少女の過去
拙い文章ですがよろしくお願いします
「おい、どういう事だよ…… 俺1人で充分だ」
俺は慌ててレミアの肩を掴む。こんな如何にもか弱そうな女に付いてこられたら迷惑で仕方が無い。俺はさっさと次の世界へ行くんだ。一つの世界に留まっていてもいい事なんて一つもない。
「あの……」
レミアは頬を少しピンクに染めて、申し訳なさそうな表情をする。
そうか……自分の誤ちに気付いたんだな。
「いや、いいんだ! 俺も少し言いすぎたからな」
俺は前髪を手で掬いながら、少しカッコつける。レミアは首を大きく横に振る。白い髪とともに仄かにいい香りが漂う。どうして美少女とはいい香りがするのだろう。100もの異世界を経験し、絢爛華麗な少女を多く見てきてこの方程式は確実になりつつある。
「違うんです…… その」
なんだ?
「少し……」
少し?
「少し近いです」
え?
俺は冷静に今の状況を確認する。俺とレミアの顔の距離がほぼ0に等しかったのだ。
俺は自分の体温が急激に上昇したのを感じる。
レミアの表情を窺う。赤くなった顔を隠しながら恥ずかしそうにモジモジしていた。妙に男心が擽られる……。
「すまない…… 少し熱くなってしまった……」
「いえ…… 大丈夫です」
「「……………………」」
ううん……気まずい
「おっほん! でもどういう事だ? レミアも魔王倒しに付いてくるって?」
俺は気まずい雰囲気に咳払いで区切りをつけ、本題に話を戻す。
「私も人間族の最前線を行く家の一員ですから」
レミアは自信満々に自分の胸に拳を当てる。
「でも、レミアは次期王女だろ? みんな反対してるんじゃないのか?」
いや、この質問は野暮だったか…… おそらくもうその問題は……
「大丈夫です! しっかり説得してきました!」
まぁそうだろうな。さっきの言い争いはおそらく、いや確実にその件についてだったのだろう。
だけど俺にも信念がある。こんな美少女と一緒に旅をしたら俺はきっと彼女を好きになってしまう。それで傷付く、辛くなるくらいなら俺は1人で旅をしたい。
俺はもうあんな思いはしたくない。何をしても手につかず、頭に浮かぶのは1人の少女の顔。胸がずっとチクチクして、自分の頭上にだけ雨が降っているかのような、自分だけが辛い思いをしているのでは、という思惑に囚われ、他人を憎むようになる。その思いを消そうと魔王や神を殺しまくってきた。もう1度言う。俺はあんな思いは二度としたくない。
故に俺は彼女、レミアに強めの口調で言う。
「俺は1人で旅に出る。力を持たないお前がいたら至極迷惑だ」
辺りが極寒に包まれる。俺が放った殺気だ。
彼女はじっと俺の目を見る。どこまでも真っ直ぐで透き通ったエメラルドグリーンの本当に美しい瞳だ。
「分かりました。ではカイト様はお1人で旅をなさってください。私は少し離れて付いていきます。あなたには迷惑は絶対におかけしません。私の身は私で守ります」
レミアのその口調は有無を言わせないほど迫力と威厳を含んでいて、彼女には強い信念があるように見えた。
他人に興味を示さなかった俺の心に彼女への関心が芽生える。それはきっと彼女が初めて、俺の心の闇を聞いてくれたからだろう。
「そこまで魔王倒しに行きたい理由はなんだ? ……ただ人間族の最前線にいる国の王女だからという訳では無いだろ?」
「はい……」
レミアは顔を伏せる。悲しみ、憎しみ、痛み、苦しみ、そんな色々な想いが交じりあった表情をしていた。
「私には兄がいました。名前はグール=ブルーゲン。
兄は人間族の救世主と言われるほど戦いの力に優れている人でした。そしてその兄が人間族の精鋭を厳選して最強の軍隊を作り上げました。人間族は皆、彼らならやってくれると確信していました。その時も私も兄のチームに呼ばれました。私は兄には劣るもののある程度の力を持っていましたから。次期王女と次期王子、その両方が戦場に出るということになって国中、いえ人間族全てが混乱しました。しかしそれを止めることは誰も出来ませんでした。それほど人間族は追い込まれていたということです。
