第13話 水と火の乱舞
今回は久々のバトル回です。
天音の能力は結構チートになりますね(笑)
「竜帝騎士団……千歳、強いのか?」
「うん……妖魔国から海を越えた竜の帝国……ドラゴンエンパイアに住む屈強な竜たちで構成された騎士団だよ」
そんな竜の騎士団がどうして妖魔国に?
千歳は尻尾の先の刀を消し、俺の前に出て静かな態度で軽く頭を下げて名乗る。
「私は、妖魔国・妖魔四天王が一人、久坂千聖の娘……久坂千歳です。何故竜帝騎士団がこの地に?」
妖魔四天王……?
名前から察するに千聖さんはこの妖魔国でも指折りの実力者か何かなのか、竜帝騎士団の竜達が驚いていた。
そんな中、一体の竜が前に出て来て兜を外した。
その竜は他の騎士と比べて纏う気がとても強く並外れた実力者じゃないことは一目瞭然だった。
「なるほど……あなたがあの有名な妖狐、久坂千聖の一人娘でしたか。私は竜帝騎士団、陸軍一番隊を指揮する隊長のヴァイス・スカーレット。単刀直入に言います、そのユニコーンをこちらに渡してほしい」
ヴァイスは
「理由をお聞かせくださいますか?」
「我がドラゴン・エンパイアの姫……セシリア様の為にユニコーンが必要なのだ」
「セシリア姫が?」
「セシリア様は何者かの呪いにかかり、決して癒えない傷を負った……どんな傷も癒せるユニコーンの角が必要なのだ」
「ユニコーンの角……」
前に本で見たことあるが、ユニコーンの角はどんな傷も癒せる万能薬になれる。
その昔、清き乙女にユニコーンを懐かせてその間に捕まえて角を切り取ったと言われていたな。
呪いの傷か……それなら。
「その姫様は今何処にいる?」
「貴様は誰だ?」
「星宮天音……千歳に召喚された人間だ」
「人間、だと!?」
俺を人間と知ると、竜騎士達は酷く驚いたのかザワザワと騒ぎ出す。
しかしそんなことを気にせず俺の考えを伝える。
「俺ならその姫様の呪いと傷を癒せるかもしれない。だから、このユニコーンを狙うのはやめろ」
俺の治癒術と龍星神に眠る力を使えばその姫様を救えるかもしれない。
そうすればユニコーンは犠牲にならなくて済む、そう思ったのだが……。
「ダメだ。人間は信用出来ない」
「何……?」
竜騎士のヴァイスは俺を信用せずに首を左右に振った。
「人間は我々竜の古からの敵だ。それに……邪な心に染まりやすい者の力など当てにはできん」
「そんな事はない!天音は強く優しい心を持って……」
「いいんだ千歳」
俺を庇おうとする千歳を止め、龍星神を鞘から抜いた。
「俺は人間界で色々な人間を見てきたけど、こういう奴らに話は通じない。大切な国の姫様を救いたい気持ちがあるなら尚更だ」
竜帝騎士団の奴らは決して悪い奴らじゃない。
国から任された任務を遂行する為、そして……国の宝とも言える大切な姫様を救う為に動いている。
でも、だからと言ってここで引く訳にはいかない。
神魔流剣士は……己の守りたい存在を守る為にその力を振るう。
今俺はこのユニコーンの親子を守りたい。
「だから……力尽くで叩き潰し、無理やり分からせるだけだ!!」
龍星神から再び水龍が現れ、俺の目が黒色から水色に変化する。
そして、水龍の力を宿した俺にとって最適な武器を用意する。
「龍星神、形態変化・水龍!」
天に掲げた龍星神に水龍が纏い、刀からその形が大きく形態が変化する。
刀身が短くなって三俣に分かれ、柄がとても長くなり、刀から長物の武器である水色の槍へと姿を変えた。
「龍星神が槍に……?」
「変化した属性によって龍星神は武器の形態を変えるんだ。水は槍で、他にも色々あるけど……それは後で説明する。千歳、それよりもユニコーンの親子を頼む」
槍となった龍星神を構え、竜騎士たちを睨みつける。
「ユニコーンが欲しければ俺を倒してからにしろ。ただし、お前たち全員が倒れたらユニコーンは諦めろ」
「人間一人で我ら竜帝騎士団を相手にすると……?余程の自信家か、大馬鹿者のどちらかだな」
「試してみればいい……神魔流剣士、星宮天音。参る!」
龍星神を地面に突き立てた次の瞬間、あたり一面が湖のような大雨が降った後のような大きな水のフィールドが発生した。
「神魔流、水龍陣。さあ……行くぜ!」
水の上に立ち、走るのではなくスケートのように滑りながら動く。
「竜帝騎士団!あの人間に我らの力を見せつけろ!!」
「「「オーッ!!」」」
竜帝騎士団の竜騎士達も本気かどうか分からないけど、剣などの武器を構えて俺に突撃する。
空いた手で指揮するように水を操り、宙に浮かせてたくさんの水球を作り出す。
「水龍連弾!」
水球を弾丸のように放ち、半分以上の竜騎士は避けたが、避けきれなかった竜騎士は水球をまともに喰らいよろけてしまう。
よろけたその隙を狙い、水の上をスピードスケートのように一気に走り、水球を左手に集める。
「水龍烈破!」
掌底を腹に打ち込む直前に水球を解き放ち、鎧を撃ち抜いて気絶させる。
まず一人、次だ!
