人によってはゴミでもマニアにとっては宝物
何でも屋のいるバーに辿り着く。
引き戸を開けると、チリンチリンと音が鳴り、僕達を迎え入れてくれた。
初老のマスターに軽く会釈をし、中に進む。
暗い店の中、一番奥のカウンターに何でも屋はいた。
ボサボサの長い髪をそのままに、所々破けているジーパンを履き、フードの付いたパーカーを着ている女性。
見た目は二十代前半ぐらいで、かなりの美人さん。
「この綺麗な女性がそうですか?」
「ああ、そうだ」
彼女が通称何でも屋。
何でも出来て金さえ払えば何でもする。
師匠と同等、もしくはそれ以上のスペックを持つ女性だ。
「やあ待ってたよ。今回はどんな案件かな?またストーカーをし始めた友人を懲らしめるとか?」
「いえいえ、あれ以来随分と大人しくなったので助かってます。まあ今でもセクハラは治ってませんがね」
「ちょっと待て!それはどういう事だ!?」
驚愕の顔で僕を見てくる貴也。何を隠そう、貴也を懲らしめるよう依頼したのは僕に他ならない。
あの時の貴也は僕と了では止める事が出来なかったからな。
師匠もいなかったし、ああするしか方法はなかった。
床に手をつけヘコんでる貴也は無視をするとして、僕はさっそく本題に入った。
「隣町にある浄穢教を3日以内に潰したいんだけど、手を貸してくれませんか?」
「浄穢教か〜、確かあそこは自らが汚す事によって浄化するっていうのが信条だったかな。信者は百人ちょっとと少し小さめな宗教団体だ。浄めると言って女性に暴行したり、ここ最近はかなり荒れているみたいだね。建物も最近新しく建て直したみたいだし。僕個人としては気に入らない教団だな〜」
さすがだ。さっそく知らない情報がいくつも出てきた。しかも何でも屋もあまりいい感じをしていない。これは協力してくれるかも。
「だからって勿論タダというわけにはいかないよ。僕が気にいるか気に入らないかは別として、お代はしっかり頂くつもりだ」
そりゃそうだ。僕の知る限り何でも屋はそういう人だ。けど、金額は低くなってるかもしれない。
「潰すと言われても少し抽象的だな〜。鋼介君の事だから、信者の目を覚まさせるって事でいいのかな?例えば教祖に言い逃れのないように徹底的にやるみたいな?」
「その通りです。幾らぐらいですかね」
うーんと考え込む仕草をする何でも屋。
頼む、安くあってくれ。
「そうだねぇ〜、友達の弟子の頼みだし、何より鋼介君は常連さんだからね。よしっ、負けに負けて二十万円だ。これ以上はびた一文負けないよ〜」
うぎゃあ〜高い〜。思ってたより十倍高い〜。もしかしたらかなり安いのかもしれないけど、そんなの判断出来ないし。
助けを求めるため横目で貴也を見る。まだ落ち込んでるんかい!言っとくけどあれはお前の為だからな!
今度は僕がうーんと唸る番になった。
部屋にある漫画やゲームを売ればそれくらいになるだろうか。いや、いかないな〜行く気しないな〜。
貴也は頼りにならないし、スーパー土下座の出番かも。
「言っとくけど、土下座で安くなるほど僕は優しくないよ」
見透かされた〜見透かされてしまった〜。完全に手詰まり状態だぁ。
「おや、その雑誌はなんだい?」
さらにエロ本まで見つかったよ。貴也の馬鹿、隠しとけよ。恥ずいなもうっ。
「んん?少し見してもらってもいいかな?」
「え?別にいいですけど……」
意味がわからず取り敢えず承諾する。
大量のエロ本を手渡すと興味深そうにその中身を見ている。
堂々とページをめくる何でも屋を見て、逆に僕の顔が赤くなった。
やがて確認をし終えたのか、彼女はこう切り出した。
「ふむ、今回のお代はこの雑誌でいいや」
まさか彼女にそんな趣味があるとは!?
