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ナツキ3



ナツキ3



 人気のない路地に連れ込まれ、私は戸惑いながらも二人に向き合う。


「だからちょっと待ちなさいって、訳わかんない。そんないきなり決められても……」


 おろおろとうろたえながら訴える私。みっともないとは思うのだけど、反面それは当然のことだと思う。

 だって、よくよく見れば二人の装備品は相当高価なものだし、私のアヴリュスの魔眼でも殆どの解析ができないほど、その能力は次元が違う。おそらくトッププレイヤーの一角だろう。それも、二人とも。

 そんな二人が行くクエスト……確かにパーティを組んでもらって行ければ、SPは大量に稼げると思う。


 でも……そんな実力者が、まだまだ初心者である私をクエストに誘おうなどと、そもそもがおかしいのだ。

 


「ああ、あんたの考えはわかる。でも、ちっとぁ俺らの話を聞いてくれねぇか」


「……え?」


 マツカサが困ったようにぽりぽりと頭をかく。


「まあ、なんだ。こっちもな、ちょうど探していたところなんだよ。アヴリュスの魔眼の保持者をな」


「――は?」


 今、マツカサはなんていった? 『探していたところなんだよ、アヴリュスの魔眼の保持者をな』……? え、どうして、私がアヴリュスの魔眼の保持者なんて――


「気付いてなかったのか? アヴリュスの魔眼の保持者はな、その目が赤いんだ。真紅に限らず、通常エディットでは得られない色を持つものは、それぞれランダムスキルを持っている。この場合、真紅で目だから、アヴリュスの魔眼ってなわけだな」


 戸惑う私に、マツカサが丁寧に解説してくれる。


「ちょっとばっかり、厄介なことになっていてね……念のために、いや、危険をなくすために、できるだけのことをしていきたいんだ」


「それが……アヴリュスの魔眼ってこと?」


「そう」


 私の答えに、如月君はにっこりと笑って頷いた。しかし、その雰囲気は真剣そのもの……何処からどう見ても、この二人はこの世界でもトップクラスの実力者だろう。アヴリュスの魔眼がうまく使えない今でも、それは良くわかる。そんな二人が、いくらアヴリュスの魔眼の保持者とはいえ、まだまだ実力がない私に協力を要請するなんて……何かあるとしか思えない。


「察しの通り」


 そんな私に、マツカサが肩をすくめて見せる。


「俺たちには、とある事情がある。ちっとばっかり、厄介な、な。だからこそ、アンタのように、まあ言っちゃ悪いが、弱いやつのほうがいいのさ。そのほうが、こちらの言うことをきいてもらいやすいからな」


「それを言ったら、貴方たちの思惑が外れるんじゃないかしら?」


「そうは言っても、な。どうやら俺たちは、ただの初心者に声をかけたわけじゃなさそうだからよ」


 そういって、マツカサはにやりと笑ってみせる。


「……どういう、ことかしら?」


「普通の初心者なら、僕たちの言葉をいぶかしんだりしないと思うよ? この腕輪、何処のギルドの証か、わかっているんでしょ?」


「……月の館、のでしょ?」


「その通り。しかも僕は太陰円卓なんだから。太陰円卓が地の席、如月! ちょーゆーめーじん!」


 エッヘンと胸を張る如月君に苦笑を浮かべながら、マツカサはその証である腕輪を指でつついてみせる。


「確かに、このところの月の館はチィッとばかしその理念から外れてきているがよ、それでも初心者に対しての態度はまだ変わっていねぇはずだ。事実、結構ウチのギルドのやつに助けられた経験はないかい?」


「まあ、あるけど」


 PKから助けてもらったこともあるし。


「それ以前に、こんなところに連れ込む相手をいぶかしんでも仕方ないと思うのだけど?」


「ま、それを言われちゃ困るんだがよ」


「他の一般プレイヤーに訊かれたくなかったんだよ」


 そう、如月君はポツリとこぼした。そして、とがめる風なマツカサと目線を合わせる。たぶん、個人メールのやり取りをしているんだろう。まだメッセンジャー登録をしていない私には聞こえないし。

