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ピンク髪の女の子


「…………さっきの事は誰にも言わないでちょうだい。あまり気分のいいことじゃないから」



僕は赤く腫れた頬に手をやりながら、先ほど見た光景を思い出し、歯噛みする。


「……うん。分かったよ。けど…………」



「……この世にはどうする事も出来ない問題があるの。……これは防ぎようのない事故だったのよ」


「……………………僕は自分の鈍感さが許せないよ」


「……ありがとう。気遣ってくれて。ただ、もう二度と私に関わらないでちょうだい」


そう言い残し、水無月みなづきは教室に入っていった。

僕はどうしても教室に入る事が出来なかった。彼女がいる教室に。

……このままフケよう。幸いもうホームルームは終わってるみたいだ。

僕はゆっくりと立ち去ろうとした。

この声を聞くまでは。


「誰もいない二人っきりの教室で何やってたんだ〜水無月!しかも時間差で来るなんてさらに怪しいぞ〜?」


僕は踵を返して教室のドアを勢いよく開け放ち、水無月に絡んでいたカスに跳び蹴りをぶちかます。


「!?な、テメェ……ッ」


「ふふ、そんなに慌てているとは怪しいな〜。何があったんだ〜い?おいちゃんに話してみんしゃいや」


こ、このクズッ。僕の跳び蹴りを受け止めやがった。

貴也たかやめ、僕が美少女と二人きりの状況にいたせいか、憎しみの力で強くなってやがるっ!

こいつは危険だ。


「いいな〜いいな〜。美少女と二人きりとかいいな〜。もうすぐ夏休みでフラグを立てるとかいいな〜いいな〜。俺にも女を寄越せよ」


ゆらゆらと揺れて少しずつ僕に近づいてくる貴也。

マズイぞ。状況はかなり最悪だ。

こいつの状態には見覚えがある。

確かもう一人の幼馴染である志賀馬しかば りょうが告白を受けていた時だ。

あの時は僕と了の二人がかりで何とかこいつを抑え込んだんだ。


でもおかしい。何故貴也はこれぐらいで暴走を?

何か、何か別の原因があるんじゃないか?


僕は辺りを見渡す。特におかしな所は見られないけど……。なら何でこいつはここまでヤバくなってるんだ?


「しぃねぇやぁあああああああ!!」


くっ。貴也の鋭い蹴りが僕の短い髪を揺らす。

間一髪しゃがむことで何とか避けられた。

だが貴也の追撃は終わらない。蹴り上げた足を軸にしてそこから後ろ蹴りを容赦無く入れてくる。


僕はそれを両腕をクロスする事で防ぐ。


「ぐっ、てぇな……」


蹴られた威力を減らすために後ろに飛んだけど、それでもかなり痛い。


手も足も奴の方がリーチが長いので、机がある狭い教室では僕が不利だ。



唯一の救いは教室に水無月以外誰もいない事。

掃除をしている間にホームルームが終わり、皆帰ったのだろう。


もし貴也とこんな馬鹿な事をしていると知られたら、貴也はともかく僕の株が急暴落してしまう。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ、殺してやるっ」


「ちょっと一旦落ち着こうか貴也。もとはと言えばお前が三人にセクハラを行なうから掃除が進まないわけで、自業自得だろ」


貴也の攻撃をかわしつつ僕は正論を述べてみる。


「黙れ!よりにもよって何で貴様なんだ。どうして俺じゃない。俺の方が遥かにイケメンなのに」


「お前がイケメンかどうかはともかく、先生がたまたま目に付いた僕と水無月を指名しただけだろ?」


「違うっ!そっちじゃない!それだけじゃねぇんだよ死ねや!!」


「はぁ?意味が分からん。お前が何にキレてんのか言えよ。そうじゃなきゃ僕も納得できない!」



再び貴也の蹴りが僕を襲う。

それを受け止め、貴也の足を掴み取る。


「さぁ!理由を言え理由をっ。お前がそこまで怒っている理由を!」


足を掴まれた貴也は、悔しげに口を開いた。


「……お、お前の事を好きだという女が現れたんだ……」


……え?あ……うん。え、えぇーー!!マジでか!


「お、おい。その話はマジなんだよな?一体誰が僕の事を……」


思わぬ朗報に僕の頬は緩みまくり、しまりのない顔になってしまった。だがそんな事はどうでも良い。

齢15歳龍ヶりゅうがさき 鋼介こうすけに、とうとう春が舞い込んできたのだから!!


「くっ、体操服を着ていたピンク頭の女の子だ!!聞く話によると同棲しているらしいな!チクショウがぁ、しかも自分の事を主なんて呼ばせやがって……許すまじ行為。貴様はここで駆逐してやるっ」


「…………………………あれは、親戚の女の子だ……」


僕の上がりかけたテンションは一瞬で沈んだ。



「関係ない。女は女だ。俺に紹介するというのなら、許してやるが……な」


先程とは一転、怒りに満ちた顔から急に爽やかな顔になりやがった。


「…………まじでドン引きだわ。お前のストライクゾーンどうなってるんだよ。絶対に紹介しないわ」


「なら死にな」


再び殴りかかってくる貴也の腕をかわし、懐に入り込み腕を掴んで投げとばす。


「ぐはっ!!」



貴也が悶絶しているうちに、僕は水無月の腕を取って教室から逃げ出した。




「ハァハァハァ……ごめんね水無月。こんな変な事に巻き込んじゃって……」


「…………ピンク髪の女の子と同居しているの?」


「うっ、いや。その子は親戚の子だから。別に変な事はないから」


てっきり関係ない事に巻き込んだ事について怒られると思っていたけど……まさかそれを聞かれるとは。


「ふーん……。ねぇ、あんな事を言った手前頼みづらいんだけど……その、あの……」


「ん?何?」


「あの……私達、友達になれないかしら?」


僕はこの言葉に心底驚いた。

あの人間嫌いを思わせる発言や行動をし、いつも一人でいる彼女が友達にならないかと言っているのだ。


どういう心の心境があったのだろうか。

まさかとは思うが水無月は、龍神が目当てなのだろうか。

だがしかし、例えそうだとしてもだ。

こんな、頑張って勇気を振り絞った彼女に酷なことは言えない。それにスカートの中を見た責任というのがある。


「……分かった。友達になろう。実は僕も、ずっと友達になりたいと考えていたんだ」


「……そう。ありがとう」


「あっ、ケータイ持ってる?良かったら連絡先交換しようか」


「え……うん。その、私あまり使わないから、やり方がよく分からないの……」


「ああ、大丈夫。なら僕がやるよ、ケータイ貸して」


渡されたケータイに僕の連絡先を交換する。

今時珍しいガラケーだ。


「はい、これで交換終わったよ。何かあったら連絡してよ。力になるから」


「うん、ありがとう」


おや?今少し笑った気が……。気のせいか。

連絡先を交換した僕達は、また明日という飾り文句を言った後分かれた。

その後、貴也から逃げ惑いながら、僕は龍神を探すため学校を駆け抜けるのだった。








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