コミュ力がないとハーレムは作れない
「やっと見つけた……。あのバカ、何で学校に来たんだ……」
散々学校内の教室を探しまくった結果、目的の龍神は家庭科室でヨダレを垂らしていた。
家庭部の作ったクッキーをガン見しており、他の生徒が龍神を気にもとめていない様子から、どうやら姿は消しているようだ。どうりで体が楽なわけだ。おかげで貴也から逃げ切る事が出来た。
「さて……どうするか……」
大変困った事に僕に家庭部の知り合いはいない。
そんな僕が家庭部に足を運ぶのはどう考えてもおかしい。
龍神はクッキーをガン見していてこちらに気づく様子はないし。
何かいい方法は無いだろうか。
「あれ?龍ヶ崎君どうしたの?」
「あ、委員長……」
声をかけられ、振り向くとそこに天使がいた。
「龍ヶ崎君って……確か帰宅部だったよね。もしかして家庭部に興味があるのかな?」
シメた。いい感じに委員長が勘違いをしてくれた。これに便乗するとしよう。
「あーうん。そうなんだよ。貴重な高校生活に何の部活も入らないのはもったい無いと思って……そういう委員長は?」
「そうなんだ。実は私も家庭部に見学に来たんだ。週一で活動だから勉強の息抜きにいいかなって思って」
「へぇー。勉強の息抜きって、委員長は努力家なんだなー」
「そういう龍ヶ崎君だっていい点数取ってたじゃない……嫌味?」
いかん。失言だったか。委員長のジト目が素晴らしいじゃなくて怖い。
「いやいや全然。僕はテスト2週間前しか勉強しないから……そうやって日々努力してるのが凄いってこと」
あわててフォローを入れる。これは本心だ。僕はテスト2週間前が限界なので、毎日やろうとは考えられない。
「どんなに努力してても結果が出ないとダメだよ。ちなみに龍ヶ崎君は今回のデキどう?」
「うーん。結構良かったかな。テスト対策プリントをくれた科目はいい点数が取れると思うよ。正直何教科は100点の自信があるし。返ってきた英語と現国はどっちも90点以上だったし」
「凄いんだね龍ヶ崎君は……まぁ私は英語100点だったけどね」
得意げに胸を張る委員長。その姿に僕は驚いた。普段人の良い彼女にしては珍しい行為だ。新鮮で可愛い。
「あ……ごめんなさいっ。はしたなかったね。気を悪くしたらゴメンね。密かに龍ヶ崎君と水無月さんは目標でもあったから……」
顔を赤らめながら、嬉しい事を言ってくれる。けど僕は委員長に目標とされる程出来た人間じゃないんだけどな……。
「委員長もそういうのに興味があったとは知らなかったよ。順位よりも点数重視だと思ってた」
「ん……それは少しは気になるよ。何か良い勉強法があるのかなー?とか」
「そんなもんは無いよ。僕の場合はただひたすらに答えを暗記するだけで、テストが終わればほとんど覚えてないからさ、意味ないよ」
実際。今同じテストを受けろといわれても、半分も取れるか取れないかぐらいだ。
その場しのぎの勉強法だからこそ、委員長に目標とされる価値はない。
「ただひたすらに……か。簡単に言ってるけどそれってかなり難しい事だよね。努力家は龍ヶ崎君なんじゃないかな〜?」
「だからそんな事無いって。日々努力を続ける人にこそ、ふさわしい言葉だよ」
「ふふ、そっか。……そろそろ入る?」
可愛らしく小首を傾げる委員長。僕は委員長が家庭部に入部するなら、絶対に自分も入部しようと決める。
「うん。入ろうか。……僕見学の許可もらって無いけど大丈夫かなぁ?」
「大丈夫だよ。ここの部長さんは人が良いから」
ほぉ。委員長がいうのならそうなんだろうな。引き戸に手をかけ、僕は扉を開ける。
その音に家庭科室にいた龍神を除く全員が振り向く。
わぁお。女子しかいないぜ。
僕は反射的に委員長の背後に回ってしまった。
情けないっ。
「?。……すみません。見学に来させていただきました。一人追加でお願いします」
「あーはいはい。大歓迎よ。私はここの部長の望月 鏡花。あなたは潤井川さんよね。君は?」
「龍ヶ崎 鋼介です。あの、部員は女性しかいないんですか?」
「あれ、知らなかった?そうよ。部員6名は全員女の子だし、先生も女性よ。だからって男子がダメって訳じゃないから、興味があるようならぜひ入部してくれていいから」
優しそうな笑みを浮かべる望月さん。確かに人が良さそうだ。急に来たにも関わらず丁寧に対応してくれる。
「でもタイミング良かったね。お昼時だけど、今から焼いたクッキーでお茶しようと思ってたの。あなた達も時間があるなら参加して」
「ありがとうございます、お言葉に甘えてぜひ参加させていただきます。龍ヶ崎君も参加するよね?」
「はい、迷惑じゃなければ……」
「オッケーじゃあ決まり。椅子とお茶二つ追加してー、新入部員と友好会だよー」
いつの間に入部する事が決まったのだろうか。
女子しかいない空間でのアウェイ感がハンパないけど。
見方を変えればハーレム状態だな。……コミュニケーション能力が乏しい内弁慶な僕には厳しい状態ともいえる。
机にクッキーが運ばれると、それに龍神も付いてきた。
「ん?あー主ぃ〜やっと見つけましたぁああ!心細かったよぉ〜〜!!」
嘘つけ。思いっきりクッキーに夢中だったじゃないか。
何故僕の膝に座る。何故口を大きく開けている。
貴様にクッキーは渡さんぞっ。
「主ぃ〜くれないと姿を現して、主の事をろりこんの変態だーって叫んじゃいますよ?」
こ、このガキッ。何て事を考えるんだ。そんな事をされたら僕の学校生活が終わると同時に社会的にも死を意味するじゃないかっ……。
僕はこいつの主なんだよな?何で脅されてるんだ僕は。
結局まあ。隙をついて龍神にクッキーを分け与えることに。
初めこそ僕の喋り数も少なかったけど、だんだん慣れてきてだいぶ仲良くお喋りをする事が出来た、と思う。
皆いい人達だ。
お茶を楽しんだ後、僕は委員長と共に家庭部の入部届けを提出して家に帰る事にした。
残念な事に委員長とは帰る方向は別々だった。