プラネタリウム賢者
昔、昔。あるところに王様がいました。この王様、むちゃぶりが大好きでした。突然思いついたことを、~しろと言う形でせがんでくるのです。
真冬にスイカが食べたい、とか。
真夏に寒い思いをしたい、とか。
それらを叶えたものは、王様からばくだいながおかねがもらえました。誰でもおもいつきそうなかんたんな方法でいいのです。
王様がOKといえば、OK。王様はへんなところでせけんしらずなので、ボーナスみたいな問題もけっこうあります。とりあえずだれかがかいけつしたらきげんがよくなります。
王様は名君です。内政力とか、外政力、異常です。小国でありながら、周りの国をあやつって、せめられないようにしているのです。
そんな王様の有能ムーブの燃料が、むちゃぶり。
だけれども。王様が出したむちゃぶりが、本当の意味でむちゃぶりだったことがあります。
「我に夜を味あわせよ。真昼にな。昼でありながら、夜、というのをな。あっ、絵見せて、はい、夜っ! てのはだめな。だって、絵から目そらしたら昼だし。」
ここは、中世。映画とかゲームとか、マンガとかそんな方法は存在しません。絵で夜を見せてもだめ、とくぎまでさされてしまっています。
そんな無茶ぶりをされたのは、王様の子供である第一王子でした。将来のことを考えたら、なんとしても王様の願いをかなえてポイントをかせいでおく必要があります。
さて、どうしましょう。王子は何日も考え込みましたが、思いつきません。王様が、「どう? 思いついた? 思いついた?」と、王子の部屋にしょっちゅうに来ては子供のようにさいそくするのです。これではどっちが子供かもうわかりません。
王子はとうとうプレッシャーにたえられなくなって、家出しました。
王子は思います。なんでいつも王様はあんな無茶ばっかり周りに投げつけるのかな、と。よりによって、自分の子供に無茶振りの中でも特にひどいのを投げてくるなんて……、とせんちめんたるな気分な王子。
今日は野宿です。城の近くの森。王様に小さい頃に連れてきてもらった場所です。ここは森の中でも、空が開けていて空がよく見えるのです。当然夜空も。
周りが少し暗くなってきたので、勝手に持ち出したきたテントを張り、王子様は少し中で眠ろうとします。早めに寝て、深夜に起きて、星でも見れば何か思いつくと思ったのです。
王子にしては重いテントをここまで持ってきた疲れで、あっさり眠りについた王子。果たしていい考えは浮かぶのでしょうか?
王子は少しばかりのまぶしさを感じつつ目を覚まします。ゆっくりとゆっくりと少しずつ目を開けて、そのピントが合ってきます。
王子が思っていたよりも光は強かったようです。そして目がなれてきてまわりが見えてきます。王子は気付きました。今はどうやら朝のようだと。
王子の頭はまだ回っていません。二度寝したいような気分になりつつも、のっそりと体を動かして起き上がろうとします。ですが、けだるくて、やめました。
また王子はテントの天井を見ます。さしこむ光の強さからして、どう考えても夜ではないと断言できました。このテントは古いものだったのか、小さな穴がけっこう空いていたのです。
テントの外に出てみると、まぶしい光で思わず目をつぶってしまいます。きつかったのでテントの中に王子はもどります。
王子はしゅうかくが一切なかったことにがっくりしました。家出は一日だけとはじめから決めていたのです。王様がすんごい必死になって探し回ることになると分かっていたから。
王子はまた寝転がって、天井をぼーっと見ていました。ぽけーっとしていると眠たくなってきて、いっしゅんですが、天井が星空に見えたのです。穴から差す光が星。汚れで黒ずんだテントが夜の闇空。
そして、はっと王子は起き上がります。これだ、と。
さっそく王子は城へともどりました。背中にぼろぼろのテントをかかえたまま。そして、なんかそわそわしていた王様にあやまります。
「一日家出してごめんなさい。しかし、王様。真昼に星を見せる方法思いつきましたよ!」
王様はびっくりし、そわそわは消え、いつものようなわくわく顔にもどりました。
「昔、僕を連れていってくれた森の、空が開けたところ。そこで待ってますので、真昼ごろになったらきてください。」
そう言い残し、王子は一人、森のさっきの場所へと向かいました。城からテント以外にもう四つ道具を持ち出して。
王様は、大臣二人をつれてやってきました。王子は王様に言います。
「この中に入って寝転んで天井をみてください。そうしたら星が見えますよ。あ、せっかくなんで、僕がいいというまで目をつぶったままでお願いします。テントの中までひっぱっていきますから。」
王子の言葉にしたがい、王様はテントの真ん中で寝転ります。横に王子も寝転がりました。
「いいですよ。さあ、目をあけてください!」
すると、王様の目には、黒い空とたくさんの星のかがやきがうつりこんできます。
「うおおお、なるほど! やるではないか、第一王子よ。」
「いかがですか?」
「完璧だ。我は本物の星空を見せろとは一言も言っておらんからな。だが、まさかちゃんとした答えを用意してくるとは。我は、王子が蛍でも用意してごまかしてくると思っておったからな。」
「ホタルって黄緑の光を出すんで、ちょっと違うんじゃありません?」
王子がそうあきれながら、わらいながら王様に言葉をかえします。
「これは、ボロいテントの天井を黒いペンキで筆を使ってぬって、針で実際この時期に見える星の位置に穴をあけたり、変な位置の穴を糸でぬってうめたりしたのだな。」
「どうです王様。これでOKでしょうか。」
「見事だ、王子よ。お前にほうびをさずけよう!」
だが、そんないいところで二人の大臣がテントに入ってきました。がまんできなかったようです。
「ちょ、王様。私らにも見せてくださいよ。」
「王子様。ワシらもそれとって~も見たいんじゃあよ!」
待ちぼうけさせていた二人に見せてやらないわけにもいかないと思った二人はテントから出ました。大臣たちに後片付けを言い残して。
その日の夜。王様は王子をよびだしました。王子はきたいします。それは、大臣や貴族たちが集った、正式な場だったからです。
正式な王様の次の王様に第一王子がなれることがこれで決まったのかと、第一王子だけではなく、大臣や貴族たちもそわそわしています。
「王子よ、前へ。」
王様の前まで歩いていき、ひざまずいた王子。
「お前の今後。今回の件で決めたぞ!」
周囲にどよめきがわきおこります。
「お前には、賢者になってもらう。だって頭すんごい柔らかいみたいだしな。王様なんかやるよりそっちのほうが自由にできて、力もあっていいだろう。はっはっは!」
王子ともども、大臣も貴族もみんないっしょにずっこけるのだった。誰もが心の中で派手につっこむ。
『王子を次の王様にするって話じゃないのかよ!』と。
そうして、第一王子は、次期王様ではなく、賢者になることにきまりました。
これで告ぎの王様になれると思っていた王子は、泣き出してそのままお城から出ていって三日間も帰ってこなかった王子ではありましたが、戻ってきたら覚悟をすっかり決めていたのです。
王様のひどい場合のむちゃぶりを全てなんとかし、次の王様が立ったときには、やたらめったら相談に乗り、誰もなんとかできない問題が起こったときには必ずなんとかしてみせました。だれも思いつかないようなびっくりするような方法で。
そんな元王子、賢者のことを、そのいきさつから後世の人々は、 プラネタリウム賢者 と呼ぶようになったのでした。おしまい。