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私の家の隣には人の住んでいない荒れ果てた洋館がある。
でも、その中に実は魔法使いが住んでいると知ったのは小学生の頃だった。
小学生の頃、いや、今でも変わらず、私はいわゆる劣等生だった。
勉強は出来ないし、宿題もさぼる、忘れ物も多い、運動もダメ、容姿も平凡。
先生からは疎ましく思われていたし、優秀な幼馴染には嫌われていたし、同級生も白い目で見てくる。
同じタイプの子も最近は勉強を頑張って成績が上がり始めた。
私は追いつめられていた。
家では母から小言を言われ、居場所のなくなった私は隣の廃墟に目を付けた。
家から帰ると漫画やお菓子を持って、隣の家に忍び込み、裏庭のボロボロのテーブルとイスを勝手に借りて時間をつぶすようになった。
ある日、いつものように裏庭で一人遊びをしていると、一匹の黒猫がやってきた。
「猫だ!」
ビビりな私は普段動物に近寄る勇気がなかったが、その日はなぜかその黒猫に近寄りたくなった。
ゆったりと上品に歩く黒猫を追って、つい邸の中に入ってしまった。
古ぼけたドアを開け、足を踏み入れると、邸の中は外の古びた外観からは想像もつかないほど、綺麗だった。
赤いじゅうたんの敷かれた階段に、豪華なシャンデリア。
少しも埃をかぶった様子がない。
私はお城の中にいるような気持ちになって、しばし見事な邸内に見とれていた。
「あ!猫いない!」
頭の悪さからか、不法侵入という文字は少しも頭になく、私は誘われるかのように階段を上り奥へと進んでいった。
そしてこれまたピカピカな廊下を進むと、あの黒猫がドアの開いた部屋へと入るのが見えた。
そこへ来て初めて誰か人が住んでいるのではないかという疑問が頭をよぎった。
急に怖くなり、走って外へ出ようかと身を翻した瞬間、
「おいで」
今までに聞いたことのないような美しい男性の声がした。




