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ナツキ2



ナツキ2



「あははー。ありがとね、じゃ、また♪」


 SP稼ぎに付き合ってくれた上級者にお礼を言って別れ、私は次の手を思い浮かべる。このゲームを始めて二日。そろそろ操作にもなれ、本格的にソロ――もしくは同じレベルの人たちとパーティを組んで、クエストしてもいいころだろう。

 俗に言うパワーレベリングは確かに私の目的にも合致するけれど、何が手がかりになるかもわからない以上、できる限り地道に進む……これが、私のしばらくの行動方針だ。

 だからできるだけクエストなんかは総ざらいしているし、わざと無駄な行動もとってみている。

 決して、私が楽しみたいという訳じゃない。あくまで調査のためだ。うん。


「うーん。いい子いないかなー」


 大通りを歩きながら、きょろきょろと辺りを見回してみる。


 このゲームは、最初にキャラクターエディットする時、必ず一つはランダム要素が関わってくる。

 たとえば種族や属性。私は最初から選べるエルフ種だけれど、ランダム種族では翼人種や鬼人種、一人のプレイヤーも確認できていないけれど、公式でその存在が明らかとなっている龍人種などがそれにあたるし、ランダム属性では『光』や『闇』なんかがそれになる。


 私の場合、種族や属性はランダム要素はまるきりなかったけれど、一つだけおもしろいランダムスキルを習得していた。

 それが、『アヴリュスの魔眼』だ。森の属性神・エラドスレイテの第一眷属、グラム・エルフ。その太古の大英雄、アヴリュスが持っていたとされる魔眼らしい。とにかく、ゲーム上の設定ではそうなっていて、私はそれを使えるようだった。

 その能力は解析である。スキルレベルを上げていけば、この世界のありとあらゆる情報を解析できるようになるらしい。


「しっかし、わかるっていってもなー……」


 ただまあ、その成功判定にはステータスの他にもスキルポイント総獲得数も絡んでくるらしくて、今の私の現状では中級者程度ですら全く見えない。

 しかも回数制限なんてものまであるから、実は今のところあまり使えなかったり。困ったにゃー。


 思わず後ろ頭をぽりぽりとかく。とにかく戦闘に必要そうなスキルは習得したし、魔法もいくつか買った。私の属性である森の特性は、風と地と水、その特性が微妙に合わさった感じだ。オールラウンダーだといってもいい。

 だからこそ、私が選んだ職業は学者だった。学者は特に魔力や知力に優れているけどその反面耐久力は低い。いわゆる魔法使いタイプである。


 しかし、このゲームには純粋な魔法使いという職業は存在しない。魔法スキルというのは街にある魔法屋で巻物を買い、それを使うことによって習得できるのだ。

 では、そんな魔法使いタイプのステータスを持つ学者の最大の利点は何なのか――それこそが錬金スキルなどのアイテム合成スキルである。

 回復薬みたいなものから、魔法のような効果を持つもの、一時的に能力値を上昇させたりする効果を持つアイテムなど、様々なアイテムを作ることができるのが、この職業の最大の魅力となっている。

 そんでもってそういったアイテムを自分に使うことによって、それなりに戦闘もできる。


 また舞士には及ばないものの、習得できるスキルは支援系が豊富なため、うまく成長できれば支援に生産に戦闘にと様々な場面で動けるはずだ。まあ、しばらくは器用貧乏で過ごすことになりそうだけれど、今回の仕事を考えれば基本的にソロ活動がメインになるはずだ。

 となると、器用貧乏でもなんでも、ソロ向けのキャラにしなくてはならない。……成長させるのは、本当に大変そうだけど、まあそこは廃人プレイでどうにかしましょうか。


「……っと」


「きゃっ!」


 と、考え事をしながら歩いていると、いきなり出てきたキャラクターにぶつかった。体格の上ではこちらのほうが上だったらしく、向こうのほうが弾き飛ばされる。


「だ、大丈夫?」


 あわてて駆け寄って、手をとり起こしてあげる。167センチ設定の私よりも頭三つ分ぐらい低い身長の男の子だった。この小ささなら、弾き飛ばされても仕方がないかもしれない……って、涙目だよこの子。


「うぅ……」


「ご、ゴメンね! 大丈夫?」


「……うん」


 男の子は小さくうなずくと、ごしごしと涙をぬぐった。そして私のほうを見上げる。


「こっちこそごめんなさい。ちょっと急いでいたんだ」


「ううん。私のほうも考え事をしていたの。だから、私も悪いわ」


 私の言葉に、男の子は少しうーんと考え込み、そして数秒。にぱっと笑顔を作った。


「じゃあ、お相子だ!」


「……そ、そう……ね」


 どうやら外見同様幼い子がプレイしているらしい。まあ、『演じて(ロールして)』いる可能性もあるんだけど。


「おねーさんはなんて言うの?」


「お、おねーさんっ!?」


 いけない。思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。でも、おねーさんなんていまだかつて一度も呼ばれたことのない言葉だ。何か、ムズ痒い。あれ? 何か鼻の奥がむずむずしてきた。

