8
その日、私は幼馴染の桐と二人、部活終わりに一緒に帰っていた。
小学校の頃から頭の悪さは変わっていないけれど、特技と呼べるものができた。
私は桐の誘いで空手をやるようになった。日々の鍛錬と桐の特別な個人レッスンのおかげでまあまあ強くなった。
「あー、白飯食べたいなー!」
「お前いつも食うことばっかだな」
隣の桐が苦笑する。
「桐はお腹空いてないの!?」
「んー、まあ空いてるっちゃ空いてる」
「男なのに小食!ありえない!」
「なんだその偏見は」
桐は男にしては背が低めで痩せている。だけど空手をやってるだけあって実はマッチョだ。桐はハーフだから色素が薄めで一見優男なのに、空手をやってるというギャップでモテる。しかも頭がいいからすごくモテる。ただのモテ男だ。
対する私は背は女子の中で平均くらい。容姿は大勢の人がいれば埋もれるくらい。
告白なんかされたことはない。ぶっちゃけ初恋も未経験だ。
一つとりえがあるとすればその現実を嘆くことがない楽観的な性格くらいだ。
「でもモテてはみたいかなー」
「急にどうした?」
考えていたことが口に出たようで、桐が怪訝そうな顔をしてこっちを見る。
「いや、桐みたいにモテモテになってみたい!あ、でも一人の人にモテたいかも。
あんまり大勢だと大変そうだし」
「・・・微妙に現実的なのがお前らしいよ」
桐を見てると本当に大変そうだ。最初は純粋に恋する乙女も次第に変質的なストーカーになっていくこともある。身近で見ていても恐怖体験だ。私はなぜかやっかまれることがない。眼中にないのか。少し切ないけれど、願ったり叶ったりだ。
「まあ、お前はある意味で一人にモテてるかもな」
桐がボソッと何かつぶやいたけれど、それは私の耳には届かなかった。
「今日は満月だねー!すごい綺麗!」
夜空に浮かぶ満月が今日はなぜか今まで見たどんな満月よりも綺麗に見えた。




