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車の事故には本当に気をつけましょう


「何よ慌ててきて兄貴。別にお風呂に入ってただけよ」


「な、何だよ。メッチャ焦ったぞ僕。全速力で走ってきてヘトヘトだよ」


「もうっ、心配しすぎ」


そう言って笑う有桜ありさ


そんな要望は、家の鍵が破壊されていることによって叶わないことだと告げていた。


「クッソふざけやがって!」


急いで部屋の中に入り込む。

靴の跡に加え、散らかる部屋。

テーブルはひっくり返っており、二人が抵抗をしていた事が見て取れた。


そんな中ある物を発見する。

有桜のスマホだ。


「くっ、これじゃあGPSで探す事が出来ないっ」


ぬし……」


心配そうに見上げてくる龍神。そうだ!


「なぁ龍神っ。お前の不思議パワーで二人の居場所が分かったりしないか?」


微かな望みをかけて僕は龍神に尋ねる。

けど、申し訳無さそうな龍神を見て無理だと悟った。


「ごめんなさい……私、役立たずで。神様なのに……こんな時に何も出来ないなんて」


「いや、そんな事はない。少なくとも、僕はお前が側に居るだけで今救われてるよ」



もし僕が一人だったら、今以上に慌てて冷静な判断が出来ていなかったはずだ。


布団のくぼみに手を置く。まだ少し温かい。

連れ去られてそんな時間は経っていないようだ。

これならまだ何とかなるかも知れない。居場所さえ分かれば、クソッ。自分の無力さが腹ただしい。


「おい、鋼介こうすけ!勝手に突っ走りやがって……。さっさと行くぞ」


「行くってどこにだよ!二人のところにか!?」


「そうに決まってんだろ、何でも屋に場所は聞いておいた。今はまだ車で移動中だ」


その手があったか!何でも屋に聞くなんて初歩中の初歩だ。ナイスだ貴也たかや。今はマジで感謝するぜ。

しかし、車で移動しているという事は、どうやって追いつくべきか。


「何でも屋からバイクを借りてきた、後ろに乗りな!」


何だこいつ!?物凄く頼りになるじゃないか!

変態になる前はこんな感じだった気がするぞ。友のピンチに昔に戻ったのか!?

僕は急いで貴也の後ろに飛び乗る。


「よお〜し。華麗に助けて惚れさせてやる!!俺の夏はこれからだ!!」



所詮は貴也か。何て残念な奴だ。思っても口に出すなよ……。けど頼りになる事は確かだし、今日ぐらいは大目に見てやるか。万が一貴也に惚れてしまうなんて事件が起きてしまったら、その時は海に沈んで貰うとしよう。


「おぉ、なんだ?急に悪寒が……」


「んなもん気のせいだ!!ブッ飛ばせ!!」


僕を乗せたバイクは猛スピードで道を駆け抜けた。

緊急時のため少しのスピード違反は大目に見てもらいたい。


「主ッ、私は本当に役立たずですが!これから先の信号を青にするぐらいなら出来ますっ!!」


頭上から龍神の声が響く。

上を見上げると龍神の姿があった。僕は間髪入れずに叫ぶ。


「頼んだ!!って何で飛んでる!?」


「はいっ任せてください。飛んでいる理由は大した事じゃないです。私は主に取り憑いているため離れる事が出来ないので、ただ引っ張られてるだけです!!因みに実体化してる時は適用されません!」


そうだったのか。全力で走ったはずなのに直ぐに現れたと思ったら、そういう事だったのか。


信号を青にするなんて地味だがかなり便利だ。


「あれ、ちょっと待て。不思議パワーを使うんだよな、なら宗力を使うのか?いいのかそれ?三人の信者の信仰行為によって貯めたんだろ?こんな……私情に使うなんて……」


「申し訳ないと思うなら、これから信者を幸せにすればいいんですっ!感謝の気持ちを忘れずに、これから頑張りましょうよ!」



そう、か。そうだよな。よし、これから頑張ればいいか!龍神は宗力を自分の為に使う奴が多いと言っていたけど、僕はそんな奴らにはならない!

