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100度目の召喚

新作です。あまり長編にするつもりはありません。

拙い文章ですがよろしくお願いします。



 召喚異常体質


 濃密な魔気に曝され、暗黒極寒の地、通称終焉大陸で勇者の俺、伊勢海斗(いせかいと)は涅色の空を仰ぎながらそう呟く。


 俺の足元には、過去最強と謳われて、人々から畏怖された、魔王ルルージュが青緑の血を流し、横たわっていた。

 俺はトドメを刺した黒炎剣ブラックフレイムソードを血振いする。普通ならここで仲間と勝利を喜び合うけれど、あいにく俺にはそんな仲間はいない。1人でここまで辿り着き、ルルージュを殺した。正直相手にならなかった。魔力、スピード、判断力、経験、知識、才能、すべてにおいて俺は奴を凌駕していた。それも遥かにだ。


 俺はこの世界、クロミーネに人々を圧倒的な力で支配している魔族、および魔王ルルージュを倒すために異世界召喚された。

 今までにも数多の人が勇者召喚され、終焉大陸に足を踏み込んだが、皆圧倒的な力を誇るルルージュの前に屈服し、25人目の勇者として俺は召喚されたらしい。


 そんな俺が最強とまで謳われた魔王を一切、歯牙にもかけなかった理由。それはこの世界、クロミーネが俺の初めての異世界召喚ではなかったからだ。今までに召喚された数は実に99回だ。


 俺は3年前まで普通の中学2年生をしていた。テスト前だからと図書室で勉強をしていたら、突然の頭痛に襲われ気を失った。そして気がつけば、勇者として異世界ロトスに召喚されていた。俺は当然、慌てふためき、恐怖のあまり中2にしてお洩らしまでした。今思うと俺の一番の黒歴史かもしれない。それでも俺を召喚したミスチーフ国王女ミルレットや時間がなんとなく俺を異世界生活に受け入れさせてくれた。

 そして異世界にも慣れてきたある日、ミルレットにこう言われた。


「私とともに人間を支配している魔族、そして魔王を倒してください」


 と。それも上目遣いに猫なで声でだ。暇を持て余していた(ほとんど可愛さにやられた)俺はミルレットのために一肌脱ぐことにした。 そして俺はミルレット、そして仲間のダン、ロロと共に魔族を次々と倒し、最後には死にもの狂いで魔王を殺した。どっちが負けてもおかしくない死闘だった。ゆえに俺はミルレット、ダンそしてロロと泣きながら喜び合った。ニッポンでは決して味わえない満足感や達成感に満たされていた。異世界に召喚されて良かったかもと思えるほどに俺はその瞬間が最高で最高で仕方がなかった。


 俺は魔王を倒してからミルレットに言うと決めていたことを言おうと、ミルレットを真剣な眼差しで見つめた。事前に伝えていたダンとロロはニヤつきながらも、


 「男になれよ、ハヤト」


 という捨て台詞とともに2人にしてくれた。

 今思えば、あの2人は心の通じあった、最高で最強の親友だったと思う。


「……ミルレット、俺は君が好きだ。どんな高い壁でも、どんな試練でも必ず超えられた。君となら何でも出来る気がする。だから俺と一緒にいてくれ」


 不器用ながらも俺は自分の気持ちをミルレットにぶつけた。

 ミルレットは口に手を当てて、目から滝のように涙を流した。それが悲しみや拒絶の涙ではないことはずっとミルレットを見てきた俺には分かった。そしてミルレットは口を開けて、俺に告白の返事を言おうとしていた。俺の頭ではすでにミルレットとの他愛もない生活の光景が浮かんでいた。


 その瞬間、俺は突然の頭痛に襲われ、その場で倒れこみ、踠き苦しんだ。その痛みはかつて図書室で味わったものとそっくり同じだった。



「ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 ミルレット、ダン、ロロが俺に駆けつけてきて、名前を鬼の形相で呼んでいるのが分かる。

 ミルレットの大粒の涙が俺の頬に当たる。


「ミルレット……」


 名前を呼ぶのが必死だった俺は意識が遠のいていくのが分かった。


「カイト、私もあなたのことが……」


 そこで俺の意識はプツリと途絶えた。そして俺は新たな異世界イローネルに召喚された。自暴自棄になり、呆然としていた俺にテンプレの如くアレを告げてくる。


「勇者さま、私達を苦しめている神を殺してください」


 神を倒した俺は使い回しのように新たな世界へ、そしてまた新たな世界へと召喚された。最初の方はまたミルレットのいるクロミーネに戻れるかもしれないと希望を持っていたが、それが望んでも仕方がない虚しいだけの希望だと分かってからは、暇つぶしだけのために世界を転々とした。


