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友達の家で友達の家族と会うと少し気まずい


「何でお前勝手に学校に来たりしたんだよ。しかも、貴也たかやのバカに見つかりやがって……」


「それなんですがぬし!大変な事になってしまいました!!」


家までの帰り道。龍神に学校に来た理由を尋ねると、彼女は慌てた様子で身振り手振りし、とんでもない事を言い放った。


「実は部屋でテレビを見ていたら、妹さんが部屋に入ってきて見つかってしまったんですぅ!!」


「はあ!?何で、だって今日は学校の筈だろ!?」


「わかりませんよぉ、私ビックリしちゃって逃げてきたんです。どうしますぅ?」


なるほど、慌てて逃げてきたところ今度は貴也にも見つかってしまったのか。あいつの事だから君は誰だとかを問いただしたに違いない。

むしろあいつの責め立てによく神だとかを黙って入られたものだ。


僕はピンク色の頭を撫でる。


「ん、むぅう。何ですか急に……ん、気持ちいいですけど、こんな事やってる場合じゃないですよ……」


「そうだね。取り敢えず後は僕に任せろ。別に神の存在を他の誰かに知られたらダメって訳じゃないんだろ?だったら何にでもなるさ」


「ん、怒らないんですか?お前の不注意だって……」


俯いてしょげる龍神。可愛いなおい。


「さすがにこれはお前に非はないよ。そんな気にする事じゃない。……でも……学校をサボったとすると、よっぽど急用だったんだろうな。ちょっと確認してみる」


僕はスマホを取り出す。

電話は来ていない。となるとメールか?

メールボックスを確認すると昨日の内に一つ届いている。

有桜からだ。昨日届いて確認するのをすっかり忘れていた。龍神の所為ではなく明らかに僕のミスだ。


『昨日話した友達の子と連絡がつかない。学校も無断で休んだみたいだし、私の考えすぎならいいんだけど実はあの後色々あったんだ。もしその子に何かあったら私は絶対に許さない。兄貴も協力してお願い』


文面を見る限り、友達が何かの事件に巻き込まれているかもしれない、ということかな。

今日家に来たのは、その友達がらみで間違いないだろう。


そうじゃなきゃ有桜ありさが僕を頼ったりはしない。

あいつは自分の事は自分自身で何とかする傾向があるけど、自分よりも大切な人達が大変な場合には、僕の事をまず頼よってくれる。

これは兄貴として信頼されているという事なので大変喜ばしいことだけど、それは同時に有桜が自分では解決出来ないと判断した事を意味する。


つまり、事はそれほど緊迫しているという事だ。


僕は時間を確認する。

12時半……か。

テストが終わったこの学校では、残る夏休みまでの時間割が午前日課になる。

だがこれはあくまで高校だからであり、有桜の通う中学校は違う筈だ。卒業生だから分かる。



僕の家から学校までは徒歩で30分ぐらい。

チャリを壊してしまった僕は徒歩で通っている。


僕は軽く準備運動をし、家まで全力で走るべく足に力を入れ、駆け出した。

が、数歩進んでその場に盛大にコケて地面を転がる。



「イッテェ……何故このタイミングで実体化をした」


「ごめんなさい。主の言いつけを守ろうとして……」


「むぅ。……そうか。……まぁ慌ててもしょうがないよな」


僕は無理やり納得して、足を引きずりながら家を目指す。

歩く事30分。僕は静かにドアノブに手をかけた。

あれ?鍵がかかっている。有桜の奴帰ったのか?

