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アヤカシ達の体験記

アヤカシ達のくりすます

作者: 葵枝燕

 こんにちは、葵枝燕です。

 昨日は、十二月二十五日――クリスマスでしたね!

 と、いうわけで、クリスマスものを書いてみました。私にとって、「なろう」に登録して二回目のクリスマス、そして、二回目のクリスマスものです。

 今回は、ハロウィンに投稿した『アヤカシ達のはろうぃん』の第二弾というかたちです。一応、『はろうぃん』を読んでなくても楽しめるような作りにした……つもりではあるのですが、どうでしょうか。

 二〇一六年十二月五日くらいから書き始めて、昨日十二月二十五日に完成・投稿しました。間に合わなかったら来年に回そうと思っていたので、間に合ってよかったです。ていうか、前回で学んでほしいです、自分。

 それでは、どうぞご覧ください!

 ギョクは、椅子(いす)に腰掛け、木でできた丸い食卓に(ほお)(づえ)をついていました。何度目になるかわからないため息が、口からこぼれます。

(何で、ワタシはここにいるのかしらね……)

 その思いも、この場所に来て何回思ったかしれません。ギョクはこの場所に来てからずっと、同じことを思ってはため息をついていたのです。

 そしてこれも、何度思い出したことでしょう。

 それは、今朝の出来事でした。


 時刻は、早朝五時。まだ外は薄暗く、同時に肌寒くもありました。そんな時間に、ギョクは家の中を歩き回っていました。

(これで、全部かしらね)

 ギョクはその部屋に入ると、持っていた木箱を下に置きました。その木箱以外にも、様々な大きさの木箱が畳間一面に(ひろ)がっています。ギョクは、すっかり冷たくなった手の平をこすりながら、ゆったりと座りました。そうして、辺りに置いた木箱達を一通り眺めてみました。

 今年も残すところ十日――という頃になると、ギョクは必ず大掃除をします。家の中も外も、()(れい)(みが)()げるのです。寒いのが苦手なギョクですが、綺麗好きな性格のおかげか、掃除をしている間はそれを忘れることができました。

 ちなみに今日は、外にある倉庫の掃除をやるつもりです。倉庫の中に入っている荷物を全て運び出し、使うものと使わないものに分け、使わないものを手放す――という大事な作業です。もちろん、倉庫自体の掃除も忘れません。綺麗になっていく家の中を想像して、ギョクは何だか楽しい気分になってきました。

(さて、と)

 ギョクは、一番近くにある木箱に手を伸ばします。そのとき、目の前の戸が勢いよく引き開けられました。

「ギョク! いる!?」

 そんな言葉と共に、縁側に繋がるその戸を勢いよく引き開けたのは、ヨウカでした。ギョクは、箱を自分の膝の上にのせながら、

「見ればわかるでしょう。それから、静かに開けてくれないかしら。その扉、あなたのバカ力で何回壊れたと思っているのよ」

と、冷たく言い放ちました。しかし、ヨウカは全く気にしていません。家主の許可も得ずに、上がり込んできました。

「出かけるよ!」

 満面の笑みを浮かべ、ヨウカはそう言いました。ギョクは、そんなヨウカに(いち)(べつ)さえくれることもなく、箱の(ふた)を取ります。

「ちょっと、聞いてんの?」

「拒否するわ」

 ギョクは、やはり冷ややかに言いました。その間も、箱の中に入った(かんざし)を一つ一つ取り出しては、なにやら確認しているような作業を黙々と続けています。

「何で?」

 ヨウカは、ペタンと座り込みます。その際に、ヨウカの手が積み上げた木箱に当たり音を立てました。それを聞いたギョクが、()(けん)にほんの(わず)かですが(しわ)を寄せました。

「年始めにそなえて大掃除をする――ワタシの年末の恒例行事を、知らないわけじゃあないでしょう?」

 ギョクは、頷きながら、

「知ってるよ。そりゃあ、かれこれ百年以上になるくらいの、長~い付き合いだからね」

と、答えました。

 ギョクもヨウカも、共に人間ではありません。ギョクは(ねこ)(また)、ヨウカは(よう)()――そんな名前で呼ばれる妖怪なのです。妖怪達は、人間よりも長い時間を生きることができます。ギョクもヨウカも、見た目こそは幼いながら、実年齢は百歳以上になるのでした。

