一話
童話っぽくを心掛けて書きました。
白と黒は同じ色。
光を混ぜれば白となり、絵の具を混ぜれば黒となる。
同じ存在であるけれども、目に見える色は違う。
そのためなのか…なぜか昔から白は聖なるものとして、黒は邪悪なものとして考えられてきた。
でも実際は同じ存在。
…それは人間が忘れてしまった最初の真実。
雪がしんしんと積もっていく。
大きくてはかない牡丹雪。
そこに闇のように白いドレスを身にまとった少女と黒い服を身にまとった少年がいた。
「…何で…何でなのかな?どうして私達は戦わされているんだろうね?」
ぽたり、と赤い滴が真っ白な雪の上に落ちる。
「…さあ?もう理由なんて忘れてしまった。
人間たちにとって俺が邪なるもので、お前が聖なるもの。それだけだ。」
ぽたり、ぽたり…赤い滴の作る斑紋が増えていく。
二人の守護神は悲しげな表情で戦っている。
「…私たちはもともと同じ神。
なのに、こうして傷つけあってる。いくら続けても終わらない。」
「それは当たり前だ。
もともと俺たちの力は互角。決着などつくはずがない。
…人間が、それを望まなければ。」
元は少年が邪悪なものを受け止め、少女が浄化する。
男神が維持で、少女が癒し。
どちらが欠けてもいけない二人で一対の守護神だった。
だが、いつの間にか少年が邪なる神として。少女が聖なる神として崇められるようになった。
しばらく二人は静観していたが、ある日、二人は人間の手に落ちる。
そしていつの間にか二人を中心とした戦争になってしまった。
二人の意志は人間に支配されてしまった。
こうして時々、意識が戻っても二人の意志では戦いをやめられない。
そういう楔を人間に打ち込まれてしまったから。
守るべき世界を壊し続ける。
…それは守護神たる二人の存在が揺らいでいくことでもあった。
「私はこうなった今でもちゃんと役割を果たしているわ。でも…いくら浄化しても、癒しても、世界は清浄にならない…それどころか私達の存在を理由にどんどん壊れていく。なのに私の力は弱くなっていく…世界は守護神のせいで壊れていく。」
少女の翡翠の目から涙があふれる。
こぼれた涙はすぐに凍り、落ちて砕ける。
「それは俺も同じ。邪を受け止めても受け止めても増えていく。
俺が受け止められなくなってきている。
その上、お前を傷つけ、傷つけられて。意味のない戦いで俺達は力を削っている。」
少年もまた翡翠の目に涙を浮かべていた。
しかし想いと裏腹にお互いに剣を振り上げ、お互いの身体に突き刺す。
血が溢れ、白を赤に染め上げる。
神も存在し顕現している以上、生きている。
人間とは比べようもない力を持っていてもこうして傷つけあい、世界のために力を使えば当然弱っていく。
それでも…それでも二人は人間が気付くのを待っていた。
それぞれの神が同じであること。
この争いが無益であることに。
少年は血を吐きながら剣を引き抜く。
「だが、気付かない。人間たちは気付かない。
そしてこのままだと世界は守護神の手で滅ぼしてしまう。」
少女もまた同じように剣を引き抜いた。
「…うん。でも私たちではどうしようもない。
私たちの意志ではどうにもできない。」
「いや。どちらかが消えれば戦いは終わる。
…そうすれば人間たちも冷静になれるかもしれない。」
「無理だよ。私たちの力は互角。どうやっても決着はつかない。」
少女は首を振る。
だから、ずっとこの戦いは続いてきたのだ。
しかし少年は戦いが始まって以来、浮かべていなかった笑顔で言った。
「いいや。俺にいい考えがある。俺が俺を消せばいい。
簡単なことだ。今まで思いつかなかったことが悔やまれるくらいの。」
ふっと無邪気に笑う少年。
反対に少女は驚愕し、怒った。
「何を言っているの!?」
「そんな顔するな。
…ちゃんと考えた結果なんだ。
邪なるものを受け止める神が消えても、浄化の神たるお前が残ればどうにかなる。
反対だとだめだ。俺では世界を癒せない。」
少女は叫ぶ。
「だめよ!!私たちは二人で一対の守護神。
片方が欠ければ、意味がない!!消えるなら一緒よ!」
今度は少年が首を振った。
「それこそ駄目だ。
俺は維持する力でお前は癒す力。
…維持する力ではこの世界を救えない。今必要なのは世界を癒す力だ。
維持する力は…きっと人間が補う。
なんせ、守護神をも支配してしまうのだから。」
少年はそう言って、少女に向けていた剣を自分に突き刺した。