 ……どうしよう、この子お持ち帰りしちゃって良いかな。


「ええと……ナツキって言うの」


「ナツキおねーさんっていうんだ。僕は如月っていうんだ!」


「あ、ええと……うん」


 一体この子はなんなんだろう。と、どう反応すればいいのか考えあぐねていると、私たちに声がかかった。いや、性格には目の前の少年――如月君に。


「如月! こんなところにいたのか」


 突然大声が聞こえてきる。その出元はすぐにわかった。何せ、普通のキャラよりも一つぬきんでてでかい大男が、こちらに向かって手を振っているんだもの。

 身長はたぶん2メートルを超えている。筋骨隆々とした上半身には申し訳ない程度の皮の鎧を装備し、その背には巨大な戦斧がくくりつけられていた。――『アヴリュスの魔眼』起動、成功。でも、ステータス差がものすごいせいで属性と種族ぐらいしかわからないわね。

 属性は――火、ね。種族は……あら珍しい。鬼人種じゃない。その証拠に、額には立派な角が2本飛び出ている。


 確かに、鬼人族ならあの大きさも納得がいくわ。

 鬼人種の特徴は、何よりもその強靭な肉体が挙げられる。その耐久度は、唯一の例外を除いて全種族中NO1を誇り、加えて筋力の伸びも全種族でもトップクラス。

 さすがはランダム種族なだけはあるのだけれど、まあ、その分鈍重で移動速度も全種族中最低ランクなせいで、あまり人気がなかったりする。


「ったく、なーんで約束どおりの場所にいねーんだよ。探し回ったじゃねーか」


 鬼人族の大男は、その体躯から想像がつくとおりの粗野な物言いで、男の子にデコピンを当てる。って、うわ。いたそー……涙目になってるし。


「うぅ、ひどいよマツカサ~……僕だって頑張ったのに……」


「お前はトロすぎんだよ如月。すばやさ高いくせに日常遅すぎ」


 マツカサと呼ばれた大男は、如月君の頭にぐりぐりと梅干を決める。このやり取りだけでも力関係は明白だった。たぶん、マツカサって言うのが保護者なんだろう。如月君の。

 と、お仕置きに満足したのか、マツカサが私のほうに顔を上げた。


「……と。別嬪さんいつまでもほっぽりだしとくわけにゃいかねぇか。俺はマツカサ。見てのとおり鬼人族の三次職、重装剣士だ。で、こいつは如月。見てのとおりのガキンチョ」


「うー……ひどいよマツカサー」


 如月君はじたばたとあがいてマツカサの梅干から逃げようとしているけど、マツカサは巧みに力を調節してうまく逃げられないようにしている。この動きだけで、マツカサというプレイヤーが相当の実力者だということがわかった。


「いらいいらいよぉ……」


 すでにろれつが回っていない。


「ったく」


 その様子に満足したのか、マツカサはにやりと笑って梅干をといた。その瞬間、マツカサの肩に飛び上がった如月君のハイキックが、マツカサのこめかみに決まる。


「――え゛」


「づあっ!?」


 思わず顔が引きつり、マツカサもよろめきはしなかったものの顔をしかめる。びっくりした。あの如月君があんな動きができるなんて。……って、感心する私もひどいなぁ。


「痛いって言っているじゃないかマツカサ! このパーティのリーダーは僕なんだぞ!」


「あー、はいはい」


 ぷんすかと怒る如月君を、保護者……もといマツカサがあやす。その光景を見て、私は思わず噴き出してしまった。


「お、ほら笑わられたぞ如月。いつまでもぐずぐず言っているからだ」


「違うよー。マツカサの無駄にでかい図体に笑ったんだよ、ナツキおねーさんは」


 そーだよねー、と同意を求める如月君に、私は思わずどうしようかと硬直してしまう。うっ、そんな求めるような上目遣いで見上げないでよ。何か萌え心がずきずきと。萌えって何よ。


 助けを求めるようにマツカサに視線を移すと、彼は苦笑を浮かべてうなずいた。同意してやれといっているのだろう。……了解です。一応、ごめんなさいとあやまっておく。


「う、うんそうだね……」


「ほらっ、きいただろマツカサ! お前が原因だぞー!」


「あー、はいはい」


 私の返事をきくと、如月君は嬉々としてマツカサの周りを飛び跳ねる。当のマツカサは聞く耳を持っていないが。

 そしてしばらくマツカサの周りを飛び跳ねた後、如月君は驚くべきことを口にした。


「よし決めた! あのクエスト、ナツキおねーさんも連れて行こう!」


「……は?」


「おい、ちょっと待てって……って、まさか」


「うん、そう。彼女、僕たちが探していた――」


 私の意志などまるっきり無視した決定を聞き、私は――




「――『アヴリュスの魔眼』の保持者だよ」




 ――そのときすでに、運命にとらわれていた。




次もナツキ編の予定。


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