二話
白い雪に広がるのは神である少年の血。
音もなく倒れた少年はぼやける視界の中、少女がを捨てて走ってくるのを見た。
楔が壊れたのだ。
守護神を支配し続けていた楔は少女が死にかけているということで壊れた。
そのことに少年はほっとする。
「一人で消えないで!!私とあなたは二人そろっての守護神だよ!!」
少女は必死で少年を助けようと力を分ける。
しかし少年はやんわりとそれを拒んだ。
「その力は世界を治すために使ってくれ。
俺は、先に見守る側に行くだけだ。俺が出来ないことをしっかりやってきて欲しい。」
神である少年はこの世界で死んでも存在し続ける。
…少女とは遠い場所で。
「私は…一人は初めて。
たとえ戦っていてもあなたがいた、孤独ではなかった。あなたがいなくなるのは…寂しい。」
少女の涙が落ちては凍り、砕ける。
少年はそれを悲しげに見つめながら言った。
「それは俺も同じ。寂しく気長にお前来るのを待ってる。
そしたら、のんびりと世界を一緒に見守ろう?それまでは頑張れ。俺も最期に少しだけ手伝えるから。」
「手伝う…?」
「そう。俺だって守護神だ。消えるだけでしか役に立てないのは心苦しい。」
少年は悪戯っぽく笑うと力なくそのまま目を閉じた。
そして少年が目を閉じるのと入れ替わるようにして少年の、神の身体から光があふれ出す。
光は真っ白な雪面を駆け抜け、戦争によって生まれた人々の過ぎた『邪』を吸い取っていく。
光がすっかり消えたころには人々の中の『邪』も消え、神である少年の身体も消えていた。
――後は頼んだ。
少女の心にそう言って。
浄化の神である少女はすぐに動いた。
まだ『邪』のないまっさらな人間たち全てに言った。
――守護神の一人、男神がこの世界から消えました。
人間たちの心の『邪』をすべて引き取って。
この意味がどういうことか今の『邪』のない人間たちなら考えられると信じてる。
人間たちは弱い。『邪』はすぐに生まれるでしょう。
私もまた世界を癒すために力を使います。癒し終えたら私もいずれ消えるでしょう。
もう、守護神は世界を守れなくなる。戦いで私たちの力は削れました。
けれど『邪』と『聖』は表裏一体。
『邪』が現れれば『聖』も現れる。
私たちはもう一回やり直す機会を贈ります。
世界をどうするかは人間たち次第です。――
それから少女は誰にも見つけられない山の聖域で世界を浄化ために身を削り続けた。
何年も、何百年も、何千年も。
世界を浄化し続けながらも人間たちをずっと見ていた。
人間たちは最初、崇めていた守護神の言葉に混乱した。
女神を信仰するもの、男神を信仰するもの…それぞれはまっさらの気持ちで考え、考え、考えた。
…そうして自分たちの間違いに気づいた。
女神も男神も世界を守護していた守護神。
その守護神を無理やり戦わせ、世界を壊させてしまった。
人間たちは反省し、思い出した。
白と黒は同じ色。
光を混ぜれば白となり、絵の具を混ぜれば黒となる。
同じ存在であるけれども、目に見える色は違う。
でも実際は同じ存在。