龍星神の刃を水につけて三日月を描くように振るい、三日月型の水の刃を無数に作り出して放つ。
「水龍裂斬!」
三日月の水刃を俺を中心に花吹雪のように放ち、竜騎士の鎧を傷付けてヒビを入れる。
ここで一気に叩いて敵の数を減らす!
「臆するな!一斉にドラゴンブレスを放て!」
ヴァイスはそう指示を出すと竜騎士全員が息を吸い込み、力を込めて吐き出すと口から炎が吹き出た。
そうか、これが炎を始めとする属性の力を秘めた竜の息吹……ドラゴンブレスか。
だが、この技は……この『奥義』はドラゴンブレスを凌駕する!
「神魔流奥義!!」
龍星神から水龍が現れ、水のフィールドから水を巻き上げて竜巻を作り、水球と水刃を大量に生み出す。
「水龍繚乱!!!」
龍星神を勢いよく真下の水のフィールドへ投げ飛ばして刃が突き刺さった瞬間、水のフィールドから大波小波が発生した。
そして、水球と水刃と大波小波が辺りを包み込んだ……。
☆
天音が竜帝騎士団の竜騎士を相手に最初から全力で技を、そして奥義を繰り出した後に私の目に映ったのは……。
「な……何これぇえええええっ!?」
森が大雨が降った後のように水びだしになり、竜騎士達が全員ぐったりしたように倒れていた。
「何これ!?何なのこれ!?これってもはや自然災害レベルじゃない!?」
私とユニコーンの親子はお母さんから教えてもらった結界術でシールドを張り、難を逃れたがもし結界術が遅れたら私たちも水に流されて倒れていたかもしれない。
「もう……天音!!!」
私は槍となった龍星神を回収している天音に向かって怒鳴りつけた。
「あー、ごめん。ちょっと本気を出しちゃった」
「ちょっとどころじゃないわよ!危うく私たちも流されるところだったんだからね!」
「もし流されそうになったら水を操ってなんとかしてたよ。でも千歳がやってくれたから安心して水龍を放てたんだ」
「はぁ……天音ったら調子がいいんだから。あなた達、大丈夫?」
背後にいたユニコーンの親子に目線を向けるとコクコクと小さく頷いていた。
ひとまず無事で安心したけど、天音はまだ警戒を怠らずに鋭い瞳をしていた。
「と言っても、まだ倒しきれてないんだよな……」
「え……?」
天音の視線の先には小さな炎の半球体があり、その中から無傷のヴァイスさんが現れた。
「水龍繚乱を喰らっても倒れないか……」
炎の力で私と同じようにバリアを張ったみたいで天音の奥義を防ぎきったらしい。
「貴様……本当に人間なのか?その力……魔法使いではないのか?」
ヴァイスさんは天音の実力に驚いて魔法使いではないかと疑っている。
「残念ながら俺は魔法使いじゃない。魔法の勉強とかしたこと無いからね」
でも……神魔流ってただの武術の流派じゃ無いよね。
剣術と体術以外に忍術とか平気で使ってるし、その龍星神で水属性の力を得て女体化までしてるし……。
「水龍じゃ勝てないか……それなら!」
龍星神を振るうと槍から元の刀の姿となり、刀身をもう一度指で撫でた。
「龍星神、火龍招来!」
「えっ!?」
龍星神の刀身が赤くなり、炎が噴き出して中から火の龍が現れた。
その身から発せられる熱で濡れたあたり一面の水を一気に蒸発させ、天音の体の中に入った。
すると、天音の髪と目が炎のように真っ赤に輝き、水色のドレスの代わりに軽装の赤い鎧と初めて龍星神を抜いた時に現れた赤いコートが身に纏われた。
そして、水龍が宿ったことで女体化していた体は元の引き締まった男の体となっていた。
「龍星神、形態変化・火龍!」
今度は龍星神が炎に包まれ、その形状が先ほどの槍とは全くの別物で巨大な片刃の大剣となった。
「水と火……?貴様、複数の属性を操れるのか!?」
「まぁね……一応『六つ』の属性を操れるぜ」
む、六つ!?それじゃあ天音は水と火の他にまだ四つの属性を操れるの!?
