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人に恥ずかしい所を見られると、それ以降も周りを気にしてしまう


学校を出たところで貴也たかやが追い付いてきた。


「待てやこら、用事が何なのか言え。じゃなきゃ一生付きまとうぞ」


「何でいちいち僕の動向を言わなきゃいけないんだよ」


「あっ、まさかお前コレか?」


小指を一本立て、悔しげに服を掴んでくる。


「きぃいい悔しいぃ!一体どこの馬の女だ!紹介しろや!!」


「何でだよ。まさか人の彼女寝とる気か?てかお前が考えてるようなことじゃないから」


掴まれた手を払いのけ、スマホを取り出す。


「ほら、今日は安いスーパーに買い物に行くんだよ、一人暮らしなめるな」


スマホを操作してスーパーの広告を出すと見せつけるように目の前に突きつける。すると奴の目は一気に冷めた。


「ふーん、そりゃそうだ!お前が俺より先に彼女ができるなんて、神が味方でもしなきゃ無理だもんな〜」


ハッハッハッ、と笑いながら立ち去る貴也を見送る。なんか納得がいかない。

クラスどころか全校生徒の女子に嫌われているクズが先に彼女を作ったら自殺もんだわ。

それこそあいつは神にも嫌われてんじゃないか?



「むぅう、いつまで手を握ってんですか?」


「あっ、悪い悪い」


教室を出るときから繋いでいた手を離す。端から見れば宙を掴んでいた手は、不自然まるだしだっただろう。

まだ遊びの誘いを断ったのに納得いかないのか、ふくれている。


そんな龍神りゅうじんは置いておくとして、ひとまず先に買い物を済ませようと、先ほどの広告のスーパーに行くことを決める。

昨日のピザの出費はデカかった。



「あのさ、昨日約束したよね。今日は戦いに備えて情報収集をするって……いつまで怒ってるんだよ」


「怒ってませんっ。ただ、友達に嘘をついてまで行なうことなのですか!?」


それを言うか。やろうと言い出したのは自分のくせに。


「いや、そう言われても、何て説明するんだよ。小遣い稼ぎで宗教やったら本物の神が生まれちゃって、願い叶えるために他の宗教を潰しにかかるなんて言ったって、信じないだろ?」



「いえ、あの方なら信じそうです」


「確かに信じそうだけど、ダメだ。あいつは真性のクズなんだ、ピンチになったら僕を見捨てるどころか僕を売って一人だけハッピーになろうとする奴だ」


「何で友達やってんですか!?」



「強いて言えば腐れ縁。ただの幼馴染だよ。他にもう一人いて、そいつは今違う学校だけど、たまに三人で遊ぶんだよ」


確か幼稚園からの付き合いだ。昔からあいつらとはつるんでたけど、ヤバイ状況に陥ったら誰か一人を犠牲に、内二人は逃げるというのが常識だった。

思えば、あの頃から既に友情なんてものは存在しなかった気がする。


「へぇ〜てっきりあの方しか友達いないと思ってました。もう一人いたんですか。でも、ここ3ヶ月は遊んでないです?」


「ああ、部活で忙しいんだって。そいつ野球部なんだよ」



「部活ですか。いいですね、青春です。主も部活に入っていればモテていたかもしれないですね〜」


「高校入ったら一人暮らしするって決めてたから、部活なんてやってる暇がないんだよなー。もともと入る気はなかったけどー」


「荒んでます。そんなのだから友達も少ないのです。でも何で一人暮らしなんですか?週一で妹さんが料理を作りに来てくれてる辺り、本来の家はさほど離れていないのでは?」



「んー、あれ?お前確か有桜ありさの事知らないって言ってたよな?週一で作りに来てるのどうして知ってるんだ?」


「ああ。あれはただ単に妹さんの名前を知らなかったのでそう答えたんです。私、人の名前覚えるの苦手で、ぬしと似てますね」


「ふーん……」


「それで?何で一人暮らしなんですか?」


ふむ、神だからといって何でも知ってる訳では無いみたいだ。

会話を聞いている限りでは、生まれた3ヶ月の事しか知っている様子はない。

なのに会話は出来ている。どういう事だろうか。後で聞いてみるとしよう。


「……家が複雑……んーそこまでって訳じゃないけど、いづらいんだよな……」


「……仲が悪いですか?」


仲は悪くない。むしろいい方だ。ただ勝手に、僕が一方的に壁を作りあげているだけだ。


「……親が再婚してるんだよ。僕と有桜は親父の連れ子でさ……当時僕は中学一年生、有桜は小学五年生だったかな?思春期真っ盛りだったんだけど、僕も有桜もおとなしい方だったし、だんだんと仲良くなってたんだけど……」


「なるほど、把握しました。義理のお母さんに発情してしまってそれが父君にバレて気まずいと」


「何一つ把握できてないよっ。しかも何だそのまじでありそうな話はっ!っんなもん男の子だから仕方ないとかで済む問題じゃないし、最終的にそれって僕がただたんに家を追い出されてるだけじゃんっ。気まずい何てもんじゃないよ、二度と母さんや親父に会わせる顔が無くなるよ!」


