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ソージ3



 ソージ3




「さあ! 冒険にいくわよ、ソージ!」


 賃貸HOMEに無理やり押し入り、騒々しく僕の腕を引っ張るのはついこの間共に死線をくぐり抜けた舞士、姫那だ。……嘘は言っていないよ、いちおー。


「何ぐずぐずしてるのよ!」


 僕をHOMEの外、大通りまで引っ張ってくると、姫那は腰に手を当てて僕をにらむ。

 いや、無理言うなよ。冒険にいくもいかないも僕の勝手だし、今はそんな気分じゃない。っていうかさ、外に行くとさ。


「あのさ……」


「うるさい。あんたがいないと――」


「遅かったな、ソージ君、姫那」


 さらに言い募ろうとする姫那が、ぴたりと止まった。その頬は上気し、すぐに居住まいを直して直立不動の体勢をとる。

 この傍若無人娘にこんな行動を取らせるのは一人しか僕は心当たりがない。

 現在、僕をウトゥ状態にさせている原因の一つ――


「さあ、今日も楽しく規則に忠実に冒険に出かけようか」


「はい! 皐月さん!」


 月の館・太陰円卓が風の席、皐月がそこに立っていた。



 ○



 回復アイテムが無くなりかけたので、メル・ラウドに帰還した僕達はとりあえずセーブ屋で今日手に入れたSPとスキルを保存する。こうしておかないと、もし何らかの不測の事態で死んでしまった場合、五分以内に誰かに蘇生してもらわない限り前回セーブした能力値に戻ってしまうのだ。


 少しばかりきついデスペナルティだけど、その緊張感がまたたまらないというプレイヤーは後を絶たない。かく言う僕も、その緊張感に魅せられた者の一人だ。



「はい、記録は終了したよ。次の人ー」


 事務仕事この上ない言葉を背中に受けながら、僕は凝りに凝った筋肉をほぐしていく。

 バーチャルの体は痛みこそ感じないものの、一定時間にこれを繰り返さないと疲労度がどんどん上がり、体力の減りが通常よりも上がってしまう。目安としては一時間に一回すれば影響はないようで、僕は余裕を持って五十分に一回はするようにしている。


「……っ、っと」


 最後にぐっと体を伸ばし、小さく息をつく。


「終わったようだね」


「ちっ、もう終わったの……?」


 そのタイミングを見計らったかのように、セーブ屋の脇にある喫茶店でお茶を飲んでいた皐月が声をかけてきた。一足先にセーブを終わらせていた姫那も一緒だ。というか、そんなににらむな。


 姫那のガン付けを受けながら、空いている席に座る。


「ごめん、遅くなった」


「気にしなくてもいい。初心者のうちは、小まめにセーブをしておかないと後で泣きを見るからね。まあ、慣れればそう苦労でもなくなるよ」


「苦労したことないくせに」


「はは、それなりに苦労はしているさ。祝福を持っているからといって、最初から強かったわけではないよ。むしろやっかみやら何やらで、PKによく狙われたものでね」


 昔経験した苦労を思い出したのか、皐月はくつくつと笑った。祝福持ちは祝福持ちで苦労しているということか。まあ、うらやましい苦労ではあるけれど。


「ポーション類はそろえてきたかい?」


「一応。姫那は?」


「当然。というか、あんたのがなくなったから戻ってきたんでしょ? いつも言っているじゃない、多めに買っときなさいって」


「……使用量が二倍になったから金の消費量も四倍になってるんだよ」


 そう。使用量が二倍になっているのだ。


 何のことはない。目の前の悪魔にたかられているだけだ。しかも、普段縁のなかった、他のポーションの二倍近い値段のエナジーポーションまで。

 おかげで余裕を見ていたお金も見る見るうちにそこをつきかけ、来月の賃貸HOMEの家賃を払ってしまえば殆ど無一文になってしまった。しばらく便利なアイテムには頼れない。泣きたい。マジで。


