恥ずかしい思いは他人に任せよう
僕達はその後デパートを出た。
向かう先はゴミ収集所。業者の方に電話をした所、エロ本は無事に回収して貰った。燃やされる前で助かった。
この謎を解かない限り、僕に熟睡できる日は来そうにない。
「里美さんが大変な時にエロ本って、どーしようもないですね〜ほんと」
ジト目で龍神が見てくる。僕は別にエロ本になんて興味ないのに、勘違いして貰っては困るな。まったく。
「僕は目の前に現れた究極の謎を解こうとしているだけだ。それに、このエロ本が今後を左右する重大な物になるかもしれないだろ?」
「もし本当にそんな事になったら、なんでも言う事聞いてあげますよ」
呆れそうに呟いた龍神。僕は反射的に音声をスマホに録音する。僕の勘が正しければ、きっと使う機会がくるはずだ。
「向かいながら話をしようと思うけど、短時間……長くても3日でケリをつけたいと僕は考えている」
「3日かー。厳しいな。何をするか決まってんのか?」
何をするか。それはデパートの屋上にいた時に大方決めている。
「僕達が3日以内にやる事、それは浄穢教がインチキだとバラす事だ。それも言い逃れのできないように徹底的にな」
その為にやる事は、
まず貴也に協力を頼む。これは既にクリアした。
そして貴也とは別に協力を頼む人がいる。
正直この人の協力を得れるかどうかによって、今後の展開を左右するとても重要なことへと繋がる。
「ていう事はあいつの助けが必要だって事か」
渋い顔をしながら貴也が呟く。どうやら貴也も同じ考えに至ったみたいだ。
「まじかー、俺あいつに昔してやられたから、あんま好きじゃねぇーんだよなー」
「あれは誰がどう見てもお前の自業自得だけどな。むしろあれだけで済んだお前は幸せ者だよ。本来なら完全なる警察もんだからな」
「あいつとは誰の事ですか?」
龍神が興味深そうに尋ねてくる。
「あの人の呼び方は色々あるんだけど、そうだな……何でも屋が一番しっくりくるな」
あの人とは師匠関連で初めて出会った。
第一印象はうさんくさい人。
けどその後、何でも屋の凄さに僕は舌を巻く事になる。
「でもよお、何でも屋の助けを得るにはそれなりの金額が必要だろ?金はどうすんだ?」
そう。何でも屋に助けを求める場合、その問題に応じた金額を要求される。
今回の問題を考えるとかなりの金額が必要なはずだ。
いつも金欠の僕に払う手立てなど、ない!
「金なんかないよ。取り敢えずいくらぐらいか聞いて、そこから考えよう」
「要はノープランって事だな……ただの机上の空論かよ」
なんだこいつ。
「カッコつけてるとこ悪いけど、少し違うな。いいか、机上の空論ってのはだな、頭の中だけで考え出した、実際には役に立たない理論や考え方の事を言うんだ」
「いや、あってんじゃん。お前の考えなんの役にも立ってないじゃん」
「むぅ……いいだろう。僕の過失だと認めてやらん事もない」
「何様だお前!?」
吠えてる貴也を無視して僕は龍神に視線を送る。
「龍神、悪いんだが実体化を解いてもらえないか。正直身体がヤバくなってきた」
「あ、はい。分かりました」
ふう、身体が軽くなった。慣れてきたとはいえ、ぶっ通しはキツイな。
「おお、マジで姿が消えたよ。てっきり鋼介の頭がおかしくなったとばかり思ってたぜ」
「信じてなかったんかい!」
「じゃあ俺が全く同じ事言ったら信じられるか?」
「まぁ、無理だわな」
「だろ?」
おそらく変な物でも食べたのかと思うだろうな。
こんな奇怪な事を聞いても、平然としていたこいつは案外大物なのかもしれない。
ムカつくから絶対口には出さないけど。
そうこう話している間にゴミ収集所へと到着する。
「さて、行って来い貴也。事務所に回収して貰ったから、取りに行ってきてくれ」
勢いでエロ本を回収して貰ったが、いざ受け取るとなるとマジで恥ずかしい。
どんだけエロ本読みたいんだよってなる事間違いなし。
何より僕は制服だ。私服の貴也しか受け取りにいける人間はいない。
「行って来いって俺にメリットねぇじゃん。ただ恥ずかしい役をやらされるだけじゃん」
「謎が解けたらエロ本はやるよ」
「行ってくるぜぃ!!」
なんていい笑顔を浮かべるんだあいつは。恥よりも欲望を満たす方が大事とか、なんだろうこの微妙な感じは。助かってるのは確かだけど、なんだかなー。
「残念な人ですね〜」
そうそれだ。いい事言ったぞ龍神。頭を撫でてやろう。
「貰ってきたぞー、エロ本ー!!」
「早いし声デケェよっ。テンション上がり過ぎだろ!?」
「なかなかいいぞこれー。何冊かグラビア雑誌も混ざってたけど、古い割に綺麗で保存状態最高だぜ」
ああ、そういえばそんなのもあったな。てか……。
「中身確認すんのも早すぎだろっ!?つーか……なんか手がかりになりそうなものはあったのか?」
「最高にエロかった」
つまり無いってことか。冷静になればなるほど、先程の僕はおかしかった事に気づく。エロ本に手がかり残す奴ってどんな奴だよ。
きっと親父あたりが置いてったものかもな、その方が確率的には高いだろう。
無駄足を踏んでしまったな。後で有桜に謝んなきゃ。あの時の僕は本当に頭がおかしくなっていたに違いない。貴也のせいだな。うん、貴也のせいだ。
「なんだろう。理不尽に俺のせいにされてる気がする」
「気のせいだ」
なんて鋭い嗅覚をしてるんだ。師匠並みだな。
「で、どうするんです主。こんな無駄な事に時間を費やして、呆れて物も言えませんよ」
「面目無い。……取り敢えず、何でも屋の所に行こうか。協力を頼まないと……」
スマホを取り出し、何でも屋に電話をかける。
数回のコールののち、陽気な声が電話口から流れた。
「はいは〜い。こんにちは〜龍ヶ崎 鋼介君。僕に何か用かな〜?」
「どうも、何でも屋さん。少し頼みがあるんですけど、今から会えませんかね」
「オッケ〜ぃ。僕はいつものバーに居るから来てくれたまえ。一杯おごるよ」
「生憎未成年なんで遠慮します。じゃあ今から行くんで待っててください」
電話を切る。
良かった。バーに居るという事は、今は何の問題も抱えていないって事だ。仕事を引き受けてくれる可能性が上がった。後はお金だけど……最悪僕のスーパーな土下座の出番かもしれない。
「なあ、俺は帰っていいか?」
貴也が何か馬鹿な事を聞いてくる。
「馬鹿言うな、万が一の時土下座の人数は多い方がいいに決まってるだろ」
貴也も困ったものだ。いつまで根に持ってるんだか。
女の子を好きになるのは仕方ないけど、ストーカーまがいな事をして何でも屋に制裁を食らったのは、十中八九自分のせいだろうに。
「さて、思い詰めた顔してないでさっさと行くぞ」