第14話 邪悪なる闇の龍星
ますます天音のチートが加速していきます。
そろそろ天音に学園生活を送らせたいです。
だってこのままだとタイトル詐欺になりかねませんから(笑)
「潮風が気持ち良いな……」
「そうだね……」
お母さんと私は船の甲板でのんびりとしながら、海からの潮風を感じていた。
「ドラゴンエンパイアまであと一時間ってところだな」
「まさか竜の帝国に行くことになるなんてね……」
私達は今、ドラゴンエンパイアに向かうために船に乗っている。
大きな木造の船だがかなり豪華な作りになっている。
「まあ成り行きだかな。ところで天音は?」
「天音は竜騎士さん達に治療をしているよ」
「治療?」
船の一室に向かうと天音は水龍と火龍を宿してないいつもの姿で、先ほど戦った竜騎士さん達に治癒術で治療をしていた。
「……よし、これで最後。他に痛いところとかありませんか?」
「いや、痛いどころかとても調子が良い……」
「帝国の魔法使いでもここまで高度な癒しの力は使えない……凄いとしか言いようが無い」
「まさか人間がこれほどの力を有しているとは……」
天音の治癒術に竜騎士さん達みんなはとても驚いていた。
確かに天音の治癒術は妖怪である私たちでも驚くべき能力だ。
傷を治したりする力を持つ妖怪は一応いるけど、あそこまで素早く治癒できるのは上級の魔法使いや神話の神様ぐらいしか出来ない。
「素晴らしい力だ……これならセシリア様をお救いできるかもしれない」
そんな天音の治癒術を褒めたのは騎士団長のヴァルガンドさんだった。
天音の治癒術を直に受けた竜騎士さん達も天音の力に感心し始めていた。
しかし、この中で一人だけ……ヴァイスさんは面白くなさそうに天音を見ていた。
やはりまだ天音を認めてい無いのだろうか。
さて、私達がどうしてドラゴンエンパイアに向かっているかというと、それはドラゴンエンパイアの姫、セシリア様の傷を癒すためだ。
そもそも、何故セシリア様がユニコーンの角を必要とするぐらいの傷を負ったかというと、一週間ぐらい前にセシリア様の誕生日パーティーがあった。
しかし、誕生日プレゼントの贈り物の中に呪いの呪物が紛れ込んでいて、それが入っていた箱をセシリア様が開けた瞬間に呪いの傷がかけられてしまったのだ。
ドラゴンエンパイア中の竜の魔法使いを集めてすぐに解呪を試みたが、呪いはあまりにも強くて解くことができなかった。
そこで竜帝騎士団にどんな傷も癒せるユニコーンの角の捕獲を命じて、数時間前の天音との戦闘まで遡るのだ。
ちなみにユニコーンの親子もこの船に乗っている。
お母さんの説得でユニコーンは殺さずにしてもらっているが、ユニコーンの角はひとまず保険という形で殺すのは保留となっている。
ヴァンガルドさんはセシリア姫の呪いを解いてもらうために妖術に卓越しているお母さんに協力を仰いだ。
そして、もう一人……呪いを解ける可能性を持つ癒しの力を持つ天音。
ユニコーンの角がなくても二人なら呪いを解けるかもしれない。
そうすればユニコーンを犠牲にしなくても済むかもしれない。
「さて……俺はユニコーンの所に行ってます」
「あ、私も行くー!」
天音はユニコーンの親子の様子を見に行き、私も一緒について行く。
☆
それから俺たちは無事にドラゴンエンパイアに上陸した。
初めて見る竜の帝国……そこは妖魔国とは別世界な国だった。
妖魔国を日本の和風な国と例えるなら、ドラゴンエンパイアはヨーロッパのような洋風な国で、建築物から風景までヨーロッパに近かった。
だが、観光に来たわけではないのですぐにセシリア姫がいる場所へ向かう。
