魔法の鏡
次の日も、その次の日も、次の週になっても。
夏芽は職場で夢うつつな状態でいながらも、仕事をしっかりとこなし、楽しい時間を過ごした。
それだけではない。
これまで然程関わる事が無かった同僚達とも雑談ができるようになり、自分の生活は見違えるように明るくなっていった。
上司に叱られた記憶も無い。むしろ、褒められた気もしていた。
それも全て、毎朝覗くのが習慣となったコンパクトミラーを手にしてからだ。
「もしかしてこの鏡、魔法の鏡なのかな?」
夏芽は家のソファーで寝転びながら、金色のコンパクトを眺めた。
これは今までの自分を変え、幸せにしてくれる、魔法の鏡なのではないだろうか。
嫌な現実は全て忘れる事ができ、夢心地な気分にしてくれる素晴らしい鏡。
夏芽はコンパクトを贈ってくれた見知らぬ誰かに、心の中で礼を言った。
「ふわぁ……」
夏芽は大きなあくびを一つする。
最近やけに夢の中にいるような、眠っているような気がしていた。
しかし気にすることではないと思い、夏芽はいつの間に綺麗に片づけられたテーブルの上にコンパクトを置く。
そしてどこかおぼつかない足取りで寝室へと向かい、きちんと折りたたまれた毛布の中にくるまった。