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お風呂の時間

拙い文章ですがよろしくお願いします

 100回目の異世界ボルテに召喚されたその日は白髪美少女レミアとの話が長引き、夜になってしまったので出発を明日に見送った。

 それはこの世界では(この世界に限ったことでは無いのだが……)魔王が思うままに作り出す魔物の運動は夜が活発で、俺達の旅路を徘徊しているため、レミアを連れての出発は危険とみなしたからだ。

 だからその日は一人部屋には勿体ないほどの広く豪華な部屋に泊めてもらった。驚いたことにこの世界はかなり文明が発達していた。

 その証拠として俺は今久方ぶりの風呂に入っている。ただの風呂ではない。ニッポンのものに引けを取らない巨大な温泉だ。シャワーはまだしも浴槽に浸かることが出来るのはこの世界がかなり発達していることを顕著に表している。ちなみに風呂に入ったのはチキュウにいた時以来だから実に2年半ぶりだった。


 久々のお湯に浸かると、俺の口から自然と溜息のような声が出る。


 「ふぅ~」


 シャワーの軽快な音、水が浴槽から勢いよく溢れる音、体を動かす度に聞こえる水の音、その全てがとても懐かしかった。


 硬直した筋肉が一気に緩んでいく感覚が最高に気持ちよかった。狂ったように異世界で殺しをしてきてかなり疲労が溜まっていたのだろう。


 「こうやってゆっくりするのは久しぶりだな」


 俺は貸し切りであるのをいいことに、独り言とは思えない声量で呟く。声量はあるものの声自体に力が入っていなく、この湯がどれだけ心地よいかを物語っている。


 「こんな風呂に入れるなら魔王なんて倒しに行かずにこの世界に停滞するのもアリだな……」


 そう思えるほど俺の心は最高に幸せな気分に満たされていた。


 「それは駄目よ」


 「まあそうだよな、レミア…………えっ? レミア?」


 俺は声のした、扉の方を振り向く。そこには体に白いタオルを巻いたレミアがいた。

 タオル越しに分かるレミアのモデル並みのクビレや肉付きのいい太ももからスラリと伸びる脚。胸が小さいものの、それがどうでも良く思えるほどのスタイル。その全てを舐め回すように見て、俺は思わずゴクリと唾を飲む。普段腰まで下ろしている髪を後ろで一つに纏めていて、それもレミアの魅力を引き立てていた。


 「お、おい。 ど、どうしてレミアが入ってきてるんだ」


 「きゃぁっ! カイト、見えてる!」


 ん? …………ぁぁぁぁあああああ


 興奮と驚きのあまり、俺は自分のアレを隠さずに無意識に立ち上がっていたのだ。レミアはアレを見ないように手で真っ赤になった顔を隠す。だけど少し興味があるのか、レミアは指と指の隙間から微かに覗いていた。


 興味があるなら言ってくれればいつでも大歓迎だよ、レミア?


 そんなことは言えるはずもなく俺は慌てて浴槽に再び浸かり、レミアに事の経緯を尋ねる。


 「それでレミア、どうして入ってきたんだ?」


 「……おっほん、それはね、裸の仲よ! 」


 レミアは自信満々に満面な笑顔でそう言う。俺はその返事に3秒ほど思考停止する。


 「………………は?」


 そう返すのが精一杯であるほど俺は今混乱している。男のアレを見られ、その理由は意味不明なもの。どんな紳士でも相手の希望通りの返事をするのは不可能だろう。一言でも発せた俺をぜひ褒めて欲しいところだ。……それはさておきレミアの話を詳しく聞こう。

 

 「レミア、少し詳しく話してくれ」


 「仕方が無いわね……」


 そう言いながらレミアは俺の隣に浸かった。まだ体は洗ってないはずなのに甘いいい匂いがレミアから漂ってきて、理性が爆発しないように保つのが大変だった。


 「お母様が言ってくれたのよ。旅を一緒にするなら仲良くなっていた方がいいって。で、そんな時に最適なシチュエーションがお風呂ってわけ!」


 レミアは本当に自信満々に言う。まぁ確かに裸の仲とは言うが……それが許されるのは父親と息子、もしくは母親と娘と同性に限られるような気がする……。俺はそれをレミアに言おうとするが気持ちよすぎて蕩けそうな表情をしていたので言い出すのが躊躇われた。 ……まぁレミアが良いなら、後は俺が襲わなければいい話だ。


 それから俺たちは無言のまま己の体を癒していた。不思議とその無言は気まずいものでもなく、きっとレミアとの波長が合っているのだろう。こうして2人でいて気まずくなかったのは俺の初恋でもあり、もう一生出会えない少女ミルレット以来だ。なぜか、俺の横にいるレミアはことあるごとに俺にミルレットのことを思い出させる。

 …………きっと2人は似ているのだろう。人を気遣える優しいところや強い信念を持っているところ、そして少し天然なところまで。ミルレットは今頃何をしているだろうか。ダンかロロと結婚したのだろうか。それとも俺のことを今でも…………


