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「あ、黒猫だ!」
満月から目をそらし、歩こうとした先の街灯の下に、黒猫がいた。
黒猫の目はこちらを見つめていた。
「かわいいー!」
そう言って近寄ると、黒猫は逃げずに、フイッと顔をそむけゆったりと歩き始めた。
この黒猫、なぜかデジャブ感があるな・・・。
「一緒に帰ってるみたい」
黒猫は私たちの歩調に合わせて進んで行ってるように思える。
角を曲がると、見慣れたいつもの家並みが見えた。隣の洋館を過ぎれば私の家。その向かいが桐の家だ。
黒猫は洋館の塀に軽やかに飛び移った。
「そこがオウチなの?じゃあね、黒猫ちゃん」
黒猫は静かに塀の上に座り、こちらを見つめている。
何だか睨んでいるようにも見える。
猫の表情などわからないけれど、なぜかさげすまれているように感じる・・・
いつか見た憎らしい少年の表情と重なる・・・
誰・・・?
あの少年、名前は・・・・・
「ルー?」
言葉が先に出た。
するすると、頭の中での記憶が呼び起される。
この洋館は、毎日見ていたはずなのに、すっかり忘れていた。
まるで誰かが私の頭の中の記憶を消したかのように・・・。
美しすぎる魔法使い、呪いにかけられた、そう、呪い・・・。
そこで私は部屋の中に置いている、あの鍵を思い出した。
――――リズが呼んでいる。
私は桐の存在を忘れて、自分の家に駆けこんだ。
階段を上り、部屋に入り、どこだっけ・・・
「そのタンスの中だ」