そして兄の率いるチームは次々と魔族を倒し、ついに魔王ダークに辿り着きました。相手は魔王1人、こちらはほとんど無傷状態。どちらが優勢かは一目瞭然でした。
ここからは私もあまり思い出したくないのですが……ダークは強すぎたんです。そして彼は私たちの軍隊を次々に嬲り殺しました。一瞬で。そして兄と私、残り数名にまでチームは削られました。
それから兄が突然1人でダークに挑みだしたのです。そして私に言いました。『逃げろ』と。そして『俺もお前も殺されれば人間族に未来はない』と続けました。兄は必死にダークを食い止めながら私に訴えてきたのです。今まで見たことない迫真迫った表情でした。
私は逃げたくなかったんです。しかしもしここで2人とも殺られてしまえば、人間族の次期リーダーがいなくなってしまいます。それだけは避けたかった。だから私は『必ず助けに来る』と言い残して、その場を後にしました。無力な自分を責めました。それが1年前の出来事です。それ以来、兄は姿を現していません。皆はもう死んでいると言いますが、私はそうは思いません。兄は必ず生きています。だから私は約束通り兄を迎えに行かないといけないんです。ですが私1人では魔王はおろか、魔族に辿り着くことすらできないでしょう。だから私はカイト様を召喚したのです。
…………これが私があなたの魔王倒しに付いていきたい理由です。自分勝手な事情を押し付けて申し訳ありませんでした。私も1人で旅に出ます! ……もし旅途中で出会った時は無視しないでくださいね」
レミアは俺にはにかんで見せた。それが無理やり作った笑顔であると気づくのに時間も労力も必要無かった。レミアの目には涙が浮かび、体は恐怖や不安でブルブルと震えていたからだ。
誰かのために、これは俺がとうの昔に置いてきてしまった、優しくて強い想いだ。俺はどこまでも真っ直ぐな信念を抱くレミアを昔の自分を重ねてしまい、とても懐かしい気持ちになった。
ここまで話させて、それに泣かせてまでして断ることなんて…… くそっ ……もう誰とも関わらないと決めたのに…… もういい…… どうにでもなれ。
「レミア……付いてこい」
「えっ……」
溢れる涙を俯いて拭っていたレミアが顔を上げて驚愕の声を上げる。情けなく、あっけにとられた表情をしていたレミアに噴き出しそうになった。
「だから付いてきていいって言ってるんだ
……俺は魔王倒しに、レミアは兄探しに。違う目的だけど向かう場所が偶然、運命的な確率でカブっただけだ…… 分かったな?」
俺は顔が蕩けそうなくらい熱くなっているのに気づく。それを見てレミアが上品に右手を唇に当てて、クスリと笑った。
「そうですね。偶然、カブっただけですね
……ではよろしくお願いしますね、カイト様?」
レミアは腕を後ろで組んで、俺の顔を覗き込んでくる。俺は咄嗟に顔を背ける。あんなと睨めっこしてなら頭が爆発して気絶してしまう。
「カイトでいい。それと敬語もやめてくれ
これから一緒に旅に出るのに変に距離があるのは気持ちが悪い」
「はい、分かりまし……あっ……分かった!」
レミアはまた口角を少し上げて、薄ら微笑む。それは慎ましい蕾が花を咲かせたかのような美しさ、もっと言えば趣があった。
「よし」
「でも…………」
何かイタズラを思い浮かんだ子供のような悪戯な笑みを見せる。
「あんなに他人と馴れ合うつもりないって言ってたのに私との距離とか考えるんだね」
………………しまったぁぁぁぁあああああ
ついレミアと少し近づきたいと思っている、昔の自分が出てきてしまったぁぁぁぁぁあああ
恥ずかしいぃぃぃいいい。あんなドヤ顔で自分の過去を語っておきながら、もうそのキャラを潰しちゃってるよぉぉぉぉおおおお
沸騰したヤカンのように急激に体が熱くなる。炎の中にいるかのようだ。
「うるさいっ」
俺はそれだけ言って、レミアに背を向けた。レミアの澄み切った笑い声だけがいつまでも耳に聞こえた。
でも……………… 他人と一生関わらないと決めていた俺が100回目の異世界にして、また誰かと旅をするなんてな…… それも超美少女と…… 。
………………何もなければいいけどな。
役目を終えたらこの世界からも消えることになる。これだけは絶対に忘れないようにしなければ……