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人が住んでいたんだ!
その声に背中に冷や汗が流れるのを感じた。
今の声は猫に対する呼びかけだったんだろうか。
しかし、私の直観は違う、私に対するモノだ、と告げた。
その場で足がすくんでしまった。
すると、廊下がベルトコンベアのように、その部屋へと私を運んで行った。
「へっ!?どうして!?」
信じられない出来事を前に、逆らうこともできず、私は室内へと運ばれた。
そこは書斎のようだった。
左右には壁一面が本棚になっていて、ぎっしり本が詰まっている。
そして、真ん中の机の向こう側のイスにはこちらを背にして人が座っていた。
キイ・・・
イスの回転する音と共に、その人がこちらを向いて立ち上がった。
「やあ、お嬢さん。この猫をお探しかい?」
その人の腕の中にはあの黒猫がいた。
でも、もう黒猫よりも、その人に目を奪われた。
艶やかでウェーブがかった黒髪、髪の毛に半分顔が覆われているものの、はっきりとわかるその美貌。日本人ではないのか、アイスブルーの瞳をしていて、切れ長の
大きな感情の読めない目が私を見つめていた。高くしゅっとした鼻の下の薄い唇は弧を描いている。こんな美しい人を今までに見たことがなかった。
まるでおとぎ話から出てきたような・・・
王子様?いや、王子様ではない。黒いマントを身に纏ったこのミステリアスな雰囲気は・・・
「魔法使い?」
尋ねると、その人は笑みを深め、こう言った。
「ご名答」




