第7話 極限勝負、龍星対鬼
天音と鬼嶋のバトルです。
といってもすぐに終わってしまいますが。
正直な話、鬼嶋は強い。
日本を代表する妖怪と言っても過言ではない鬼……まさかそんな奴と戦うことになるなんて夢にも思わなかった。
一瞬の極限勝負を持ちかけられ、最初は迷ったが戦うしか道はないと直感で感じ、今まで納刀していた龍星神の鯉口を切った。
龍星神の力で戦闘服でもある真紅の衣を身に纏い、抜刀術の構えをする。
剣術最速にして一撃必殺の抜刀術……今俺に使えるのはこれしかない。
だけど、下手に動けば鬼嶋の金棒の餌食となる。
心を水のように静かに落ち着かせて呼吸を整え、緊張感を緩めずに鬼嶋の動きをじっと見つめる。
鬼嶋も同様に金棒を振り上げながらジッとして俺を見つめていた。
そしてありがたいことに、妖怪生徒も含めてこの場はとても静かで風が吹く音しかしなかった。
たった数秒の短い時間でも、今は十分のような長い時間のように感じられた。
そして……。
「うらぁああああああああああっ!!!」
先手を打ったのは鬼嶋は叫びながら全身に力を入れ、金棒を勢い良く振り下ろした。
「はぁっ!!!」
そして、後手となった俺は右足を踏み込むと同時に柄に手をかけて鞘から龍星神を抜刀した。
金棒が振り下ろされ、神刀が抜刀され、二つの獲物が激突する。
ジャキン!!!
そして……龍星神の刃が金棒を真っ二つに斬り裂き、切っ先が鬼嶋の肩を掠めた。
「なっ……!?くっ!まだだ!!」
抜刀術は刀を放ったら無防備となり、攻撃をする事は出来ない。
鬼嶋は斬り裂かれた金棒を握りしめて俺に殴りかかった。
龍星神はもう抜刀術で勢い良く抜き放ったらので今から次の剣撃に移ることはできない。
しかし、まだ俺には龍星神を納めていた『コレ』が残っている。
「うぉおおおおおおおおっ!!!」
ドスッ!!!
「がっ、はっ……!?」
左手にある『コレ』を手の中で持ち替え、左足を更に踏み込んで鬼嶋の腹に突き立てた。
鬼嶋は自分の腹に突き立てられたものを見て目を疑った。
「鞘、だと……!?」
そう、俺が使ったのは龍星神の鞘。
刀を抜き放った直後に左手の中で鞘を持ち替え、左足を踏み込んで相手に強烈な突きを喰らわせる。
これが……。
「神魔流抜刀術、双龍月牙。刀による抜刀術の斬撃、そして鞘による突き……」
「見事な技だ……俺の負け、だな」
鬼嶋は斬られた金棒を手放し、負けを認めた。
そして、腹に突き刺さった鞘を抜こうとすると傷口から大量の血が流れる。
「ま、待った!まだ抜くな!」
「何……?」
龍星神を地面に突き刺し、両手を鬼嶋の胸に置く。
「お前、何を……?」
「黙ってて。心を落ち着かせて……」
目を閉じて一息をはいて力を込めると両手に光を纏う。
すると、鬼嶋の左肩の傷が塞がって癒えていく。
「傷が……治ってる……?」
「千歳、来てくれ!」
「は、はい!?」
千歳を呼び、頼みごとをする。
「千歳、ゆっくり鞘を抜いてくれ。鬼嶋、痛いだろうけど我慢してくれ」
「う、うん!分かった!」
千歳は恐る恐る突き刺さった鞘を握ると、俺の言う通りにゆっくり抜いていく。
「っ……」
鞘が抜かれながら腹の傷を癒していき、鬼嶋は痛みに耐えていく。
そして、鞘が全部抜かれると同時に傷口は完全に塞がり、鬼嶋は大量の血を流さずにすんだ。
「ふぅ……鬼嶋、痛いところはないか?」
「あ、ああ……」
「天音、その力って……?」
「これは癒しの力、治癒術。俺が生まれつき持っている力なんだ」
神魔流は師匠から教えてもらったが、治癒術だけは自分の努力で自由自在に使えるようになった。
「治癒術!?凄いね!!妖怪やそれ以外の異形でもなかなか使えない癒しの力で傷をあっという間に治しちゃうなんて!!」
「……ありがとう、千歳」
一先ず戦いが終わり、一息を入れようとしたその時。
「うふふ……鬼嶋に勝ち、尚且つ治癒術まで使えるなんてね」
凍るような冷気と共に高い声が響いた。
振り向くとそこには白い着物を着た白髪の少女がいた。
「ゆ、雪姫!?」
「せ、生徒会長!?」
「生徒会長?」
少女は淡い笑みを浮かべると俺に向けて会釈をする。
「始めまして、人の子さん。私は雪女の雪平雫。この妖魔学園の生徒会長です」
「俺は天音……」
「では天音さん。学園長先生がお呼びですので私に来てくれませんか?あっ、千歳さんと牙王丸君もね」
妖魔学園の学園長が俺に……?
嫌な予感がするけど、ここまで来たら逃げるわけにはいかない。
龍星神を鞘に収め、千歳に呼びかける。
「千歳、行こう……」
「うん……」
「ちっ、仕方ないか……」
鬼嶋も真っ二つに斬れた金棒を上着に包んで持ち、千歳と一緒に生徒会長さんの後についていく。
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天音に神魔龍とは別に治癒術を会得しています。
回復系はヒロインとかのイメージがあるので、逆に主人公ってなかなかいないと思って治癒術を出しました。
それと、生徒会長の雪女の雫は個人的に好きな感じにしました。