 すなわち姫那の言う「当然」とは、「当然このあたしがよういするわけないじゃん」という意味である。本当にどうしてやろうかこの女。


「つーかっ、僕だけならヒールだけで十分だったっていうのに、どーして君の分まで僕が払わなくちゃならないのかなっ!?」


「あらー、皐月さん、この男、皐月さんのことを邪魔だと言っていますよー?」


「ふむ。それは残念だね。今まで尽くしてきたのに、金がなくなったらポイとは。ううう」


「……あのね皐月。ふざけるの、やめてくれないかな」


 ホントこの人、微妙にノリがいいから困る。


 悪魔と堕天使。ふと、そんな言葉が脳裏をよぎった。

 うん。いい機会だからはっきりさせよう。


「で、姫那。いい加減自分のポーションは僕にたからないで欲しいんだけど」


 ばん、とテーブルに手を着いて、姫那をにらむ。姫那はしばらく目をぱちぱちと瞬かせたあと、びっくりしたように口元を覆った。


「そんな――」


 ようやっとわかってくれたか。迷惑だってことに。


「――皐月さんからたかれって言うの!? それなんて鬼畜!」


「ナンデそうなる!?」


 つか鬼畜はないだろう鬼畜は!?


「自分で買えって言ってるんだよ! それぐらいの金は溜まっているだろ!?」


 姫那と知り合ってからもう一週間が経過している。驚いたことに出会った当初が初ログインだったという彼女は、初心者だということを盾に無理やり僕とメンバーアドレスを交換し、そしていつもいつの間にか現れている皐月と三人でチームを組んで冒険している。

 とはいえ、皐月は実力が違いすぎるのでいつも後方に下がり、簡単なアドバイスをするだけにとどめているので、実質的に戦っているのは僕と姫那の二人だけだ。当然舞士である姫那は中距離専門なので、前衛は僕のみになる。一応舞士の専門であるサポートはやってくれるものの――それが、問題だったのだ。


 このゲームのステータスの大部分は初期に決める種族と職業と属性、そしてエディットのときに振り分けるステータスポイントというポイントに左右される。

 振り分けられる項目は、体力、筋力、魔力、知力、技術、速度の計六つ。体力を上げるとHP系のスキルを習得するためのSP量が減少すると共にHPの自動回復量がアップする、といった具合に、魔力はMP系、技術は職業系、速度は俊敏系、筋力は攻撃力や攻撃スキル系、知力は魔法系とそれぞれが重要な役割を持っている。振り分けることが可能なポイントは全部で12ポイント。平均でも2ポイントずつ振り分けられる計算になる。


 ちなみに僕は、体力と魔力をそれぞれ1、技術と筋力、知力を2、速度を4ポイントずつ振り分けている。僕の属性が風ということもあって、速度重視の配分だ。その分攻撃力は低いけど、多彩な技でカバーできるようなスキル構成となっている。


 そんな重要なステータスポイントを、姫那は事もあろうか速度全振りという意味がわからないことをやっちゃっているのだ。


 地属性である姫那はただでさえ俊敏性を上げにくく、ステータスポイントを割り当てたとしても俊敏系スキルを習得するためのSPの減少量はすずめの涙といってもいいぐらいに少ない。僕もさほどよく知らないのだけど、地属性を選ぶときは、速度に振るステータスポイントは0か1ぐらいに押さえ、他を体力と魔力、職業によって魔力か筋力に振り分けるというのが基本らしい。

 そんな基本をまるっきり無視した豪傑はというと、ここまでくれば僕の理解の範疇を超えているというのに、さらにとんでもないことをやってのけていた。


 昨日のことだ。一週間近く行動を共にし、曲がりなりにも皐月という最強の一角に名を連ねる存在が加入してるパーティであるというのに、姫那はさっぱり強くなった様子がない。いくら僕でも数日でまともに戦えるようにはなっていたというのに、である。

 それを不思議に思い、問い詰めた僕に返ってきた答えは、もうある意味で笑うしかないものだった。なんとこいつは、習得したSPを全部舞踊系スキル習得に当ててしまっていたのだ。


