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悪い状況とは重なるもの


里美さとみちゃん。単刀直入に聞くけど、君はどうしたい?」


空気を変え、シリアスモードに突入する僕。

まだ顔が赤い里美ちゃんに、真意を問いただす。


「その、私は。……お母さんと、一緒に暮らしたいです。また、前みたく、仲良く暮らしたいです。宗教をやめてほしいです」


「そっか。……わかった。君がそれを望むのなら、僕は出来る限り力になろう」



偉そうにそんな風に述べた僕だが、実のところまだノープランだ。

龍神の言う神改バトルとやらで解決出来ればいいんだけど。その教団にとってメリットになる物を提示しない限り勝負すら受ける事が出来ないだろう。

状況はまだ厳しい。


「それで、その教団の名前を知っときたいんだけど、何ていう名前なの?」


「あ、はい。確か……浄穢教じょうかいきょうです。隣町にあるんですけど……結構人は多かったです」


「え!?マズイですよぬしっ」


浄穢教の事に反応する龍神。マズイとは何のことだろうか。

龍神の事を知らない二人がいるため話しかける事が出来ないので、龍神の頭を顎で二回小突く。


「その浄穢教は隣町に、つまりこの街にあるわけじゃないのですよね?それはつまり、ここの土地神の恩恵を受けないということなので、その宗教に本物の神はいないと思います」


「な!?マジで……!?」


「?どうしたの兄貴……?」


「いや、何でもない」


悪かった状況がさらに悪くなる。

神がいない。それは神改バトルをする事が出来ないということ。

すなわち、不思議な力が働いて記憶を改ざんすることが出来ない。


僕の武器は龍神という神だ。その神が使えなくなった以上、自分の力でどうにかする必要がある。

出来るのか?ただの高校生とは言わないが、それでも僕は高校生だ。

出来る事には限度というものが存在する。


「ねぇ、兄貴……。今の状況って結構ヤバいの?」


さすが兄妹だ。顔に出したつもりはないけど、僕の変化に目ざとく反応する有桜ありさ。状況はよろしくないのだが、それを正直に話すわけにもいかない。

取り敢えず今できることといえば……。


「大丈夫だ有桜、僕に任せておけ。……里美ちゃん。今日も教団に来るよう言われてるんだよね?」


「はい。学校が終わったら……お母さんが迎えに来ると言っていました」


「オーケー。ならお母さんにメールで友達の家に泊まる事を伝えてくれないかな?その友達の名前を聞かれたら……そうだな。リンちゃんとでも言っといてくれ」


「リンちゃんですか?わかりましたけど……」


「よし、じゃあ今日はもう僕の家に泊まるんだ。もちろん有桜もな。取り敢えず今日は休め。色々と疲れたろ」


僕は二人をねぎらいつつ、龍神を退かし廊下にある部屋に入る。有桜が押入れに隠したというエッチな本を取り出し、紐で結んで袋の中にいれると、玄関に置いた。


「ねぇ兄貴。泊まるのはいいんだけど、着替えとかないから一度家に取りに帰ろうと思うの」


「ああ、そうした方がいいな。けど、わかってると思うけど里美ちゃんはダメだぞ?この家に大人しくさせておくんだ。僕と二人きりが嫌なら、着替えは僕が取りに行くよ」


「う〜ん……(私の着替えを里美ちゃんも着るわけで、それを兄貴が持ってくるってのはダメな気がするなぁ。だからって里美ちゃんと二人きりにするのもなぁ)う〜〜……分かった。私が特急で持ってくるから、兄貴は家に居て。もし里美ちゃんに何かしたら、分かるよね?」



「安心しろ。僕にとって中学生とは子供に過ぎない。おかしな気持ちになんかならないさ。そうだ、ついでにエロ本を捨ててきてくれないか?」


「死ね」


とか言いつつしっかりエロ本を捨てに行くあたり、僕の妹は何て優しいのだろうか。天使か何かかもしれない。


「あの、お兄さん……」


「ん?何だい里美ちゃん」


里美ちゃんに声をかけられ、リビングに戻りベッドに座り込む。


「これから、どうすればいいんでしょうか。私は、何をすればいいんでしょうか」


「どうすればいいか、何をすればいいか……ね。質問で質問を返すようで悪いんだけど、それは君が何をしたいかによるかな」


「……何をしたいか。……それは、お母さんと仲良く暮らしたい……」


「そっか。ならどうすればそれが叶うか考えてごらん」



うーんと唸りながら俯向く里美ちゃんから視線を外し、僕も考えを巡らせる。


僕自身が何をしたいのか。

それはもちろん、目の前にいる大人しくて可愛い女の子を助けたい。


どうすれば叶うのか。

里美ちゃんの母親に宗教をやめてもらう。


どうすればいいのか。

宗教にハマってしまった原因を失くす。


これが今できる最善の方法だろう。


ただ、一番大きく難しい問題でもある。


「う〜ん。……教祖を、殺す?」


「えらく物騒だな!?まさか君の口からそんな言葉が出ようとは、お兄さんはビックリだ」


「え〜、でも。それが一番シンプルだし」


大人しい女の子と思ったら、中々怖い事を言うじゃないか。


「それに、お母さんを騙してる悪い奴らなんて、いなくなればいいんだ」


ムスリとした表情を見せる里美ちゃん。

確かにその通りだけど、宗教を一つ潰したところで問題は解決には至らない。

もっと根本的な、宗教にハマってしまった原因を失くさなければ、同じ轍を踏んでしまうだろう。

この街には宗教などいくらでもあるのだから。


「ねぇ二つ聞きたい事があるんだけど、お父さんは今どうしてるんだい?」


「お父さんは、何も知りません……」


「何も知らない?そんな事あるのか?お金だって随分使ってしまったって聞いたよ。それに夫婦なんだから、お母さんの様子から何か気づくもんじゃないのか?」


「お父さんは、病院のベッドの上で、寝てるんですよ。もう、3年も……」


その言葉で、何故宗教にハマってしまったかの原因をある程度理解してしまった。そして自分の軽薄さを痛感する。


何より、虫をも殺せそうにない少女から、いの一番に物騒な言葉が吐き出された理由も……。


少女は気付いているのだ。原因を失くす事が難しいという事を、シンプルにはいかないという事を。


「……その、ごめんなさい。何も知らなかったからとはいえ、君の口から辛い事を話させてしまって……」


「いいんです。仕方、ない事ですよ。男の人がエッチぃのと同じぐらい、仕方ない事です」


「ええっ、そこまでの事なの!?」


どんだけだよ。そんな仕方のない事なのか!?

僕にもう少し考える力があれば、失言はしなかったと思うけど。


「あははは。うん。そこまでの事なんだよ。えへへ」


ここに来てから初めて里美ちゃんの笑顔を見た気がする。

やっぱ可愛いな。


今は笑顔を見せてるけど、少女の人生には、どれほどの困難があったのだろうか。

三年前、まだ小学5年生の頃から……どれだけ辛い事を経験したのだろうか。

僕には想像も出来やしない。なぜなら少女の過去に何が起こっていても、僕はそこにはいないから。


けど、過去を変える事は出来なくとも、少女の未来は変えれるはずだ。


男として、兄として、友人として、僕が里美ちゃんを守るべきなんだ。


決意を新たに、僕は覚悟を決めた。




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