ナツキ5
ちょっと長め
ナツキ5
「なん、だったの……? あれ……?」
メル・ラウドの大通りの一角。ギルド本部が集中しているこの場所で、私はぽつりつぶやいた。
まるで狐につままれたよう……って、そんなわけないじゃない! ここはバーチャルよ? リアルならまだしも、0と1で構成された、ロジックが唯一の法律であり規律である世界。そんな世界で、そのはずの世界で――
「……わけわからないわ、もう」
楽に終わる依頼じゃないとは思っていたけど……それにしても、いくらなんでもこれはないじゃない?
「やっぱり、ないか……」
もう一度、ギルドクイーンズナイトで検索をかけてみる。結果は該当なし。――そんなギルドは存在しない、と。
「無茶しすぎよ、エイン君……」
いくらその存在を隠すためとはいえ、その存在そのものを消すというのは明らかにやりすぎだ。人の記憶に手を出せない以上、いくら記録を消してもいつかはその異常に誰かが気付く。それが小さな波紋となって消えるだけならいいけど、その波紋が次第に大きな波紋となっていってはもう終わりだ。
そうなってしまえば後は芋づる式。WWSのエージェントも無能ではない。小さな波紋を無理やり巨大な波紋に押し上げ、そこからそこに隠れているものを見つけ出すなんてお手の物だろう。
――つまり、時間制限が設けられた、ということね。
「……なるほど、そういうこと」
ぴくっ、と口の端が動いてしまうのを、私はコントロールすることが出来なかった。
久しぶりだ、私のテリトリーでここまでコケにされたのは。私が世界最高のハッカーだと思い上がっているわけではない。しかし、それなりの上位に食い込むあたりにはいるという自負はある。
その私に対し、事もあろうか私のテリトリーで勝負を仕掛け、見事私を騙しきった。
何のことはない。私は最初からその違和感を感じていた。チート独特のにおい。あれは確かにオブジェクトに対するチートだったけど、そのあからさま過ぎる強烈な匂いは、私の勘を狂わした。よくよく考えてみればおかしいかったじゃない。あんなに堂々とチート品を装飾に使っていれば、いくらなんでもすぐに運営側は気付く。しかし、向こうはその危険を冒してまで私にその存在をアピールしていた。それは、『私には気付かせたくなかったもの』がそこにあったからに他ならない。
だけど、いくら私でもソレで騙されるほど間抜けじゃないつもりだ。そのために、エイン君は私にクイーンを見せた。まったくの予想外のもの――クイーンの電子体を見ることによって一瞬の思考停止に陥った私は、もう私自身がなんて言っていいかわからないほどのスキだらけになっていただろう。そこをすかさずハック。私をギルド本部から締め出した、と。たぶん、それがギルド内であったことの大まかな概要なのだと思う。
つまり、クイーンは囮で、そのさらに奥にはもっととんでもないものが隠されている……そう考えてもつじつまはあってくる。……一応、穴はないつもりだけど……むぅ、推理は私の専門じゃないんだけどなぁ……。
とはいえ、さすがに用意周到にすぎる気もするのよね。
だって私よ? この私の電子体に直接ハックを仕掛けてきやがったのよ?