「なら、諦めて帰ってくれるわよね。掃除の邪魔、しないでくれる?」

 ギョクは、素っ気なく言って、次の箱に手を伸ばしました。それを見たヨウカが、少しだけ口を(とが)らせます。

「ギョク、今日が何の日か知らないの?」

 こちらの話をまるで聞く気のないギョクに、ヨウカは不満げでした。ギョクは、そんなヨウカの様子は知っていたものの、視線を向けることはありません。その代わりのように、

「十二月二十五日――つまり、“くりすます”だって言いたいのでしょう?」

と、言葉を発しました。それを聞いて、ヨウカの顔がパァッと明るくなりました。

「知っているなら話が早いや! ね、ギョク、くりすますぱーてぃーしようよ!!」

 満面の笑顔で言うヨウカにチラリと視線を向けて、ギョクは密やかに息を吐き出しました。

(こうなると思っていたから、“くりすます”なんて言いたくなかったのよ)

 楽しいことが大好きなヨウカのことです、“くりすます”と聞いてやってみたいと思うだろうことはギョクにはわかっていました。そしてそれを、すぐに行動に移すだろうことも。ついでにもう一ついえるとすれば、それにギョクを巻き込むことも、ギョクにはわかっていたのでした。

「ぷれぜんと交換とか、くりすますつりーの飾り付けとか、すっごく楽しそうじゃん! ワクワクするよね!」

 とても楽しそうに目を輝かせて言うヨウカの姿を見ると、ギョクの心も少しだけ揺れ動きます。けれど、静かに頭を振ると、

「ワタシは大掃除をするわ。ツグミでも誘って、楽しくやれば?」

と、冷たく言い放ったのでした。そんなギョクを見て、ヨウカは怒りを顔に浮かべます。

「もう! わかってないんだから、ギョクは!」

 ビシリとギョクを指さして、

「ボクは、ギョクとも“くりすます”を楽しみたいの! 何で、そんなこともわかんないの!?」

と、叫びました。ギョクは、驚きを隠せませんでした。

 ヨウカの代名詞を()かれれば、ヨウカを知る妖怪達なら口をそろえて「笑顔」だというでしょう。楽しそうに笑う姿こそ、ヨウカでした。そんなヨウカが怒っているなど、ギョクは我が目を疑いたくなるほどでした。

「大掃除なら、ボクだって手伝うから。だから今日は、くりすますぱーてぃー、しようよ」

 今にも泣き出してしまいそうなヨウカを見て、ギョクは小さく息を吐き出しました。

(ほんと、ヨウカには(かな)わないわね)

 結局はこうして、ヨウカの意志に従うことになることも、ギョクにはわかっていたのでした。

 だからギョクは、こう言ってみせます。

「そこまで言われちゃ、仕方ないわね。付き合ってあげるわ」

「ホント!?」

 先ほどまでの泣きそうな顔はどこへやら、笑顔になってヨウカは言います。

「ただし、明日から五日間、ワタシの大掃除を手伝うこと! これが条件よ。いいわね?」

「うん!! ギョク大好き!!」

 抱きついてくるヨウカを受け止めて、ギョクは密やかではありますが明るい笑顔を浮かべていたのでした。


 時間は戻って、現在。ギョクの中ではずっと、今朝の記憶が繰り返し流れていました。

(本当なら今日は……)

 今頃きっと、倉庫は片付いてピカピカになっていただろうと、ギョクは思います。その光景を想像しては、予定通りにいかなかったことが悔やまれてなりません。もっとも、後悔しても仕方ないことも、ギョクにはわかっているのです。

「ギョクちゃん。ギョクちゃんってば」

 その声に顔を上げると、妙なものを頭につけた人物がギョクを見ていました。

「何よ、ツグミ」

「あらま、冷たい」

 そう言って笑う人物の名は、ツグミ。人の姿こそしていますが、実際はそうではありません。猿の顔に、狸の胴体、虎の手足を持ち、尾は蛇でできていると伝えられている妖怪――(ぬえ)が、ツグミの本当の姿でした。もっともツグミは、妖怪時の姿を極端に嫌っているので、いつも人間の姿で行動しているのです。