そりゃ少しは使うかもだけど……。信者を大切に、龍神教を盛り上げよう!そして信者を1万人集めて土地神に願いを叶えてもらうんだ。何を願うかは、まだ考えなくていいか。


「なあ、おい!二人に追いついてどうする?流石に何でも屋でもまだ奴らを潰せる情報を手に入れられないはずだ。乗り込んだところでどうするよ?」


交差点を右に曲がりながら貴也が叫ぶ。


確かに勢いでここまで来てるけど、ノープランだ。

取り敢えず二人を攫った奴らに地獄を見せるとして……そのあとどうするべきか。


これはもう完全なる犯罪だ。

器物破損に不法侵入、さらには誘拐まで……。

警察に連絡を入れるべきか……でもそれだと過剰防衛として僕も捕まってしまうかも。


何より里美さとみちゃんのお母さんの件もある。


「貴也、二人はまだ移動してるのか?」


「ああ、GPSではまだ移動してる。何故か信号がずっと青だから、この調子だとあと10分もしないうちに追いつくぜ!」


バイクに取り付けたスマホを横目に見ながら、貴也が叫ぶ。


よし、なら奴らのアジトである浄穢教じょうかいきょうに着く前に二人を救出しよう。

地獄を見せるのはお預けとし、後日奴らを一網打尽にしてやる。


「そうと決まればブッ飛ばせ貴也!まずは二人の救出だ!!」



「…………何もなきゃ良いけどな……」


「え?何て?」


貴也の小さな呟きは、バイクの騒音によって僕の耳に届くことはなかった。






「追いついたぞ!!」


そう叫ぶ貴也の先に、黒いワゴン車が赤信号で止まっていた。


しかし運悪く信号が青になる。


「貴也ッ!!」


「分かってる!」


さらに加速を始めたバイクは、直ぐにワゴン車への距離を詰め、瞬く間に横につく。


「!?有桜っ、里美ちゃん!!」


ワゴン車の後ろの席に二人がいてひとまず安心する。

パッと見た感じ怪我はないように思える。けど、手と口をガムテープで縛られているみたいだ。



二人を確認すると同時に車に乗っている人物も確認する。

人数は三人。

車を運転しているのはチャラそうな金髪の男。

助手席にはニット帽を被っている男。

三人目はやつれ気味の女性。里美ちゃんの頭を撫でている。恐らく母親だ。

健康な状態なら綺麗な女性なのだろうが、今は目が虚ろで、相当思い詰めているみたいだ。


「チッ、気づかれたぞ鋼介。こっからどうする。あのニット帽の奴、かなりヤるぞ」


「ああ……分かってるよ」


貴也の言う通り、金髪のチャラ男は慌てているように見えるが、ニット帽の奴は僕達を値踏みするように見ている。


車越しにも分かるニット帽のオーラともいえる威圧感。


師匠や何でも屋ほどでは無さそうだが、少なくとも僕や貴也よりかは強い。

くそっ想定外だ。


「取り敢えず車を止めさせよう。龍神、お前だけが頼りだ。スマホを浮かせていた時みたいに、そんな感じで向こうの車のブレーキを押してくれ」


「主、そうしたいのは山々ですが、信号を青にしていた為に宗力が底をつきました。予備エネルギー(ご飯を食べる事で貯めた力)を使う事になりますが、よろしいですか?」


「構わん!!ぶちかませっ!!」


「りょーかいです!」


「ちょ、ちょっと待て鋼介ッ!!リンちゃんに何をやらすか知らんが、急ブレーキを掛けたらシートベルトをしてない二人が危険だ!!焦るんじゃねぇ!」


そ、そうか。迂闊だった。運転をしている貴也の方がよっぽど冷静に状況を見てるな。

何してんだ僕は、こんな時こそ冷静にならなきゃ。


「主ぃ〜ごめんなさ〜い」


頭上から、申し訳ないという思いがひしひし伝わる声が聞こえた。


時すでに遅しか。


最悪な光景を想い浮かべたが、貴也の言うようにはならなかった。


ブレーキが勝手に効き、それに驚いたであろう金髪チャラ男がテンパっているのが見て分かった。車のスピードは徐々に落ちていく。


よ、良かった。徐々にブレーキが効いてるみたいだ。急ブレーキじゃなくて本当に良かった。


焦る金髪チャラ男。僕はもう、車が止まるもんだと思い、どうやってあのニット帽を倒すか考えていた。

それは貴也も同じだろう。


だってまさか、向こうが急ハンドルを切るなんて思わないだろう。


「主ッ、危なッーー!?」


龍神が全てを言い終わる前に、強烈な衝撃を受け、僕と貴也は吹き飛ばされた。




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