 それからしばらく二人は私を無視して会話をしていた。そして数分。まとまったのか、マツカサが大きくため息をついた。


「……ま、こっちの事情を話さないで協力してくれ、ってのもどだい都合よすぎたな。仕方ねぇ」


「……そんなに厄介なことなの?」


 そんな二人の様子を見ながら、私は自分の予想がはるかに生易しかったことに気付いた。あの超巨大ギルドを統べる十二人の大幹部、太陰円卓の一席である如月君と、如月君に劣らないほどの実力を持つであろうマツカサが、ここまで渋るほどの厄介ごと……。

 確かに、初心者にはいえないことかもしれないが、しかしよくよく考えれば、この状況はおかしいのだ。初心者の私に、協力を申し出るという、この状況は。


 いくらアヴリュスの魔眼が珍しいランダムスキルとはいっても、総勢一万人を越える超巨大ギルドである月の館の中にアヴリュスの魔眼を持っている人はいるだろう。月の館の大幹部である彼らなら、その人たちに強制的に協力を要請することだって可能なはずだ。

 だけど、彼らはそれをしていない。その上、見つかるかどうかもわからない外部プレイヤーを探すという手段をとった。


 それが意味すること――って、まさか。


「……もしかして、ギルド内のゴタゴタか何かが関係しているの?」


「ま、近いな」


 マツカサは困ったように笑うと、ゆっくりとした動作で壁にもたれかかる。動くはずのないオブジェクトの壁がきしんだ気がした。


「ちっとばかしな、月の館内部で厄介なことがおこっているんだ。一応俺らは中立保ってるんだが、だからといって何もしないわけにもいかん。でだ、その中でちいっとばかし気になる事件が起きてよ」


「……気になる事件?」


「うん。――うちのギルドメンバーが、あるクエストの最中に意識不明になったんだ。リアルで、ね」


「――え?」


 マツカサから引き継いだ如月君の説明に、私は呆然と聞き返した。


 だって、うそでしょう。

 ――意識、不明って、……えぇー?


「問題なのが、意識不明になっちゃったメンバーが一方の派閥に属しちゃっていることなんだ。中立である僕らがこの件の調査をしていることがばれてしまったら、僕らがそっちに加担していると思われかねない。だからといって、僕は太陰円卓が地の席としてこの件を見逃すことは出来ないんだよ。ほんと、くだらない話だね」

「そのために、俺たちは単独で調査をすることに決めた。だが、一度そのクエストをやってみたものの何の手がかりもつかめなかったわけだ。そこで俺たちが目をつけたのが、成長すればゲーム内の全てのステータスを解析できる――」


「――『アヴリュスの魔眼』」


「その通り」


 私のつぶやきに意を得たりとうなずくマツカサ。


 ――まずいなぁ。

 何がまずいかって言うと、私の予想外の事態がおこりまくっていることだ。ここまで巨大なゲームのバックには、それなりの組織があるはず。……というか、あるのだ。警察上層部に圧力をかけられるほどの、巨大な組織が。

 そんな組織が、意識不明なんてとんでもない事件を隠蔽しないはずがない。そして、彼らも独力で解決に動いているはずなんだけど……。

 漏れてるよ。漏れまくっているよ。どうなってんのよ情報管理。いくら巨大ギルドの大幹部だからって、こんな危険な情報をゲットできるわけもない。と、なると――、……少し、カマをかけてみましょうか?