疑問を浮かべながらも僕は鍵を開け中に入る。


「主、一応姿を消しておきますか?」


「……そうだな。僕が合図するまで消しておいてくれ」


体が少しだけ軽くなる。

玄関で靴を脱ぎゆっくりとリビングに向かう。

自分の家なのに何故か緊張してきた。


「おかえり兄貴」


リビングに差し掛かったところで背後から声をかけられる。

ビクンと反応した僕は即座に振り向くと、そこに有桜がいた。


「た、ただいま……」


「……聞きたい事があるんだけど、まずは私の話から聞いてもらってもいいかな」


「あ、ああ。それよりお前……学校は?」


「うん。それも今から説明するから、取り敢えず座ろっか」


真剣な表情を浮かべる有桜。

僕は気圧されながら素直に従う。


机を間に向かい合う。龍神は僕のあぐらをかいた足に座る。

今ではもうお気に入りの場所になったらしい。



「昨日のメールはもう見たよね。実は今日その友達が学校に来たんだ。……けどね、その子の体……アザだらけだったの……」


「……………………」


僕は黙って有桜の言葉を待つ。


「……アザは制服を着ると全然わからなくてね、その子が言うまで全くわからなかった。……彼女を傷つけたのは……自分のお母さんなんだって」


「そのお母さんは、確か宗教にハマっていた?」


「うん。一昨日遊ぶ約束したんだけど、その子は母親に教団に一緒に来るよう言われてて、結局遊ばなかったんだけど……」


「なるほど。母親に教団に連れてかれて、その次の日学校を休んで来たと思えばボロボロだったってわけか」


ここまで聞いて僕は、ある程度この先を推測出来てしまった。

有桜が学校をサボってまで僕の家に来た理由が。


「その子を匿ってくれって事か?」


僕の言葉に、有桜が息を呑むのがわかった。


「流石だね兄貴は。うん。実はその通りなんだ……。その子今日も教団に来るよう言われたらしくてね、私居ても立っても居られなくて……その子を引っ張て学校を抜けたはいいけど……どうすればいいか分かんなくて、それで兄貴の家に来たの」


「なぁ有桜。お前が僕を頼りにしてくれるのは、すごい嬉しいよ。けどね、それはもう警察が出るべきだと思うんだけど……」


これは完全なる暴行罪だ。体にアザがあるなら充分な証拠となって警察も動いてくれるだろう。

高校生の僕なんかよりは、よっぽど頼りになると思う。


「そうだけどっ。……それじゃあその子、お母さんと離れ離れになっちゃうよっ。そんなの里美さとみは望んでなんかない!」


感情を露わに机を叩く有桜。

その音に龍神がビクンと震え、僕の顎にピンク頭が激突する。

僕に頼む以上何か理由があるとは思っていたけど、そんな理由とは。

有桜はまだ、本当の、血の繋がっていたお母さんの事を忘れられないのだろう。

今の現状に別段不満があるわけでもない。

それでも、幼い頃になくしてしまった幻影を追い求めているのかもしれない。

有桜はその苦しみともとれる感情を、友達に味合わせたくないのだ。



「……その、里美ちゃん?お前の友達だっていうその子。今居るんだろ?合わせてくれ。その子の口からどうしたいのかを聞かない限り、僕は協力をする事は出来ない」


だからこそ、僕はこう答える。

母親と離れたくないというのは、有桜が勝手にそう思っているからで、その子が本当に望んでいることなのかどうか確認する必要があった。

母親と離れた方が良い場合がある事を、僕は知っている。


「わかった。呼んでくる。ちょっと待ってて……」


そう言い残し廊下にある部屋に入っていく。

僕はその部屋を普段使っていない。

生活に必要な物は全部、リビングに置いてあるからだ。


「兄貴……エッチな本はちゃんと隠して……」


貴也を殺す事を決める。

あの野郎ッ。僕の部屋に何てとんでもない爆弾を置いて行きやがったんだ。絶対許さん。


「主サイテーです」

龍神がジト目で僕を見つめてくる。

僕が最低なんじゃない。貴也が最低なんだ。


顔を少し赤らめながら、僕の前に座る二人。

この子が里美ちゃんか。

髪の長さは有桜と同じ肩ぐらい。

思わず守ってやりたいと思わせてしまう風貌を兼ね備えている。

簡単にいうとすごい可愛いってことだ。


「うほん。初めまして。僕の事は有桜から聞いてるよね。一応僕の名誉のために言っておくけど、あの部屋にあったものは友達が勝手に置いていったもので、僕のじゃないから安心して」


「あ、いえっ。その、男の子なんですから仕方ないですよねっっ。大丈夫ですっ。クラスの男子もそんな感じなのでっ」


大丈夫じゃないな。早くも壁を感じるよ。

ただでさえ初対面で気まずいのに……。あいつは出来るだけ苦しめて殺ろう。


「てか有桜。お客様をそんな部屋に入れちゃダメだろ」


「ちゃんと押入れに隠したわよっ!大体あんな物を置く方がおかしいのよっ。お母さんに言いつけてやるっ」


「別にいいけど……僕の恥はお前の恥でもあるんだぞ。そんな勇気あるのかな?」


「はぁ?何でそうなんのよ!兄貴のバカバカバカバカバカ。このど変態っ」



顔を赤らめながら罵られても、僕は全くダメージなど受けはしない。

さて、兄弟喧嘩、もとい有桜をからかうのも程々にしないとな。里美ちゃんが戸惑ってしまっている。


そろそろ本題に入ろう。







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