そもそも、電子体へのハッキングっていうのは、直接脳みそをいじるに等しい技術だ。つまりは不可能に近い、神業の領域。
確かにこのゲーム内でチート行為を堂々とやれるだけの技術を持っているのなら、できないことは無いと思うけれど……でも、その対象は私なのだ。
私のこの体は、外見上はシンドルビック・オンラインの外装データを使ってはいるけれど、依頼の内容が内容だ。最悪意識不明だけは免れるように、ばれない程度ではあるけれど何重もの防壁を作ってある。もちろん、その中には対ハック用の防壁もあるわけだ。
自慢じゃないけれど、プログラミング技術だけなら私は師匠並だ。つまりは、世界でも最高峰の技術を持っているのだ。
その私の防壁だ、もちろん早々簡単に破れるものじゃない。師匠並の凄腕でも、即興では不可能だ。つまりは、事前準備が必要で……
「そうなると、私レベルが現れてもいいよう、あらかじめ準備していたって事よね……」
やはり、このギルドには何かがある。
あいにくと、私にはそれがなんなのかはわからないけれど……でも、私の後ろにも、それなりに頼れる名探偵がいるのだ。
「あ……」
そこで、ふと。
私の脳裏に、ある単語が浮かんできた。
「……イベント?」
不意によぎったその考えに、私は引きつった声を上げた。だってそうじゃない? イベントって何を考えてるのよ私。
ゲーム脳ここに極まりって奴ね。……はぁ。
「まあ、いいでしょ。私は推理苦手だしね。名探偵じゃないし。名推理は名探偵がするものって相場が決まっているじゃない?」
私はそんなことを言いながらさっさと如月君たちとの待ち合わせ場所に向かった。
きっと、このときも私はとんでもなくパニクっていたのだろう。だから、気付かなかった。
私のあとをつける、小さなふたつの影に――。
○
「やっと来たわね」
「ワリィ、ちぃっと事務仕事が長引いちまってな。リアルでもネットでも書類仕事やらなくちゃならねぇとは、ちぃっとばかし気が滅入る」
「好きでやっているくせに」
「ま、そうでもねぇんだがな」
人ごみの中から頭一つ飛び出して現れたのは、真紅の鬼――マツカサだ。その傍らには珍しく如月君の姿がない。
「如月君は?」
「今日は太陰円卓の定例会議の日でな。そっちだ。今日は来れん」
「そ」
が、がっかりなんてしていないんだからね。
「……ま、俺一人じゃがっかりかもしれんがね。今日も気張っていこうや」
「だから、別にがっかりなんてしていないわよ」
にやにやと笑うマツカサをにらみつけ、私はその巨体にボディーブローをくれてやる。がすっ、と鉄板を殴ったような音が響き、案の定、ダメージを食らったのは私だった。
「……納得いかないわ」
「単にステータス差だろうが。いくら街内じゃPKできんからとはいえ、ダメージは通るんだからよ」
「くそぅ。いいわよ、今日のSPで攻撃力を重視して上げてやるんだから。マツカサに攻撃が通るぐらい」
「無理だっつーの。俺にダメージ通るぐらい攻撃上げるにゃ、向こう一週間はかかんぜ? 無駄なことしてるぐらいなら、魔力と知能をさっさと上げろっつーの」
わかってるわよそのぐらい。
ちなみにアヴリュスの魔眼のスキルレベルを上げるためには、一定以上の知力と魔力が必要になってくる。つまりは私の完成形も、それなりに形が見えてきたってことなのよねぇ。
まあ、学者を選んだ時点で、近接系はあんまり意識していないんだけど。
「ほれ、そろそろ行くか。今日は『エフレキィータの森』にまで足を伸ばすぞ。エンカウント率三倍の今日なら、あそこは狩りに最適だからよ」
私がひそかな復讐を誓っていると、マツカサが今日の目的地を告げてきた。
エフレキィータの森。私たちが居る大陸、エリフィス大陸の南方に広がる巨大な森林――否、ジャングルだ。じめじめとした空気は倒すのが厄介な変わりにSPを多めに落とす闇属性のモンスターや、雑魚を召還したり分身したりする特殊能力を持つ植物系のモンスターが多く出現する。確かに両方とも倒すのが厄介だということに目を向けなければ、今の私にとって絶好の狩り相手だ。
だけど、あの森は――
「ほんとに行く気? 私、エルフ種よ? 私、ダークエルフと喧嘩したくないんだけど」
そう、ソレが問題なのよねぇ。