そこは港町から奥へ進んだ『帝都』と呼ばれるドラゴンエンパイアで一番栄えている都で、その中央に建っているのが……。
「ドラゴンキャッスル……」
「竜帝様の住まう城……」
なんと言うか、イメージ通りというか、人間界で目にするファンタジーのアニメや映画で出てきそうな石造りの見事なお城だった。
そして、城から出てきた大勢の竜騎士達が剣を構えて敬礼をし、俺たちは城の中に入った。
城の中は装飾品から置き物まで全てが高級品で凄いと思ったが、やっぱり落ち着かないというのが俺の感想だった。
そして、竜帝が座ると思われる椅子がある一際大きな部屋の玉座の間に案内されて待つと……。
「待たせたな、客人よ……」
静かな声が玉座の間に響くと、ヴァンガルドさんと一緒にやってきたのは重々しい豪華な服を着た赤い竜人だった。
あれがドラゴンエンパイアを治める皇帝……竜帝。
「久しいな、竜帝殿」
「九尾の娘か……百年ぶり、と言ったところか?」
千聖さんは竜帝を相手に臆する事なく話しかけた。
「懐かしいなぁ、戦地で互いに生死を賭けた戦いを思い出すが、いかんせん、歳をとって記憶が薄れていく」
「ふっ……あの時の小娘も今は一児の母という事か?」
「そういうお主も今では一児の父親ではないか。お互い、歳をとったという事だな」
「違い無い……ふははははっ!」
竜帝と楽しそうに話しをする千聖さん……話しから察するに、二人は百年前の戦争(?)で戦ったらしい。
「さて……そこにいるのはお前の娘で、隣にいるのが人間か……」
竜帝は千歳の隣にいる俺を見る。
「人間、名を申してみよ」
「星宮天音……天に音と呼んで天音と申します、竜帝様」
「天音か……ヴァンガルドが言っていたが、癒しの術を使えるのだな?」
「はい……」
「その力で娘を救えるのか?」
「分かりません……ですが」
「む?」
「セシリア姫を助けられる可能性があるなら、俺は……それに賭けたいです」
俺の治癒術でユニコーン親子の生死が掛かっている……絶対に助けなければならない。
「僅かな可能性に賭けるか……その考えはワシが古の時代に対峙した人間と同じだな。良かろう、お前の信じる可能性を見せてみろ」
「はい……!」
「ついて来い。娘のいるところへ案内する」
竜帝様は直々に呪いで苦しんでいるセシリア姫の所へ案内する。
そこは城の背後にある深い森で、ヴァンガルドさん曰く、ドラゴンエンパイアの聖域と呼ばれる場所だった。
奥に進むと小さな湖があり、そこに数人の竜人の魔法使いが大きなベッドに横たわっているドレス姿の少女を囲って呪文を唱えていた。
その少女をヴァイスが心配そうに見つめ、俺たちが来ると少女から離れて跪く。
「セシリア姫……?」
「ああ。わしの娘……セシリア・D・ペンドラゴンだ」
ベッドに横たわっている少女は他の竜人に比べて竜の要素があまりなく、正直に言うと見た目はほぼ人間に近かった。
「竜帝、傷を見ても?」
「構わぬ……」
千聖さんはセシリア姫に近づき、胸元を少しはだけさせると、心臓の近い胸元に紫色の傷が刻まれていた。
「こいつか……呪いの元凶は」
「そうだ。呪いはこの国の魔法使いでも解かず、今は魔法使い達に呪いの進行を抑えてもらっているが、もう時間は残っていない」
「こいつを消すのは正直骨がいるな……天音、お前ならどうする?」
千聖さんに問われ、その答えはすぐに頭の中に閃いていた。
「……その呪いは見たところ、闇の力です。ならば、闇を消し去る力はただ一つ……」
龍星神を取り出し、鞘から抜いて天に掲げる。
闇を消し去る力……それは!
