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大事な話をしてる時に電波が悪くなったらテンパる


全てを聞いた貴也たかやの第一声がこれだった。


「だよな、鋼介こうすけに彼女が出来るわけないもんな」


僕は絶対に貴也よりも早く彼女を作ると決める。


「しかしそうなると、俺も宗教をやるべきだよな」


「何でそうなるんだよ!?言っとくけど神が生まれやすくなってるってだけで、簡単というわけじゃないからな」


「チッ、何でお前ばっかり……」


不安だ。こいつに頼るのが本当に不安だ。色仕掛けの一つや二つで簡単に裏切りそうだ。



「しかし宗教に金を使ってるって、一体何に使うんだろうな。オーソドックスに幸せになれるツボとかか?普通にインチキってわかりそうなもんだけどなぁ」


「普通じゃないんだよ。少なくとも、何かを買わせようって時には、相手に正常な判断をさせない為に色々と手を打ってるはずだ。詐欺にかかる人も大抵似たり寄ったりだしな」



「ふーん。取り敢えずどんな宗教か調べねぇとな。教典?聖書?とかは持ってねぇの?」


「……どうだろう。ちょっと待ってろ里美ちゃんに聞いてみる」


不安だけど、やはり一人よりも二人の方がいいな。すらすらと何をするべきかが決まっていく。

師匠もいてくれたら本当に助かるんだけど、そこまで欲張っては少しばかり欲しがりすぎかな。


ん〜メールよりも電話の方がいいかな。

いやまて、僕は里美さとみちゃんの電話もメアドも知らないぞ。

くそっ。自分の迂闊さが腹ただしい。

取り敢えず有桜ありさに電話して、教典か聖書があるかど、う……か。



「…………………………」


「どうした?早く電話しろよ」


「キッサマァァアアッ!!そういえばよくも僕の部屋に聖書《エロ本》を置いてくれたなぁああ!!!」



「あっぶなぁああ!!何いきなり殴りかかってきてんだぁ!!」



聖書と聞いて思い出した!こいつは僕の部屋にエロ本を置いていきやがったんだ!!

許すまじき行為!!今ここで此奴を打ち滅ぼしてやるッ!!


「落ち着けバカッ!何が何だかわからねぇよ!!聖書って何だ!?」


「自分の胸に手を置いて考えやがれこのクズが!!普段使わない部屋にわざわざ置いていきやがって」


「だからぁ!!何のことかまじでわかんねぇっての!!」


こいつまだシラを切るか。いいだろう。このクズに教えてやるとするか。


「忘れたとは言わせんぞ!僕の部屋に大量のエロ本を置いて行きやがって!!有桜にお下劣な物を見せた罪ッ!!今ここで償って貰おうか!」


「…………いや、まじで知らんけど……」


何ィ!?バカなッ。こいつ、本気で言ってんのか。そんなわけないだろう。僕の部屋にエロ本を置いていくなんて、こいつ以外にあり得るのか!?


「うん。そもそもだ。本当に俺だと思ったのかよお前。ったく。ガキの頃から一緒にいるってのに、お前は未だに俺のことを理解していなかったようだな」


足を交差し、手を顎に当て、カッコつけながら奴は言い放った。


「俺がエロ本を誰かに渡すわけねぇだろうが」


「確かに!!!」


何てことだ。僕は重大なミスを犯していた。そうだ、その通りだ。貴也がエロ本を手放すわけがないっ!!

貴也=変態という方程式が成り立っているために大きな勘違いをしてしまっていた。


じゃあ待て。なら、あのエロ本は何だというんだ。

どうして僕の部屋にあった?何の目的で?


「そのエロ本の中身は見たのか?もし見ていたら何か手がかりになりそうなもんは無かったのか?」

実に興味深そうに呟く貴也。


「……見てない」


くっそ、気になる!僕とした事が、中身も確認せずに捨ててしまうとはっ!!こんな謎を残しておいていいわけが無い!!急いで有桜に電話だ!