このゲームには一応バックストーリーってものがあって、それぞれの種族は敵対関係にあったり断絶の関係にあったりするものがある。それの代表格といえるものがダークエルフとエルフで、どちらもエルフ種に属する種族なんだけど、その仲はとても悪い。バックストーリーの中では、大昔その総数が一割以下になるまでの壮絶な大戦争まで繰り広げたという話まであるほどに。
もちろん、そんなのはお話の中だけなのだけど、問題はプレイヤーの中にバックストーリーのように種族間の軋轢を楽しんでいるプレイヤーがいるってこと。そんなプレイヤーが集まり、ダークエルフだけのギルドを作った。そのギルド名が『エフレキィータ』。エフレキィータの森の名を冠するそのギルドは、エフレキィータの森の奥にある遺跡にある安全エリアをギルド本部として、エフレキィータの森に侵入するエルフを攻撃してくるというのだ。
それが私が二の足を踏む理由。しかし、マツカサの答えはにやりとした笑いだった。
「俺がそんなこと考えてないと思ったか? ほれ、こいつを装備しろ」
そう言ってマツカサがトレードしてきたのは、『闇の証』という装飾系の装備品だった。その効力には『闇の抵抗力が増す』としか書いておらず、これが一体なんの役に立つのか私にはまったくわからない。
そんな私に、マツカサはからから笑う。
「……何よ」
「いや、何。……そいつはな、エフレキィータの森の奥にある遺跡のそのさらに奥でしか手に入らんアイテムでな? 市場にも殆ど出回っていねぇレアアイテムだ」
「何でそんなものをわざわざ私に装備させるのよ? エルフの私は闇属性の抵抗値は結構高いんだけど」
「わかってるよそんなこと。そいつの重要なところは、エフレキィータの森の奥にある遺跡でしか手に入らんってことだ。つまり、そいつを手に入れれんのはダークエルフのみってことになる。そいつぁな、ダークエルフの奴からトレードしてもらうしか手に入れる方法がないんだよ」
「へぇ」
マツカサの説明に、私は素直に関心の声を上げた。いや、まああの頭でっかちでわからずやというので有名なエフレキィータのダークエルフからトレードしてもらえるということ事態希少だからねぇ。
「ちぃっとばっかしエフレキィータには知り合いがいてな。そいつにトレードしてもらった。で、そいつを装備してるのは……」
そう言って、マツカサはにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「ダークエルフとトレードできる奴か、そいつが信頼している友人って事になる。つまり、ソレを装備してるというのはエフレキィータに認められた奴だってことになるのさ。昔、エフレキィータと月の館の間で、そういう取り決めをしてな。つまり、そいつはプレイヤーのエフレキィータの森への通行許可証っつうわけだ。奥の遺跡の探索許可証でもあるから、落とすなよ?」
「……えらくまあ、面白いことやってるわねぇ」
思わず笑みを浮かべると、マツカサも面白そうににやりと笑う。
「何、向こうもさすがにエルフ全てを締め出すっつーのは気が引けたらしくてな。この話を持ちかけたのはこっちからだが、快く契約してくれたよ」
マツカサの補足を聞きながら、私はすばやく闇の証を装備する。おお、元から高かった闇への対抗力が結構上がったわ。しかも魔力のステもアップ。この上昇率から見るに、一次職で装備できるアクセサリーの中ではトップクラスの装備品ね、これ。
「わ、結構あがるわね、これ」
「たりめーだ。わざわざ錬金して、最高レベルにまで上げてやったんだ。そんじゃそこらのアイテムとは格が違うぜ格が」
『錬金』っていうのは、同じアイテム同士や装飾品同士を合成してその効力を上げていくこと。いくつも合成すればどんどんそのアイテムの能力値は上がっていくらしい。まあ、10個が限界らしいんだけど。……へえ、そんなに合成してくれたんだ。レアアイテムらしいのに。
「アリガト」
「何、先行投資さ」
そう言って、マツカサは再度にやりと笑った。
「っていうか、何でグラサンつけてんだ?」
「……気分よ、気分」
……やっと気付いたのね、この馬鹿。何か目の色でレアスキル持ちとかばれるみたいだから、一応その対策のつもりなんだけどね。エイン君にはまったく効果なかったみたいだけどさー。
○
「どういうことだ?」