「龍星神、光龍招来!!!」
龍星神から眩い白い光が放たれると、刀身から聖なる光を宿した白い龍が現れる。
そして、白い龍が俺の中に入ると髪が白くなり、水龍と同じく体が女体化し、服装が学ランから白い一枚布のドレスを身に纏う。
「光の龍……!?」
「そう、闇を祓う聖なる光の龍だよ」
「って……また女体化している!?しかもスタイル良いし!!」
「ツッコムところはそこ?まあ、それより……」
光龍モードになった俺はセシリア姫の眠るベッドに近づき、龍星神を地面に突き刺す。
「これより、セシリア姫の呪いの浄化を行います。神魔流……光龍陣!!」
地面に突き刺した龍星神から眩い光が放たれ、
「何これ……空気が美味しいし、綺麗になってる……?」
「驚いたな、空間を浄化したのか……」
「これがあの人間の力か……」
「竜帝様、まだ驚くのは早いです」
「光の龍の浄化の力に、あれでセシリア様を……」
みんなが驚き、見守る中……俺は精神を集中させて眠っているセシリア姫を見下ろす。
待ってて、今……その呪いから解放してあげるから。
右手に光の力を集める。
「聖なる光よ、癒しの光となりて邪悪なる呪いを打ち消せ。神魔流、光龍聖華!!!」
右手を呪いの傷に触れさせ、水が蒸発するような音を鳴らし、煙を上げながら浄化されていく。
それと同時に治癒術を使って呪いで失いつつあるセシリア姫の生命力を元に戻していく。
よし……このまま行けば……んっ!?
浄化と治癒をしていく中で違和感のような物を感じた。
まるで、生き物の鼓動を感じるような……。
『……クケケケケケッ!!』
その時、不気味な声がセシリア姫から聞こえてきた。
否、正確にはセシリア姫に刻まれた呪いの傷からだった。
すると、傷から膨大な闇の力が空中へ逃げるように飛び出した。
『まさか闇の力を浄化する者がいるとは……これは敵わぬな』
意志を持つ闇は俺の光の力に臆して逃げ去ってしまった。
「逃がすか……!!」
しかし、セシリア姫を苦しませてそう簡単に逃すわけにはいかなかった。
闇が逃げて行く方へ走りながら地面に突き刺した龍星神を引き抜き、新たな龍を呼び出す。
「邪龍招来!!!」
今度は光龍とは真逆の存在……邪悪なる闇の力を秘めた漆黒の龍を呼びたした。
邪龍は走っている俺の体の中に入ると女体化した体が元の男の体に戻り、衣装は一枚布のドレスから黒い軽装な鎧に大きなローブを身に纏った。
「龍星神、形態変化・邪龍!」
龍星神を邪龍専用の武器に変化させる。
刀からさまよう霊を死後の世界へ誘う死神が使うような大鎌に変化させる。
そして、フワフワと風船のように空を飛び、闇の前に先回りする。
『ギャッ!?キサマナンダ!?』
「ただの旅人だよ……」
大鎌となった龍星神を振り回し、大きく振りかぶる。
「これで終わりだ。神魔流、邪龍滅牙」
振り回した大鎌の刃が闇を真っ二つに切り裂き、断末魔もあげる間も無く消えていく。
俺は切り裂いた闇の欠片が消える前に開いた左手で強く握りつぶした。
握りつぶしたその闇を体の中に取り込み、その『記憶』を読み取るとすぐに竜帝様とヴァルガンドさんのいる所へ戻った。
「竜帝様、ヴァルガンド騎士団長、すぐに城に竜騎士を集めてください」
「何……?」
「天音殿、何をするつもりだ?」
「この闇……セシリア姫に呪いをかけた犯人が分かりました」
敵の正体とその潜伏場所が分かり、おそらく今その犯人は呪いが消えたことで困惑しているはず……こう時は間を空けずに襲撃するのが一番。
セシリア姫を苦しめ、多くの竜達を心配させた報いを受けさせる。
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次回で妖魔国に戻って、ユニコーン達の処遇も決まってきます。