 ある時は集団召喚の一員として、またある時は魔王として、最終的には神として、多種多様な目的のために俺は召喚された。目的を達した俺は盥回し(たらいまわし)されるように世界を転々とした。その世界で得た力を得たまま、新たな世界に行くことが出来る、俗に言う強くてニューゲームだったゆえに、最強でいられた俺は99回目のこの世界でも魔王を遥かに上回る力で凌駕することができたのだ。


 新たな世界へ召喚されても、目的を達成すればまた別の世界へ行くことが分かっている俺は、その世界で好きな人や仲間を作ることが馬鹿らしくなった。それがどれだけ愚かなことかをロトスで身に染みて経験したからだ。

 それに99回も魔法の世界を経験して、培った力があれば、仲間を作ることが足止めになる。《召喚異常体質》の俺は一生、仲間や好きな人を作らないと決めたのだ。1人であらゆる異世界で力を振るうと決心したのだ。


 そんなことを考えていると、魔王を倒した俺はいつものように凄まじい頭痛に襲われる。まぁこの痛みにもなれて、ほとんど痛いとも思わないのだが……。


「また用済みってことか」


 俺は最後にそう呟き、99回目の異世界クロミーネを去った。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■



「……さま ……勇者さま」


 谷の湧き水のような澄み切った声に誘われて俺はゆっくりと目を開ける。

 そこは少し窮屈なくらいの牢獄のような場所だった。四方には爛々と燃える松明が設置されていた。


 複雑かつ綿密に設計され、青白く光った魔法陣の上に座らされていた俺を、どこまでも真っ白な髪を腰あたりまで下ろした美少女が覗き込んでいた。


 その俺と同年齢であろう彼女は、エメラルドグリーンの目で心の内まで見透かしそうなほど真っ直ぐと俺を見つめる。


 「お気づきになられましたか……勇者さま」


 少女はまな板のような胸に、手を上品に添えて安心したような素振りをする。


 「あぁ……俺はカイトだ。

 早速だが、この世界では俺は何をすればいい?」


 簡単な自己紹介を済ませ、俺は早速召喚した目的を少女に問う。

 少女は驚いたような表情をする。当然といえば当然だろう。突如召喚されて慌てふためくはず人があまりにも冷静で、自分の立場を鮮明に理解していたのだから。

 だが俺にとっては、前者の反応こそが懐かしくあり、異常であり、そしてとうの昔に卒業したものなのだ。100回目の召喚は伊達じゃない。ナメてもらったら困る。

 そして、少女と同じ反応を俺は90回以上見てきたので、目の前の少女もするだろうことは予想していた。その日常になりつつある一連の反応に俺は嫌気が差しそうになる。


 「あなたは一体……」


少女は俺の異常さを不審に思い、独り言のように声を洩らす。


 「そんなことはどうでもいい……おれはこの世界で何をすればいいと聞いている」


 余計な会話はするつもりは更々ない。この世界でも俺は目的だけを果たし、101回目の世界に旅するのだ。相手がどれほど美貌に富んでいたとしても、俺は全く時めかないし優しい言葉を掛けるつもりもない。それが愚行だと分かっているから。


 俺は怒りの表情とともに、微量の魔力を体外に排出する。俺にとっては屁でもない量のそれは、少女にとっては死すら連想するほど邪悪なものだろう。実際、これを受けた少女たちは全身を子鹿のように震わせ、悪魔を見るかのような目で俺を見るのだ。だから目の前の少女もきっとそうだろうと思っていた──だが少女はその羨ましいほど、美しい緑の目で俺をじっと見つめる。

 俺は唖然とし、つい余計なことを聞いてしまう。


「俺が怖くないのか?」


「えぇ……どれほど勇者様に殺気を放たれようが、貴方様は本当はお優しい方だと分かるので怖くありません」


 少女はさぞ当たり前かのように言う。


 「……で、カイト様、あなたは何者なんです?」


 少女は無駄に威圧を放ちながら、俺を見つめる。その絶世の美女と謳っても過言、いやその片鱗すら表せないかもしれない、その美貌で見つめられて、俺は少し顔が熱くなるのを感じる。

 答えるまで何度でも同じ質問をしてきそうな勢いだったから、俺は今までのことを少女に話した。彼女は俺が初めて自分の異常な特質について話した人となった。


「はぁ……分かったよ」


□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 「……ていうことだ

もういいだろ……で、俺は一体なに……はぁ?」


 俺が話し終えて、顔を上げると少女は顔をグチャグチャするまで、顔を涙で濡らしていて、折角の美人が台無しになっていた。


 「くうっ ……ううっ ……ううう ……うっうう……うわぁぁぁああああん」


 とうとう子供のように泣き出した少女。


 「おいおい、そんなに泣くことないだろ」


 泣かれると思ってなかった俺は、珍しく慌てふためいてしまった。


 「だって、だって、カイト様やミュレットさんのお気持ちを考えるだけで、悲しくて悲しくて……カイト様は友達も……グスン……恋人もいなくて1人悲しく長い長い旅をされてきたのですね」


