三話
少女はすっかり希薄になった身体を見て笑った。
「やっと…。やっとあなたのところに行ける。」
先に行ってしまった少年。
少女はずっと少年に会いたかった。
一人は想像していたよりもずっと辛かったのだ。
でもこれでようやく少年の許に行ける。
しかし不安があった。
人間たちは今のところ反省を生かして生きている。
だがそれが終わるのを少女は予感していた。
もうすでにかつてのことが忘れかけられている。
再び人間は間違いを犯してしまうかもしれない。
女神である少女が消えれば世界は震える。
守護神が消えたことを人間は感知する。
いずれ人間は神がいたことも忘れて、物事の本質を見なくなるかもしれない。
そうしたら、少年と自分が行ったことは無駄になってしまうのではないか…?
「…私はまだここにいるべきなのかな…?」
だが、削れて希薄になったこの身ではできることはほとんどない。
ここにとどまることもこの身では延ばせてせいぜい2、300年。
そこで少女ははるか昔のことを思い出した。
――維持する力は…きっと人間が補う。
少年の言葉。
少年は最期まで人を信じていた。
そして人間は少年の言葉通り、世界を維持する力となってくれた。
…ならば、自分も人を信じよう。
少年のようにちょっとした贈り物を残して。
雪がしんしんと降り積もる。
少年が消えたあの日と同じ、大きくてはかない牡丹雪。
真っ白な雪面で、少女はすべての人の心へ届くように歌った。
――どうか忘れないで
――白は黒くて
――黒は白くて
――目に見える色は違っても
――心は同じ
――心を澄ませて
女神は歌い終えると同時に少年の許へと旅立った。
はるか昔に起こったことは少女が心配していたように忘れ去られてしまった。
だが少女が歌った歌は今でも子供の遊び歌として残っているという。
…守護神がいなくなった世界は危なげながらも未だ存続している。
少年と少女が残した『贈り物』は今でもちゃんと世界を守っている。
最後までお付き合いくださりありがとうございました!