 「……ト、ねぇ、カイトったら」


 レミアに呼ばれてハッと現実に戻ってくる。俺がレミアの方を見ると「カイトの馬鹿!」という捨て台詞とともに頬を風船のように膨らませてそっぽ向いてしまった。どうやら何回も呼ばせてしまったみたいだ。


 「すまない、レミア少し考え事をしてて……」


 「…………ミルレットさんのこと考えてたんでしょ」


 ボソリとひとり言のように漏らす。それを言うレミアの姿は拗ねた子供のようで、よほど無視されたことが気に食わなかったのだろう。


 「あぁそうだけど…… すまないな無視して。それで何の用だ?」


 「……カイトはその、あの、ミルレットさんのことそんなに好きだったの?」


 レミアは股あたりに手を置いてモジモジと躊躇いながら言う。その仕草はとても可愛らしく男心が盛大に擽られた。……別にレミアになら話してもいいだろう。


 「そうだな ……初恋だったからな」


 初めての異世界召喚で慌てふためいていた俺を慰め、癒し、そして受け入れくれた。それがミルレットだった。その絶世の美女の顔立ちに加えて優しく気さくな性格の彼女を俺はすぐに好きになった。ほとんど一目惚れのようなものだ。一緒に何度も死と直面した壮絶な旅をしていく内にその気持ちはどんどんと大きくなっていた。 ……そして魔王を倒し俺はその気持ちを打ち明けたのだ。だけど彼女の返事すら聞けず俺は……はぁやはりこれを思い出すと頭痛がして胸が締め付けられる……ミルレットは俺にとって一生忘れられない最高で最悪の思い出なのだ。


 「初恋か……」


 「レミアは恋とかした事あるのか?」


 他人に無関心に生きると決めた俺なのにどうしてかそんな質問をしてしまった。……きっとレミアの言う『裸の仲』のせいだろう。


 「ないわよ。ずっとこうして王宮で引き篭っているんだから」


 まぁそれが妥当だろうな……どこの世界に行ってもそこの姫さん達は男慣れをしていない印象だった。いや、俺も人にとやかく言うほど女慣れしてないんだけどな……だってほら、まだ童貞だし?


 「そうか……いい相手が見つかったらいいな」


 俺は言って少し後悔をする。それは流石に無責任すぎたと思ったからだ。

 レミアはそれを聞いて少し顔を暗くする。怒るというより何か聞き出したいことをなかなか言えず緊張しているような……よく分からんが。


 「うん…… そうだね……それで、カイトは……もう恋愛とかするつもり無いんだよね?」


 「ない」


 それだけはキッパリと断言する。俺はもう決心したのだ。

 レミアはなぜか落胆して泣きそうな表情をする。そんな表情をされたらこっちが泣きたくなる。


 沈黙。今度はかなり気まずく重苦しい沈黙だ。仕方ない……俺の最強の切り札を出そう。一度も見せたこともない大技だ。 ……その名は『笑い話』だ。


 俺は大きく深呼吸をして気合を入れる。誰かに余談を話すのは久しぶりだからだ。


 「あれは50回目の異世界コウダでの出来事だった。俺は毎回のように魔王を倒すために召喚され、余裕で魔王の所まで辿り着いたんだ。

 でもそこには魔王の姿はなくてな、少しして凄まじい力を感じて俺は空を見上げたんだ。そこには真っ赤な体をした竜の背中に乗った魔王がいたんだ。

 俺は一気に警戒心MAXにまで引き上げた。すると赤竜はその巨大な双翼を羽ばたかせながら高度を下げてきたんだ。俺は確信した。過去最強の魔王だと。魔王は竜から飛び降りて華麗な登場をした。……が、そこは腐敗した地面だったようでそのまま崖に落ちて死んだんだ。そして魔王は落下しながら俺に言ったんだ。『覚えていやがれ』と。…………クックククハッハハハハ……どうだ面白いだろ? ……俺は何もしてないのに『覚えていやがれ』だぜ?それも憎しみや恨みの感情を溢れんばかり含めて……もう腹を抱えて笑ったよ…………ハハハハハハハ」



 …………ありゃ? ……全然笑ってない?



 …………いや違う。笑いを我慢してるんだ。肩が小刻みに揺れてる……照れくさいんだな。可愛いやつだ。


 「こちょこちょこちょこちょ」


 俺はトドメを刺そうとレミアの脇に手を滑り込ませ蜘蛛のように小刻みに指を動かして擽った。


 プニッ


 ……柔らかい。まるでプリンのような、マシュマロのような……


 俺は舞い上がっていた。自分の最高の『笑い話』がウケたから。

 俺は興奮していた。笑いを我慢している素直じゃないレミアに。

 俺は夢中になりすぎた。…………レミアが女だと忘れて。


 気づけばオレは強い衝撃を受け天井を見上げていた。どうやらレミアの渾身のアッパーを食らったようだ。

 顎は痛むが俺はなんだか幸せな気持ちになれた。久しぶりに誰かと会話をし、誰かと笑い合い、誰かと触れ合い、誰かと仲間らしいことをしたから。


 風呂は、もしかしたら俺の体だけじゃなく氷のようになった心まで温め、癒してくれたのかもしれない。


 『裸の力』偉大なり。

 


 ………………無念。

 俺は大の字のまま意識をなくした。

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