「……一つ、訊いていいかしら?」


「何?」


「その情報の出元は何? 確かにBBSの怪談話スレにはそれっぽい噂はあったわ。だけど、それだけで貴方たちが動くとは思えないのよ」


「……」


 私の問いに、マツカサは沈黙して如月君と視線を交わす。おそらく、また個人メールで会話しているのだろう。

 だけどまだ動かない。確証が持てているわけじゃないし、自信がないわけじゃないけど……でも、ここで無茶をしてもし目をつけられたら後々動きづらくなるのは目に見えている。今はまだ動くべきじゃない。


 それから数分。マツカサは何度か目を見開いたり、あわてたようなしぐさを見せるが、どうやら話し合いは終了したらしい。その表情は何故か疲れている。きっと、如月君に丸め込まれたのだろう。


 ……さて。何が出てくるかな。


「さっき、あんたも言ったが……」


 小さくため息をついて、マツカサがゆっくりと口を開いた。


「最初はほんの噂だった。BBSの怪談話スレにたまに載るような、な。俺たちもさほど重要視していなかったさ。というより、そんなのに見向きもしなかった。そりゃそうだ。言い訳するようだがな、月の館にゃ、毎日山のように依頼が来るし、相談も来る。いちいちそんな嘘クセェ噂に付き合っていられるほど、俺たちも暇じゃないんだ。だが、相談が何度もくるようになって、動かざるを得なくなっちまったのさ。困ったことに、点数稼ぎで、な。……で、ギルドメンバーの中でもそれなりの実力を持つ奴らにこの件が任された。俺たちからしても実力面じゃあそれなりに信頼していた奴らだから、まあ大丈夫だろってことで事を楽観視していたわけだ。だがな、二ヶ月たってもそいつらが報告に現れもしねぇしメールの応答もねえ。そいつと親しい奴らにも聞いてみたんだがな、ここしばらく見てねぇ、っつうんだよ。――ここまでくると、さすがに俺たちもおかしく思ってな、そいつと個人的にリアルで付き合いのあったやつに声かけて、念のため俺がリアルでそいつと接触した。……そこで見たモンといやぁ、まさに予想外のモンだったぜ。病室でごてごてした生命維持装置につながれた、そいつの姿だったんだからよ」


「――」


 ホント、姿どおり鬼が出てきたわ、これ。

 これが本当のことかは私には判断がつかない。だけど、信憑性はある。先輩の甥という実例が。


 さて……ほんと、どうたものかしらね。


「で、だ。全部話したところで改めて頼む。俺たちに協力しちゃあくれないかい? もちろん、そちらにゃあ危険が及ばないように全力で努力する。ぶっちゃけ俺たちでも何がおこるかわからんから、絶対の安全は保障できないんだがよ……なんなら、アカウントを貸してくれるだけでもいい。そちらの要求も出来るだけ飲む。金もアイテムも……あー……うなるほどっつーのは無理だが、しばらくは困らんぐらいなら用意できるし、SP稼ぎにも出来るだけ付き合う。だから、頼む」


 一気にまくし立て、マツカサが頭を下げる。


 正直な話、私は迷っていた。元プロというプライドから、もし仮にこのプレイヤーたちが普通のプレイヤーなら巻き込むわけにもいかないし、――ワールドワイドソフトの対策室のエージェントなら、同行してこちら側の情報が漏れてしまうのは、きつい、というか面倒くさい。


 だけど、これはやっと見つけた尻尾だ。まだしばらく地盤の強化をしてから、それから調査に乗り出すつもりだったけど、そうするにしてもそうそう都合の良い時に尻尾をつかめるとは限らない。と考えれば、これは少しばかり都合が良すぎるのが気にかかるという点を除けばこの手がかりは正直捨てがたい。

 それに、これから先お金やアイテムはいろいろと入用になるだろうし、おそらく彼らについていけばSPがもれなく大量についてくる。彼らほどの実力者なら、きっと短時間で私を中堅レベルに押し上げられるはずだ。


 だけどなぁ。

 それってなにか、純粋にゲームを楽しんでいないような気がして、何かアレだ。

 いやまあわかってはいるのよ。今はそんなこと気にしている場合じゃないってことぐらいは。だけど、一ゲームプレイヤーとして、ねぇ?


「おねがい、ナツキおねーさん」


「わかったわ。まかせて」


 ……あっるぇー?





次はソージ編を予定しております。


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