「楽しんでないみたいだから、声かけてあげたのよ。うちの店でそんな顔、しないでくれるかしら?」

 ここは、()()()()。人間達の間でいうところの居酒屋のようなお店で、酒を飲んではどんちゃん騒ぎというのが日常茶飯事の場所です。ツグミは、この玻璃之屋の店主をしています。

「うるさいわね。放っておいてくれる?」

「あらいやだ。アタシはここの店主よ? それはギョクちゃん、無理な注文だわね」

 口に手を当てて笑う、ツグミのその姿は美しいものでした。唇には紅をさし、桃色の着物を羽織って、こちらに向かって微笑(ほほえ)むその様は、どんな女性よりも(よう)(えん)に見えるのです。

「そうそう。ヨウカちゃんから伝言を頼まれてたんだったわ」

「ヨウカから?」

 視線を横に流していくと、白い袋に箱を詰めているヨウカの姿がありました。その(かたわ)らには、テンとセツとヤク――(かま)(いたち)と呼ばれる妖怪の(さん)兄妹(きょうだい)の姿もあります。暴れん坊なテンが長男、冷静なセツが次男、恥ずかしがり屋のヤクが長女です。

「ぷれぜんと交換、もうすぐ始まるよ――って言ってたわ。行きましょうか」

「そうね」

 ギョクは立ち上がりながら、

「ところでツグミ、その頭につけてるのは何なの?」

と、ずっと引っかかっていたことを(たず)ねました。

「ああ、これ?」

 頭に手をやったツグミは、いたずらっぽく笑いながら、

「“かちゅーしゃ”よ。たしか、馴鹿(となかい)っていったかしら? “くりすます”といえば、これらしいわよ?」

と、答えました。

「へえ、そうなの」

 ギョクはそう答えて、ヨウカの元に向かいました。


「それじゃ、みんな“ぷれぜんと”は受け取ったね?」

 ヨウカの明るい声が響きます。

「はーい!」

 みんなを代表するように、テンが言いました。

 ぷれぜんと交換は、持ち寄った“ぷれぜんと”に番号を振って、くじで引いたのと同じ番号の“ぷれぜんと”をもらうという方法で行われました。ギョクの手にも、赤い布に包まれた“ぷれぜんと”が握られていました。

「じゃ、いっせいに開けてみよー!」

 ヨウカの一声で、玻璃之屋に集まった妖怪達は“ぷれぜんと”を開けました。

「何だよこれ!?」

 最初にそんな声を上げたのは、鎌鼬三兄妹の長男であるテンでした。彼の手には、分厚い本が三冊あります。

「あ、それ……ぼくの」

 小さくそう呟く弟の声に、

「お前か、セツ!? 何だよこれは!?」

と、テンは声を荒らげました。

「図鑑だよ」

「見りゃあわかるわ!! 何だこれ、毒キノコ? 食虫植物? 危険な生き物? 何でこう……ヤバそうなもんばっかりあるんだよ!!」

「危険なもの知っとくと、生きていくのに困らないかと思って」

「お前は、“さばいばる”でもやるつもりなのか!? こんなもん、誰が喜ぶんだよ!?」

「ぼくは喜ぶけど」

「お前だけだろーがっ!!」

と、兄弟ゲンカを始めるテンとセツの横で、ヨウカが嬉しそうにしていました。それを見つけたツグミが、

「ヨウカちゃん、ずい分と嬉しそうね? 何が当たったのかしら?」

と、(たず)ねました。

「手袋だよ! すっごくあったかそう。この時期って寒いから、すっごく嬉しい!」

 ヨウカは思わず、その橙色の手袋に頬ずりしました。そうして、店内を見渡して、ギョクの姿を見つけるや、駆けていきました。

「ギョク!」

 声をかけると、ギョクはヨウカをゆっくりと見ました。その顔を見て、ヨウカはそっと思います。

(あ、ギョク、嬉しそうだ)

 長年一緒に生きているからこそ、ギョクの微妙な表情の変化がわかります。けれどそれを気取られないように、ヨウカは振舞うことにしました。

「ギョクは? “ぷれぜんと”、何だったの?」

「これよ」

 そう言ってギョクが見せたのは、色とりどりの縮緬(ちりめん)でした。赤色や水色などの無地のものや、白地に桜の花が描かれたものなどの模様入りのものまで、十数枚の布がそこには入っていました。