さっきの上機嫌とは打って変わったマツカサのドスのきいた声が私の耳朶を打った。私でも少し怖いぐらいだから、その対象になっているプレイヤーには相当の恐怖だろう。ご愁傷様と祈っておいてあげよう、一応。
「すいません……本当にすいません」
対して、マツカサの怒りの対称になっているプレイヤー……褐色の肌に、とがった耳。ダークエルフの強気そうな青年はそのが意見とは裏腹に恐怖で縮み上がっている。
「俺にもわからないんです。いきなり上からもう誰も通すなって言われて」
「だからったって、何の説明もされてない訳じゃねぇだろう?」
今、私たちが居るのはエフレキィータの森の唯一の入り口、その関所だ。そこにはエフレキィータのメンバーが常に監視員として立っており、闇の証を持つものしか通さないらしいんだけど……どういうわけか、私たちは闇の証を持っているにもかかわらずここで引き止められている。
怪訝そうな顔をする私たちに投げかけられた言葉は、ここからは入れません、という簡潔な言葉。だけど、それは月の館でも結構上のほうに居るマツカサにとっては聞き逃せない言葉だった。そこで、最初の言葉につながるわけ。
「そ、そんなこといわれても……」
門番らしきダークエルフの青年は本当に困ったようにせわしなく視線を移動させている。これが演技じゃなければ、彼は本当に何も知らないということなんだけど……。
「本当に何も知らんのか?」
「ほ、本当です! いきなり……!」
「そこまで、マツカサ。その子、本当に何も知らないわ。きっと」
見てられなくなった私が助け舟を出すと、ダークエルフの青年――ええと……名前はKURAUN、か――は私にすがるような視線を向けてきた。あらあら、私、エルフだって言うのにこれじゃ、もう演技の線はあまり考えなくてもよさそうね。
「……」
私の言葉を受けて、マツカサは腕を組んで唸った。その表情には疑問と不満がありありと浮かんでいる。正直、納得はしかねていなさそう。
「さて、どうしたモンかねぇ」
眉間に指を当てて、考え込むマツカサ。
「私のことは考えなくてもいいわよ」
「ああ、そりゃあ有難い。懸念の一つが消えた」
そういいながらもマツカサはにこりとも笑わない。まあ、ソレも無理はないだろう。月の館と契約していたギルドの突然の裏切り行為にかち合ってしまったのだ。たぶんマツカサは対処すればいいのか決めかねている。
「あ、あのっ……リーダーは絶対悪気があってこんなことをしてるわけじゃ……!」
そんなマツカサにKURAUNは必死に言い訳をするけど、あれだけパニクってちゃ、あまり意味はないだろうなぁ。現に、マツカサ無視してるし。あ、ため息ついた。で、にらみつけ。KURAUNはすくみあがった! ってなとこかしらね、あの様子は。
「はぁ……悪気なかったらこんなことぁしねぇだろ? あに考えてんだてめぇんとこのギルマスは? 月の館を堂々と敵に回すような真似しやがって」
「……あ」
そこで、私は何でマツカサがこんなに悩んでいるのか気がついた。こういう問題はさっさとギルドに帰って太陰円卓に知らせでもすればいい。そうすれば時間はかかるけどギルド同士の上層部との話し合いで一応のカタはつく。だけどそれは、下手をすれば月の館とエフレキィータとの全面戦争にまで発展しかねないという危険性を孕んでいるのだ。
ソレを考慮し、マツカサは悩んでいる。ここは引き下がり、素直に上層部で話し合うか、――または、自分だけでこの件を解決し、自分だけの胸のうちにしまうか。
後者にすれば、この件は公になることはない。下手をすれば全面戦争という危険性も殆どゼロに近くなる。だけど、それでネックになるのは私の存在だ。はっきり言って力量的に下を脱出し切れていない私を連れて行けば、何か合ったとき私が足手まといになりかねない。だからといって私を先に返してしまえば、ソレはそれで問題……ないじゃない?
「マツカサ、私先に帰ろうかしら?」
「……いや、いてくれ。何かあったときにゃお前の魔眼は頼りになる」
……あら。そういうこと。それで悩んでたんだ。ふーん。まあ、いいけど。
にべもないマツカサの返答に小さくため息をついて、私はアヴリュスの魔眼を発動させる。ここ数日でレベルアップした私の魔眼は、どうやらKURAUNの能力値を見ることぐらいまで出来るようになったらしい。……あれ?