不覚にもそういう未来を想定してしまい背筋が凍る。自分で言うのも何だが、親父の再婚相手は美人で若いのだ。


「そんな大層なもんじゃなくて、親父と母さんがラブラブ熱々で気まずいだけだ。今年の10月らへんに子供も生まれるんだってさ」


再婚して1年経ったくらいで急にイチャイチャし始めたのだ。最初こそ自重していたみたいだが、その反動か知らんがイチャイチャイチャイチャそれはもううぜーぐらいにラブラブで、そんな親父を見たくなかったのもあるけど、元々一人暮らしに憧れてはいたので、ちょうど良かったといえばちょうど良かったのだが。


いざ始めてみると料理はダルいし、洗濯も面倒くさい。

母親の仕事の大変さを痛恨した。


「ていうかさ、神なのに知らない事あるんだな。人間関係の事は分かんないの?」



「人間関係というか、私には基本的な知識しかないんですよ。一般常識ぐらいは身についていると思いますよ、後は宗教の事とかですかね。神だからって全てを把握するなんて事は中々出来ないですよ。だから沢山いる訳ですしね」


「ほぉ〜、しかしさっきから通り過ぎる人全員が僕を危ない奴でも見るかのように去って行く。この現状についてどう思う?」



「……………………………」



「何故急に黙る!?確かに今の僕は客観的に見れば独り言を呟く危険人物だけど、お前が黙ったらリアルがちでそうなっちまうじゃないか!?」



「……姿を現そうと思えば出来ますけど、ピンク髪の小学生と喋る絵面もかなりヤバイ気がしますね」



確かにヤバイ気がする。って何?今こいつ、姿を現せるって言ったか?


「なあ、おい。確かに絵面はヤバイけど、姿を現せるならなんで今まで言わなかった?」



「姿を表に現すのには、それなりに力を消費するんです。はっきり言って三人の信者さんの信仰では足りないんですよ。力を消費しないと考えると、主の生気を使えばいいんですが、使いすぎると主が死んでしまうんで、必要ないと思って……」



「……なるほどね、わからん。生気を使うってなに?」


生気。昨日も出てきていたが、うっかり聞きそびれていた。丁度いい機会なので聞いておこう。


「え〜とっ。私は三人の信者さんの信仰によって生まれたんですが、それだけでは主にも見えない幽霊みたいな存在だったんですよ。それで3ヶ月経ってようやく宗力が溜まったんで、その力を使って主に取り憑いたんです」


確か昨日はここで話が終わっていた。

いつの間にか喋っている間に、つまり他人から見て独り言をつぶやいている間に目的のスーパーが姿を現した。


「宗力を全部使うと私達神は存在を維持出来ずに消滅してしまいます。しかし私達神の御神体である教祖には取り憑くことが出来まして、主に取り憑いて生気をいただくことで、宗力が無くとも存在を維持できるんです」


「生気ってのは要するに気力や活気ってことでいいんだよね。龍神は生きるために僕の元気を貰ってるわけか……」



「そんな感じです。生気は宗力を補うような物なので、主の元気と引き換えに姿を現せるようになれるってわけです。で、どうします?」


その場でクルリと回りながら小首を傾げる龍神。少し考えてみる。

龍神が姿を現せるって事は、独り言を言わなくてもいいという事と、荷物を持ってもらえるという利点がある。しかしピンク髪で体操服の子と歩くというのは、職質をされないだろうか?

それでもどれくらい生気を失うのかは分からない分、試す価値はあると思うけど、最悪その場で崩れ落ちるかも知れない。


「……んー、やってみるか」


色々考えたけど、思い立ったが吉日という言葉がある。何事もチャレンジあるのみだ。


「わっかりました〜、じゃあ行きますよ〜」


姿を現せる事が嬉しかったのか、可愛い笑顔を浮かべている。

俺の選択は間違っていなかった。


行きますと言った数秒後、身体に異変が起きる。

猛烈に身体が怠くなり、足に力が入らない。

高熱を出した時のような気だるさを感じて、膝から崩れ落ちてしまう。


「あっ……やっぱり、やめましょう」


「数秒待て、すぐに適応する」



とても残念そうに目を伏せる龍神を見てしまったら、やめるという選択肢などない。

足に無理やり力を入れる。

ふざけるな。いつから僕はこんなヤワになったんだ。生気をとられたなら今すぐに新しい生気を作りやがれ!僕の身体だろうがっ、いうこと聞けやクソッタレ!!

生まれたての子鹿のように四つん這いになりながらも、少しずつ立ち上がる。

そして、


「た、立ったー!主が立ったーッ!!」


足をプルプル震わせながらも僕はなんとか立ち上がることに成功した。

そして龍神に向けて親指を突き出す。

感動的な場面だ。


しかし、そんなやり取りをしていたのがスーパーの店の前だったのが運の尽き。

その後。どんな思いをスーパーでしたかは、言わなくてもわかるだろう。























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