 もうわけがわからない。当然魔力にステータスポイントを振っていない姫那はMPが極端に少なく、回復量も少ない。ので、一度踊ればすぐに魔力を回復しなければならないのだ。もう頭が痛くなってくる。

 いくら楽しみ方は人それぞれとはいえ、いくらなんでもこりゃーないでしょーが。


 そうして、そんな偉業を達してのけたお姫様は二日連続で詰め寄る僕にからからと笑った。


「ごめーん。さっき魔法屋で全財産使っちゃった」


「……は?」


 思わず呆然とする僕に、姫那は後ろ頭に手を当ててぜんぜん反省していなさそうに頭を下げてくる


「いやー、皐月さんに魔法屋にまだいったことがないって言ったらね、連れてってくれたのよ、魔法屋。で、つい、衝動買いってやつかな? 思いっきり買っちゃって。てへ」


「てへ、じゃねえええええええええええええっっっ!!!」


 ばんばんばん、とテーブルオブジェクトを叩きまくる。あー、もう、なんていうか

、あれ。泣きたい。


「君、それだったら賃貸HOMEどうするつもりだよ!? まだ初心者だろ!? 最初の家賃は初ログインしてから一週間後だぞ!?」


「ああ、それなら大丈夫」


 錯乱する僕に対して、姫那はというと落ち着いたものだ。たぶん、家賃分のお金は取ってあるのだろう。さすがにそこまで莫迦じゃ――


「さっき追い出されちゃったところだったのよ。今日から泊めてね?」


「ざっけんなあああああああああああああああああああああっっっ!!!」


 僕の咆哮が天地を貫いた。


「なんで! 賃貸! HOMEから! 追い出されるんだよ!? そんな馬鹿見たことも訊いたこともないぞ!?」


「や、目の前にいるよ? だから見たことはあるじゃん」


「問題が違うよ馬鹿!」


 はあはあ。

 もう何がなんだか。


「くっくっく」


 しかもなんだか皐月は笑ってるしな!


「皐月……頼むから皐月からも姫那に何か言ってくれ」


 すがるような視線を向けると、皐月は笑いをやめ、そして真剣な表情を僕に向けてきた。


「――姫那の教育は全部君に任せているだろう?」


「……。それは何のつもりで言っているのかな皐月」


「一度言ってみたかったんだ、この台詞」


「答えになってねええええええええええええっっ!!??」


 もう、何か精も根も尽き果てた。

 僕はどっかとイスに腰を押し付けると、べたり、とテーブルに顔ごと突っ伏した。


「おや、もう終わりかい?」


「疲れた」


「寝落ちは電気代の無駄だよー、ソージ」


 当然、それはわかってるし、今はまだ寝落ちするような時間じゃない。――それにそもそも、彼女の言う寝落ちというものを、僕はできないのだ。


「しないよ……本気で疲れただけ。……僕ってさ。普通にこのゲーム楽しみたいだけなのにさ。何でこんなに疲れなきゃいけないのさ」


 さめざめと泣きながらつぶやく。


「っていうかさ、何で皐月のような雲の上の人が僕と一緒に冒険してくれているのかがわからない」


「……ふむ。前も言ったような気がしないでもないがね。まあ端的に言えば、だ。君が面白いからだな」


「同文。ついでに皐月さんがいるし」


 愉快そうに口の端を吊り上げる皐月に追随するかのように、姫那が付け足した。その返答に、僕は大きくため息をつく。


「はああああああ……」


「くっくっく、そんなにいやならもうこのゲームをやらなければいい」


 そんな僕に、皐月はからかうように言ってくる。

 ――ほんと、微妙に意地が悪いから困る。


「わかっていて言ってるだろ、皐月」


「何。気のせいさ」


 まあ、端的に言って。

 僕は――



 

 ――ログアウトが出来なくなっていた。







次はナツキ編の予定です。

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