 「おい、その言い方は少し語弊をうむ。

 俺は友達とか恋人を作ろうとしていないからいないだけで、ぼっちって訳じゃない……いやぼっちだけども俺は意図的にぼっち…………て、もうどうでもいいわ。何か虚しくなってきた」


 俺にとって初めてのその反応は不思議と嫌な感じはなく、むしろ冷たくなっていた心がジワリジワリと溶けてる感じがして、何だか心地よかった。

 目の前にいる少女は、今までの出会った自分たちの願いだけを当てつけてくる人々とは違う気がした。


 それから少女は10分ほど泣き続けた。その途中、その泣き声を聞きつけた護衛の男5人が


 「レミア様を泣かせた愚か者め、今すぐ懺悔し、その首を差し出せ」


 と剣や槍を持って、俺に襲いかかってきた。

 来るもの拒まず精神の俺は、危うく彼らを殺しそうになったが、少女──レミアが彼らをすぐに抑えてくれた。


 「やめなさい、カイト様には手を出してはいけません」


 その無駄に威厳のある声に、強靭の体つきの男達が縮こまっていた。

 泣き止んだレミアは改めて自己紹介をしてくれた。


 「私の名前はレミア=ブルーゲン

ブルーゲン家の一応、次期王女とは言われてるけど、私は部屋に引きこもって実務をこなすよりも、旅に出ることが好きかな?」


 それからレミアは俺を召喚した目的を事細かに話してくれた。

 まぁその目的は、やはり他の異世界召喚と何ら変わらないことだったのだが……。


 簡単にまとめるとこうだ。


 俺が今回召喚された、この世界ボルテは魔族と人間族はかつては共生・共存していたが、2年前に魔族側に常軌を逸した力を持った子、ダークが生まれ、魔族側のトップである魔王に君臨してから、その平和はドミノ倒しのように呆気なく崩れた。

 ダークが魔王の座に就いてからというものの、魔族はメキメキと力をつけ、人間族を支配することになった。

 ゆえにその魔族、及び魔王を倒してほしい、というのがレミアの願いらしい。

 ちなみにブルーゲン家は、人間族を統べている最も勢力のある国、ルース国を治めていて、魔王討伐の前線を走っている家系であるらしい。つまりレミアは人間族トップの王女という訳になる。


 目的を聞いたなら早速その魔族とダークとやらを倒そうと支度を始める。


 「おい、レミア。

 この世界の地図と十分な食料と飲み物を至急用意してくれ」


 「もう出発されるのですか?」


 レミアは何だか嬉しそうな表情で言う。そんなに俺が居なくなるのが嬉しいかよ。別にいいけどさ。


 「あぁ……長居するつもりは無い」


 「了解しました!」


 レミアは頬を赤らめて可愛らしく敬礼をする。そういうので男が全員惚れるって思ってるなら、それは大間違いだ。決してドキッとなんてしてない。


 それからレミアは近くに仕えていた召し使いに、俺の言ったものを用意するように指示していた。

 その間、何度か言い争う声が聞こえたが、興味の無い俺の耳には全く届かなかった。「いけません、レミア様」と必死に何かを止めるようなことを言っていたのは聞こえたが、何の話かはさっぱり。

 言い争いが終わったと思いきや、次はいかにも高級そうな衣服に身を包んだ老夫婦がやってきた。恐らくレミアの両親だろう。彼らも召し使い同様、レミアの肩を掴んで、物凄い形相で何かを言い聞かせていた。レミアも食い下がらないようで、結局はレミアが召し使いや両親を説得したようだ。


 1時間後


 地図と食料と水の入ったカバンが俺のところにやってきた。

 俺はすぐに異変に気づく。






 ……………………量多すぎないか?


 そう、一人分にしたら多すぎるのだ。もしこれが一人分だと言うのなら、俺が泣く子も黙る大食いか、魔族までの旅が俺の故郷、地球で世界一周旅行並みの道のりかだ。


 俺はやってきたレミアに尋ねる。


 「レミア、これ少し多すぎる。良くしてくれるのは有難いが、こんなに食いきれないぞ? 」


 レミアは不思議そうに首を傾げる。俺は自分の言っていることが間違っているのかと疑いたくなった。

 そしてレミアは衝撃、驚愕の事実を突きつける。


 「何言ってますの?」




 ………………ん?




 「私も行きますのよ」









 ……………………え?




 

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