「いやいやそんな顔をしないでくれたまえ。別に僕はレズってわけじゃない。ただ、このグラビア雑誌の中身はかなり希少でね〜、マニアに売れば二十万円ぐらいになるかなと思って、提案してるんだよ〜」
な、なるほど。今気づいたけど確かに見ていたのはグラビア雑誌だけだ。
古くて保存状態もいいと貴也も言っていたし、こういう物も金になるのか。
「で?どうする?」
当然迷う理由なんて無い。
「もちろんお願いしますよ」
「なら交渉成立だ。さっそく浄穢教について調べまくるよ。二時間いや一時間で全てを調べてみせるさ」
おお、なんて頼りになるんだ。貴也の比じゃない。
これは直ぐに決着がつくかもしれない。
「少しいいか、鋼介」
「なんだ?確かに謎が解ければお前にやるとは言ったけど、謎が解かれていない以上まだ僕の所有物であって、そのグラビア雑誌をどうこうしようと僕の勝手ーー」
「そんな屁理屈はどうでもいい!!残りのエロ本は貰うからいいとして、そんな事よりもコレだ!」
そう言って貴也はスマホを取り出すと、一つの音声を流した。
『僕は目の前に現れた究極の謎を解こうとしているだけだ。それに、このエロ本が今後を左右する重大な物になるかもしれないだろ?』
『もし本当にそんな事になったら、なんでも言う事聞いてあげますよ』
この音声は、僕と龍神の会話!?
こ、こいつ。いつの間に録音してたんだ?
流石は真性のクズ。他人の弱みとなるものを保管するなんて……。同じ事をしている僕も人の事は言えないか、チクショウ。
若干落ち込む僕に、貴也は続ける。
「どうする?どうする?何でも言う事聞いてくれんだぜい。オラァもう期待で胸が一杯だぁ〜」
勘違いをしている馬鹿に真実を伝えるとしよう。
「言っとくけどあれは僕だけに有効なものだ。貴様は違う」
「な、何だってぇ!?」
驚愕を露わに僕の胸ぐらを掴んでくる貴也。
当たり前だろ、僕に対して龍神が言ったんだから。
「主、言っときますけどグラビア雑誌はエロ本では無いので無効ですからね」
「何だってぇ!?」
次に驚愕を露わにしたのは僕だった。
「何のことかさっぱりだけど、店の中で争うのはやめてくれたまえ。やるなら外でだ。それに僕は今から忙しいんだから、どっか行って待ってるといい」
そうして体よく追い出された僕達。
さて一時間どうするか。短いようで長い時間。
取り敢えず何とかなるかもと有桜の奴に連絡してみるか。
「ああ〜何だかな〜何だかな〜。一気にテンション落ちたよ。踏んだり蹴ったりだよ。親友に売られていたと思ったらリンちゃんのご褒美もないときた、はぁ〜何だかな〜」
「るっさいな。僕だって龍神のご褒美はないよ。それに残りのエロ本はあげただろ」
コール音を聞きながら手短に答える。
「でもさ〜でもさ〜。親友の恋路を邪魔するってどゆこと?そこは温かく見守ろうよ。なんで俺は何でも屋にあんな目に遭わされるわけ?おかしくね?」
「おかしい……」
「だろっ!そう思うだろ!だったら何で何でも屋に依頼をっーー」
「そうじゃない!!」
貴也の言葉を遮り僕は叫ぶ。
「有桜が電話に出ないッ!どうしてだ!?」
電話には直ぐに出るように伝えた筈だ。
何かあったのか?そうじゃなきゃ、有桜が電話に出ない何て事は!?
「落ち着け鋼介。らしくねぇなこのシスコンは。もしかしたら風呂とかトイレに入ってるだけかもしれないだろ?」
強引に頭を抱かれ、僕は少し落ち着く。
そうだ、貴也の言う通りだ。たまたま出られなかった可能性の方が大きい。
僕は再び電話をかける。
「やっぱり出ないじゃないかッ!!」
貴也のいう事なんかに耳を貸した僕が馬鹿だった。僕は急いでその場を駆け出した。
気が狂いそうだ。もし有桜の身に何か起こっていたら、僕はそんな目に遭わせた奴を絶対に許さない!!!
この世の地獄を見せた後に、さらに目の前でそいつが大切にしているモノをぶち壊してやる!!
それが物だろうと人だろうと、必ず!!!