ。


 「彼は以前私と私の兄さんと一緒にいた魔物討伐のための精鋭チームの1人よ。彼も私と同じ生き残り」

 

 なるほどな……それであんな知ったかのような口ぶりなのか。


 「つまり怖くなったのか、魔物が」


 さっき馬鹿にされたときの仕返しだ。

 ガルフは怒りと動揺で顔を盛大に歪ませる。図星ということだろう。


 「違う! 客観的に考えて不可能だと的確に分析したのだ。いつまでも鎮圧しようと固執しているお前達よりよっぽど合理的だ」


 ガルフは両手を広げながら、味方1人いない公衆の面前で堂々と演説する。


 「見苦しい言い訳だ」


 「なんだと?」


 急に不気味なほど静かな口調になる。爆発しそうな怒りを押さえ込んでいるかのように。そして暫くしてまた口を開く。


 「ならここで決着をつけようでないか。正しいのがどちらなのか。ここで俺を倒せないようなら魔物に刃向かう権利も実力はないということが証明される」


 「いいだろう」


 確かに以前の精鋭チームの1人倒せないようなら魔物を倒すことは出来ないだろう。


 が…………悪いな。俺は異世界を100回旅してるんだ。

 つまり魔王とか神とかを今までに99回倒してきた。


 俺を馬鹿にしたこと後悔するがいい。

 

 俺らの旅を止めた過去の自分を恨むがいい。


 


 今から格の違いを見せてやろう。


 

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