「さあ……お喋りはここまでだ火龍の力、見せてやるぜ!」
大剣となった龍星神を肩に担ぎ、天音は走り出した。
水龍の時とは違い、水の上を滑走することはできないけどその代わりに履いている靴……ブーツの底から火が出てきて、その爆発の衝撃で天音のスピードを加速させた。
そして、そのスピードで天音は一気にヴァイスさんの間合いに入った。
「神魔流、火龍裂刃!!」
大剣を振り下ろし、ヴァイスさんはそれを剣で受け止めずに体を捻りながら回避する。
振り下ろされた大剣が地面に激突した瞬間、爆炎と共に地面が大きく抉られた。
あれをまともに喰らったら怪我では済まない。
「中々の剣技……だが俺も負けられん!フレイムストーム!」
ヴァイスさんの反撃で捻りながらそのまま体を回転させて振り下ろした剣から炎の竜巻が現れ、天音を呑み込んだ。
「天音!?」
「……神魔流、火龍百華!!」
炎の竜巻が爆散し、代わりに火の花びらが大量に散っていった。
「今の攻撃を打ち消すとは……」
「火龍百華は火の花を作り出して相手の技を相殺させる技だ」
「底が知れないな……本当に人間かどうか疑いたくなる」
「俺は、人間だ……」
ここまでの戦いを見せた天音にヴァイスさんは本当に人間なのかまた疑うが、天音はすぐにそれを否定した。
「親や家族を知らず、同じ場所には留まらずに当てのない旅をして来た、人間としてはかなり変な奴だが……それでも、俺の守りたいものを守る為に戦う……人としての魂を持っている」
人としての魂……?
私は天音と出会うまで人間には会ったことはなかった。
お母さんは昔、人間界にいたらしいから飽きるほど見たことあるって言ってたから人間の聞いたけど……正直な話、人間はよく分からない生き物だった。
弱いんだけど心の底は強い、異形に比べるととても弱い存在だけど侮れない……そう言ってた。
「そして、俺に人としての道標を教えてくれた師匠から受け継いだ神魔の名にかけて、このユニコーンの親子を守る。竜の騎士よ……人間の……守る者の力を見せてやる!」
守る者の力……誰かを守る為に戦う時、それが人間の強い力を発揮するのか……私は天音の姿を焼き付けるように見つめた。
「私……いや、俺とてここで負けるわけにはいかない。姫を……セシリアを助ける為にも負けるわけにはいかないのだ!!!」
ヴァイスさんにとってセシリア姫は単なる国のお姫様だけじゃなくて個人的に大切な人みたいだった。
体から炎が吹き荒れ、その炎を剣に宿して掲げた。
「喰らえ、我が竜帝騎士団最大の奥義!!ドラゴニック・フレイム!!!」
振り下ろした剣から炎が現れ、巨大な炎の竜を形成して天音に襲いかかる。
対する天音は龍星神を掲げると刀身から火龍が現れ、巨大な火の刃となって大剣の刀身と重なり、巨大な炎の大剣と化した。
「受けて立つ……神魔流奥義!!火龍繚乱!!!」
巨大な火の大剣を振り下ろし、炎の竜と激突しそうになった……その時だった。
「「それまで!!!」」
突然降り立った二つの光が火の大剣と炎の竜を打ち消した。
「「っ!!??」」
「えっ……?」
そして、光の中から現れたのは見覚えのある九本の尻尾とドラゴンエンパイアの紋章が刻まれたマントを羽織った竜騎士が現れた。
「ふっ……これほどの力とは……流石は千聖殿の見込んだ人間の少年だ」
「それほどでも。そちらの弟君も将来有望な騎士ではないか」
「あ、兄上!?」
「お母さん!?」
「千聖さん、その人は一体……」
突然現れたお母さんの隣にいた竜騎士はまさか……!?
「ドラゴンエンパイアの歴代最高にして、最強の竜騎士……ヴァルガンド・スカーレット騎士団長!?」
スカーレットってことは……まさかヴァイスさんと騎士団長さんは兄弟!?
騎士団長に小隊の隊長……スカーレット家ってかなりの名家なのかな?
その事実に驚いているとお母さんは天音に近づいて今の姿をじっくりと見る。
「しかし、天音……なんだその姿は?」
「これは……師匠が俺に埋め込んだ力なんです……」
「ふーん……まあ後でじっくり話を聞くとして、千歳、天音。一緒に来な。遠出をするよ」
「遠出って、何処に?」
「妖魔国の外……竜の帝国・ドラゴンエンパイアにさ」
「「…………えぇえええええーーっ!!!???」」
お母さんの爆弾発言に私と天音は耳を疑って叫んだ。
.
水は女、火は男の体で戦います。
他の属性も体の変化や服装が変わるので楽しみにしてください。