「ッ!?有桜か?大変なことになった!すまん!僕とした事が、重大なミスを犯していた。一生の不覚だぁ!」


『え!?なに!?どうしたの?大丈夫なの?』


「すまん!大丈夫じゃないんだ!そこで有桜には頼みがあるんだ、聞いてくれるか?」


『え?……もちろんっ!何が起きたのか分からないけど、私に出来ることなら何でも言って!力になるから』


くぅ〜。なんて頼りになる妹なんだ。兄の失態にも気にする様子はなく、そんな僕に協力もしてくれるだなんて!僕はなんて幸せ者なんだ!!


「ありがとう、有桜。じゃあ早速なんだけどその頼みというのは、お前が実家に帰る時に捨ててきたエロ本があるだろう?それを業者よりも早く回収しておいてくれ」


『うん、わかっーー。え?……ごめん。ヨクキコエナカッタ』


「お前が捨ててきたエロ本を回収しておいてくれ。大変な事にまだ中身を見ていなかったんだ!」


『…………………………』


「……有桜?どうした、何で黙ってるんだ。事は一刻を争うんだぞ」


何だ?電波が悪いのか。くっそおう、こんな時にぃ。何て運が悪いんだ。


『………………(ブチン)』


「電話が切れた!くっそ、電波は何をしているんだ!」


頼みの綱の有桜がダメか。ちくしょう。ここから走って間に合うか?

いや無理だ。かくなるうえは、タクシーを呼ぶしかないっ。しばらく断食すれば何とかなるだろ。



「……おい鋼介よ。何か決心しているところ悪いんだが、お前俺に言うことあるよな?」


「え?何のことかわからない」


「謝れよ!!証拠もないのに人を疑って、殴りかかって来やがって!謝れよこのクズ!」


「……ゴメンナサイ、ワルカッタ」


「カタコトっ!お前本当にクズだなぁ!」



「……どっちもどっちでしょうね。類は友を呼ぶと言いますが、実に模範的な二人組です。これはりょうさんという方と師匠さんも、どんな方たちなのやら……」



ぎゃあぎゃあと騒ぐ僕達を尻目に、龍神が何かを呟いている気がしたけど、気のせいだろう。





「怒られて落ち着きましたか二人とも」


散々騒いでいた僕達は、屋上にいるスタッフさんにこってりと絞られてしまった。


怒られる時に『またお前達か』と言われたのはいささか不本意だが。


「あのおっちゃんも長い事いるよな〜」


「ああ、僕達が子供の頃からいたからな〜」


いつの間にか僕の方が大きくなってる、ということは無かったけど、白髪が増えていたな。

時の流れを感じるよ。


「ところでぬし、くじいた足はもう大丈夫なんですか?だいぶ動き回ってましたけど……」


「あれ?くじいたこと言ったっけ?」


不思議になりながらも僕は治ったことを伝える。


「治るの早すぎませんか!?結構いったと思うんですけど」


「僕は師匠に鍛えられてるからな。といっとも筋トレとか随分サボってたから、足をくじいちゃった訳だけど……。てか何で知ってたんだ?」



「はぁ、私の場合は主に取り憑いてますからね、主の危機には敏感なんですよ」


「なるほどね、不思議パワーか」


「私的には主の身体の方が不思議ですけどね。私の実体化にも慣れてきたってのは、本当の事だったんですね」


呆れそうにため息を吐く龍神。心外だな。師匠とかの方がよっぽど化け物じみてるぞ。



「今後の方針を決めようと思うけど、どうするか……。貴也は僕たちに協力してくれるって事でいいんだよな」


「おう。師匠の頼みは断れねぇし、何より里美さとみちゃんに興味が出た」


「わかってると思うけど、里美ちゃんに手を出したら僕だけじゃなく、有桜の奴も黙ってないからな」



里美ちゃんの事は宗教だけでなくこいつからも守らないといけなくなった。

より一層状況を悪化させた気がするのは気のせいだろうか。




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