「ねえ、マツカサ」
「あんだ?」
「アヴリュスの魔眼で、ステータスを見る時ってさ。見られない欄って、ただの空白になっているのよね」
「……ああ。俺はそう聞いてるが」
「……じゃあ、黒く塗りつぶされているのって――何?」
そう、ポツリとつぶやいた瞬間だった。
「やあやあ。なかなか珍しい顔を見ましたね」
エフレキィータの森の奥から、三人のプレイヤーが姿を現した。……うわ、アヴリュスの魔眼ですらぜんぜん見えないよ、これ。下手をすればマツカサよりも強いんじゃない? この三人。
そのうち、さっきの言葉を発した男が纏うのは豪奢な純白の西洋風の鎧と純白のマント。モロ成金趣味だけど、その能力値はとんでもなく高いことはアヴリュスの魔眼で見えないことから十分わかる。種族は人間種。ええと……属性は、雷、かな? 職業はきっと最終職だ。体格はマツカサよりも頭ふたつ分ぐらい小さい。とはいえ小柄ではなくてマツカサが大きすぎるだけで、まあ、百七十ぐらいはあるかな? 金髪に白い肌、甘いマスクと本当にネットキャラクターの典型的な容姿をしている。……まあ、私も人のことを言えないんだけど。
でも……あの右腕につけている腕輪って……あれって確か……。
「何でテメェがここにいるんだ、神無月。……今日の定例会議はどうした?」
如月君がつけていたのと同じもの――つまりは、月の館・太陰円卓のメンバーということになる。と、いうことは……雷の席、神無月ってこと?
「ふむ……そうすごまないでください、マツカサ君。君の眼光は心臓に悪い」
「俺が欲しい返答はそういうことじゃねぇ、神無月」
すご、私ですら縮み上がりそうなあのガン付けを、軽くいなしている。隣にいるダークエルフの女性も汗かいているぐらいなのに。
銀髪、長身、漆黒の瞳に黒い肌と典型的なダークエルフの長所を寄せ集めたようなその女性は、マツカサの視線に顔色すら変えていないけど、さすがに汗を流している。だけど、その実力は下手をするとマツカサ並みということは、この威圧感の中でもはっきりとわかる彼女の存在感から十分すぎるほど伝わってくる。
そしてこの中でもう一人、顔色を変えていないのが神無月の右隣にいる獣人だ。外見から一応虎と人との混血――『虎人』だということはわかるけど、それだけ。私のアヴリュスの魔眼じゃあ能力値の『の』すら見せてもらえない。一応見える範囲では、紋章から属性が森だってわかるぐらい……って、私と同じじゃない。
……あとは、まあ見てわかる通り男って所かしら。
その虎人はマツカサと神無月のやり取りをにやにやと見つめている。……余裕だなぁ。
「り、リーダー!」
と、その圧迫感に耐えられなくなったのか、KURAUNが沈黙を破った。その相手は――神無月やあの虎人じゃないのは確かだから、あのダークエルフということになる。あの女性がエフレキィータのリーダーなのね……って、この問題の当の本人じゃない!?
「……シィンと一緒にいるってぇこたぁ、この件もテメェの差し金か、神無月? あァ?」
あの女性はシィンというらしい。彼女は自分の部下の悲痛な叫びに視線すら向かわせず、じっと無表情でたたずんでいる。――いや、少しだけ表情が出ている。何か……悔しそうってところかしら?
「そうそう人のせいと決め付けるのは止めて欲しいですね、マツカサ。短絡思考なところは、君の短所ですよ?」
「神無月。もうテメェと問答するつもりはねぇ。あぁ、一つだけあった。テメェがこの件とかかわりがねぇって言うんなら、これにゃあ答えてくれや。――なんでそいつがここにいる。テメェといる。月の館のテメェといる。太陰円卓のテメェといる」
そう言って、ぎん、と――憎しみすら篭った目で、マツカサはその虎人をにらみつけた。
「ランドクリーツの大幹部――フィアティオとテメェが!?」
珍しく早く帰ってこれたので、晩ご飯を作る前に投稿。
ご意見、ご感想などいただければうれしいです。
次はソージ編の予定です。