「縮緬だね。ギョク、こういう布、好きだもんね」

 どことなく嬉しそうに布を見つめているギョクを見て、ヨウカは、

(誘ってよかった)

と、心の中で思いました。

「ギョクねえちゃん」

 小さな声が、ギョクを呼びます。ギョクとヨウカは、声の主を見ました。そこにいたのは、鎌鼬三兄妹の末っ子で唯一の女の子であるヤクでした。

「これ、ありがと……です」

 そう言って、ヤクが差し出しているのは、一本の(かんざし)。白地に青い格子模様の入った硝子(がらす)(だま)のついた、美しい簪でした。

「こういうの、ほしかったから……すごく、とっても、うれしいです」

「気に入ってもらえたなら、よかったわ。……そうだ」

 ギョクが、にこりと優しく微笑みます。

「つけてあげましょうか? きっと、ヤクに似合うわ」

「え、でも――いいんですか……?」

「もちろん」

 そんなギョクとヤクのやり取りを見て、ヨウカは、

(何だか本当の姉妹みたいだ)

と、感じました。それほど二人の様子は、とても微笑ましいものだったのです。

 十二月二十五日、今日は聖夜。妖怪達の居酒屋は、とてもあたたかな空気に包まれていました。ギョクも、ヨウカも、セツも、ヤクも、とても嬉しそうです。

 ただ、この二人にとっては、そうではありませんでした。

「何で図鑑なんだよーっ!!」

「場所貸してあげたのアタシなんだけど……そのアタシの“ぷれぜんと”はないわけ?」

 そんな、テンの叫びと、ツグミの呟きは、誰にも届くことはありません。

 そうして聖夜は、静かに、けれど少し騒がしく、更けていくのでした。

 『アヤカシ達のくりすます』、ご高覧ありがとうございました!

 もう一度ギョク達を書きたい――そんな思いだけで、生まれたのがこの作品です。

 さて、今回初めて登場した鎌鼬三兄妹にも、実は漢字があります。なので、それを発表していきたいと思います。ギョク、ヨウカ、ツグミにも漢字がありますが、それに関しては『はろうぃん』をどうぞ!

 さて、その前に鎌鼬について書いておかねばなりません。鎌鼬は、三匹で一組の妖怪らしいです。「一匹目が人を転ばせて、二匹目が切って、三匹目がクスリをぬる」という役割なんだそうです。それを踏まえて、本題に戻りましょう。

 まずは、長男・テンから。彼は、“転”です。「一匹目が人を転ばせて」という役割から、転ばせる→転→テン、といった具合です。

 次に、次男・セツ。彼は、“切”です。「二匹目が切って」という役割から、切る→切→セツ、といった感じです。

 最後に、末っ子で長女・ヤク。彼女は、“薬”です。「三匹目がクスリをぬる」という役割から、クスリ→薬→ヤク、となりました。

 さて、なぜツグミがプレゼントをもらえなかったのか、その真相は――テンがプレゼントを準備していなかったから、です。というわけで、プレゼント交換の結果も書いておきましょうか。準備した妖怪:準備したもの→もらった妖怪、て感じで書きます。

  ギョク:簪→ヤク

  ヨウカ:手作りリース→セツ

  ツグミ:縮緬詰め合わせ→ギョク

  テン:準備していない

  セツ:図鑑三冊セット→テン

  ヤク:手袋→ヨウカ

――ですかね。表とかにできればいいのですが、挿絵入れられないので……見づらいですね、ごめんなさい。

 そんなこんなで、どうにか書き上げました。よかった、間に合って……。

 読んでくださった方、ありがとうございました! よろしければ、感想や評価など、お願いします! なお、行間についての質問は受け付けません。よく意見をいただくのですが、「時間が変わったときとか以外で空けたくない」という思いがありまして、そのスタイルは変わらないと思います。なので、「もっと行間取ってほしい」などの意見には応えられません。あらかじめ、ご了承ください。

 それではあらためまして。

 読んでくださりありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] こちらも読ませていただきました。 かーわいー♪♪ ツグミにはプレゼントはなかったのですね(笑)
2019/02/27 07:59 退会済み
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